(1)国王、巨大モンスターを狩る
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王都の北東・タウルス公爵領。
人里からほど近い、草原。
(…………来たか)
人の身の丈の5倍はあろうかという巨大なモンスター、5頭。
彼らは驚くべき速さで疾走し、レイナートにまっしぐらに襲いかかる。
世にも恐ろしい人面に、たくましい獅子の身体。マンティコアと呼ばれる残虐な生物だ。
通常は人間と変わらない大きさのこの種族。しかし、この地で百年近い歳を重ねたというこの5頭は、ワイバーン並みの大きさまで育っていた。
巨大な獣が、眼前に迫る。
トン。
と、地面を蹴ってレイナートが跳躍した。
そのまま向かってくるマンティコアの一頭の鼻面を足場に、さらに飛ぶ。
軽業のように空を舞いながら、地上のマンティコアたちに向きなおる。
金属の籠手に包まれた腕を、武器のごとく差し伸べ、狙いをつけた。
上級武具具現化魔法――――
「―――〈死神の骨、八撃〉!!」
開いた手を中心に魔力が走って、黒い魔法陣を描きだし、大きな八つの白骨の矢がランダムに走り出す。
降り注いできた矢を目や頭に受け、暴れるマンティコアたち。
レイナートは腰の剣を抜きながら落ち、一番大きな個体の背に、ザクリと重力と体重をつかって剣を根元まで突きこんだ。
そしてダメ押し。
上級雷魔法、
「〈雷撃〉!!」
剣を通じて心臓まで雷撃を打ち込む。
巨体がゆらりと揺れ、レイナートが背から退いた一瞬あとに、地響きを立てて倒れ伏した。
「ちょ、意外と足速いんですね!!
ちょっと待ってくっださーい!!」
一方少し離れたところには、愛用の大槍で別の個体の首をぶった切る甲冑姿のベルセルカもいた。
繰り返すが、対峙しているのは、超・巨大なマンティコアである。
人間三人分ではきかないほど、首が太い。
それを、こともあろうに16歳の乙女が、槍の先端でぶった切った。
槍の先は大ぶりの剣で、その左右に、三日月を重ねたような側刃が突き出る、殺傷能力の権化のような愛用の槍。
それを自在に操るベルセルカの腕も、すさまじい。
槍をぐるぐる回して貯めた遠心力で、跳びかかる3匹目のマンティコアの腹をかっさばく。
その血を浴びながら、さらに懐に飛び込み、心臓を仕留める。
一方、レイナート。
大口を開けながら迫る、4匹目の喉奥向けて左手を構え
「<死神の骨、五撃>!!」
5撃の魔法矢をまとめて口の中に打ち込んだ。
口腔を貫かれ、脳を砕かれ、さらに頭まるごと黒い闇に包まれる。
奇声を上げながら、ズシン、と、地に振動を響かせ、絶命した。
そして最後の1匹。
隙をついて、後ろからレイナートを襲う。
その獰猛で残虐な口を開け、憎たらしい人間を一口に食い裂こうとした。
だがその牙も口腔も、がぶりと空を食んだ。
そこにいたはずのレイナートが、いない。
マンティコアの鼻づらの上へと、高く跳びあがっていたのだ。
再び重力の勢いを使いながら剣で精密に骨の間を突き、大動脈を切り裂く。
血の柱が、空に高く高く吹き上がった。
―――――巨大マンティコア5頭。
たった2人で、あっけなく仕留めた。
「おつかれさまですレイナートさまー。
ずいぶん大きなマンティコアでしたねー?」
「驚いたな。
あんな大きさのものがいるなんて」
けろりとして、まったく疲れた様子も見えないふたりは、かぶった返り血や武器についた血をぬぐった。
「……なんだ、なんなんだよ。
あの2人……」
巻き添えにならないように、遠巻きに彼らの闘いを見ていた現地の村人たちは、皆、自分の目が信じられずいる。
何度も何度も目をこすりながら、驚愕の声を口々に発しはじめた。
「あの化け物ども、5匹とも……。
いままで何百人食ってきたかわからない、あいつらを…!?」
「ハンターも冒険者も、今まで百人以上返り討ちにあってるのに!?」
「王都から来ただって?
しかも一人は女?
いったい何者なんだ…?」
それでもやがて、長年自分たちを苦しめていたモンスターが本当に死んだのだという事実を、実感できてきたのだろう。
次第に、村人たちの顔は笑顔になり。
歓声が渦のように皆を包んだ。
感極まったのか、泣き出す者まで出てくる中、村人たちの間から、一匹の黒猫が走ってきた。
猫は、ぴょぴょいっ、と、身軽にレイナートの肩に飛び乗る。
毛並みの良い、美しい猫だ。顔立ちも大変かわいらしい。
「さすが若とベルセルカ様。
おふたりが組んだら無双ですにゃぁ!」
と、しゃべった。猫が。
「“若”はやめろっつってるだろ」
と、眉根を寄せて、猫の鼻をつつくレイナート。
にゃー!と、猫が抗議した。
「でもよかったですにゃ。
きいてくださいにゃ!
オレ、待ち時間、村の女の子たちにモテモテで、かわるがわる抱っこしてもらいましたにゃ!」
「おまえ人が闘ってるときに何やってんの」
「ナルキッソス! 私も抱っこしてあげますよー」
「にゃにゃ!
ベル様から動物虐待のにおいしかしないにゃ!
助けてにゃ若!」
2人と一匹はしょうもない会話をしていたが、やがて村人の代表者たちが、にこやかにこちらに歩いてくるのが目に入った。
レイナートとベルセルカも居ずまいをただし、彼らが来るのを待った、そのとき。
「ああああああああああああああああっっっ!!!!」
甲高い少女の悲鳴が、広がる歓声を割って入ってきた。
「何してくれてるのよ!!!
人の獲物を、それも全滅させるなんてっ!?」
その人物は、呆れる村人たちの間を突っ切って、息を切らして駆けつけてくる。
ベルセルカよりもだいぶ幼い、かわいらしい顔立ちの少女が、涙目でキッとにらみつけた。
毛皮を巻き付けた、ぶかぶかの服からのびる細い手足。これもぶかぶかな毛皮の帽子と、腰まで届くアッシュブロンドの髪。
たしかに、服装は猟師のものに近く、背に弓矢、腰に大ぶりのナイフがあるが。
ん。人の獲物……?
「―――全滅はさせてないぞ」
「どこがよっ!!」
レイナートに無礼な口を利く少女にイラっとしたのか、笑顔のまま、拳をこきこき鳴らし始めたベルセルカを黒猫がにゃあにゃあと制止する中、かまわずレイナートは続ける。
「今回俺たちは、領主代行の依頼で、タウルスの人間と、名産の牛を食い荒らす、手配中の巨大な個体を仕留めただけだ。
ハンターや冒険者の仕事を奪うつもりはない。
マンティコアを狩って金に換えたいなら、手ごろな大きさのがまだいるぞ?」
「私が狙ってたのは、その手配中の巨大マンティコアだったの!!」
レイナートとベルセルカと黒猫は、顔を見合わせた。
「一頭あたり金貨一千枚!
一番大きいのは金貨五千枚だったのに!!」
「えーと……? 失礼、しますね……?
―――中級光魔法、<透視>」
ベルセルカは、自分の右の目に魔法をかけた。
エメラルド色の瞳が、ルビーのように赤く染まる。
彼女が得意とする、透視分析魔法だ。
少女の全身をくまなく調べてみる。
装備……普通。保持魔力……ほぼ皆無。戦闘訓練を受けた形跡なし。猟の技術あり。
――――せいぜい、自分の身体の大きさと同じぐらいの獣が妥当なところだ。
それ以上の大きさのモンスターに挑めば、食われたであろうと目に見えている。
それでも、少女は、わめき続ける。
「ふざけないでよ!
プラチナメイル着たお貴族様が、庶民の狩人の一攫千金のチャンスまで横取りするんじゃないわよ!!!
バカー!!! バカバカバカバカ!!!
こっ、これで…みんなの身代金も払えると思ったのに……」
ん、身代金!?
と、レイナートたちが突っ込む間もなく。
ぶわっと、少女の目に涙があふれたかと思うと。
「うわぁぁぁぁぁぁんっ!!」
と、大泣きし始めるのだった――――。
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