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暴かれた真実

翌日、玲奈は学校でずっと考え事をしていた。

「また本に何か書かれているのかな?」

勤がそれを見てこう言った。

「それが、死神のものだって本当なのか?」

玲奈は頷き、それを開いた。

「えっと…今度は、病院の近くの工事現場で女の人が転落事故に遭う?!」

「そんな…、またかよ。」

「また私達がやらなきゃ!」

玲奈は隣の席に目をやった。

「あれ、智君は?」

すると、眠い目を擦りながら智が教室に入って来た。

「おはよう…」

「智君、大変だよ!今度は女の人が事故に遭うって」

「何だって?!」

智は眠気が一気に吹き飛んだ。

「それは放課後すぐにでもやらなきゃな。」

「珍しく乗り気だね。」

智は何かに気づいたようにはっとなって、席に座った。

「なぁ…、智も死神って見たか?」

「ああ…、見たよ。でも、すぐに寝てたからあまり覚えてない。」

「そうか…」

勤は時計を見て、自分の席へと戻っていった。



放課後、梨乃は香澄のお見舞いに来ていた。

「もう動けるのね。」

「うん、あともう少しで退院かな。」 

香澄はゆっくりと歩いて病院の外に向かった。

「久々に外に出れて嬉しいな。」

梨乃はその後ろについて行く。

その時、真上から異様な音が聞こえたと思うと、鉄骨が工事現場から落ちてきた。

「危ない!」

梨乃はすぐさま香澄を庇うと、突風を起こして鉄骨を安全な所へ飛ばした。

「大丈夫…?」

香澄は頷いていた。

するとそこに、玲奈達がやって来た。

「梨乃姉ちゃん!良かった、無事だったんだ…」

玲奈が香澄を見てほっと胸を撫で下ろした。

「一体何の事?」

「実はね…」

その時、突然智が香澄の前に来た。

「無事で良かった。」

「あなたは…?」

香澄は何の事か分かっていなかったが、智はこう続けた。

「僕は剣崎智、あなたとは、前世で恋人だったはずでしたけど…。」

香澄は頭を抱えていたが、やっと何かを思い出したように頷いた。

「うん…それでどうしたの?」

「…もう一度、やり直しませんか?実は…あの時の事をずっと悔いてて、だから…」

すると香澄は頭を下げた。

「智君…ごめんなさい!」

一同は開いた口が塞がらず、智は呆然と立ち尽くしていた。

「前世とか、そういうのよく分からないんだけど…、智君、私は私であって前世の私じゃない。だから、あなたにはそういうのにこだわらず、自由に生きて欲しいんだ。私にだって、大切な人が居るから。だから、こういう答えになってしまった…。」

「そうですか…」

智は俯いてその場を去ろうとする前、玲奈にポツリとこんな事を呟いた。

「僕、探偵団辞める事にするよ。」

「あっ…」

玲奈が呼び止める前に智は消えてしまった。



香澄は病院に帰ってしまった。

「一体、何だったんだろ…」

「あいつ、最後まで何か分からない奴だった。」

すると、目の前におじいさんが現れ、梨乃の横に来た。

「お祖父ちゃん!」

それは梨乃の祖父である守だった。

「どうしてこんな所に居るんですか?」

「人の死を察してここに来たんだ、だけど無事だったようだな。」

「そうですか…。」

その時だった。突然周囲が暗くなり、遠雷が聞こえた。

「何か、嫌な予感がする…」

勤が梨乃の袖を掴んで震え出した。

そして、背後から何かが現れたと思うと、玲奈が持っている本が取られていた。赤茶けた和綴じの本は、青い宝石がはめ込まれた分厚い本へと変わった。

その方を見ると…、いつか見た死神が一同を見ていた。

「死神……、」

玲奈の目が赤く見開き、死神を睨んだ。周囲の『風』は乱れ、荒れ狂っている。

「何これ?!流れが違う!」

「玲奈、落ち着けよ!」

玲奈には静止の声が全く届いてなかった。

「死神め…何がやりたかった?」

「別にお前らに言うことじゃないだろう?まぁ…、これでお前も用済みだ。」

死神は背中を向けて立ち去ろうとする。それを玲奈は指さした。

「そうだ…、あいつの…死神の正体は………、智君、だ…。」

それを聞いた次の瞬間、死神は鎌を取り出し、紫色の斬撃で玲奈を斬りつけた。

その衝撃で玲奈は倒れ、気絶してしまった。

「あっ…!」

「ちょっと、なんでこんな事をしたの?!」

死神は何くわぬ顔で消えようとしたが、勤がそれを追い掛け、死神の胸ぐらを掴んだ。

「お前…、死神が何か分かってないようだな。」

「ああ…何か分からないさ、ただ、俺はお前のやり方が気に食わない。何処かでコソコソして、俺達には何も知らせないで、一体何がやりたかったんだ?!」

勤は死神の仮面を掴んだ。

「あっ、その手を離せ!」

死神は、勤の手首を掴んで、それを止めようとした。身長は勤の方が高いが、力は強く、勤はとうとう仮面ごと手を離してしまった。

「あっ…!」

勤は死神の素顔を見てしまった。それは、目は紫色に光っているが、見知った顔だった。

「智…?」

智も驚いた顔をしていたが、勤が転んだのを見て、嘲るように笑った。

「まさか、こんな事になるとは俺も思わなかったよ。」

「智…、玲奈の言う通り死神だったのかよ…。」

「お前の怖がってる顔、中々見物だったよ?」

「なっ!」

勤は怒って掴みかかろうとしたが、梨乃に止められてしまった。

「勤君!やめてよ。そうだ、智君、あなたはどうしてこんな事をしたの…?」

智は目の色を元に戻して、うつむき加減になった。

「香澄を助けたかったんだ。俺はあの『死神の書』で香澄が死ぬのを知った。だが、俺の力ではどうする事もできない。だから、お前らを利用したんだ。」

「お前…俺達を利用したのかよ?!」

智は悪びれもなくこう言い放った。

「ああ、そうだよ。本当なら、お前らを利用するだけ利用して、捨てるつもりだった。

計画は、完璧だったはずなんだ。思い通りにいくはずだった、だけど…玲奈の狂気と梨乃さんの能力については全く予想してなかった。それと…俺の正体が暴かれてしまうこともな。フッ…俺が馬鹿だった、お前らに頼まなきゃ良かった…。」

智はこのまま立ち去ろうとする。

「そんな…なんでよ!そんな事ならもっと早く言ったら私達も協力したのに…なんで一人で溜め込もうとするの?」

「言いたきゃ勝手に言えよ、俺の気持ちはお前らには分からないさ。」

その時、守が智の前に立った。

「君は…廉の息子か?」

「父さんの事、知ってるのですか?」

「ああ…、仲良くしていたんだ。」

「あなたが…、父さんの理解人…。フッ、でもそんな人居る訳ない。」

勤と梨乃は憐れみに似た表情でずっと心配そうにしていた。それを見た智は、突然顔をしかめた。

「何だよ…そんな顔で見るなよ!怒れよ…それか憎めよ。俺はお前らを利用して、脅して、捨てようとした。それなのに…何だよ、なんで心配そうに見てるんだよ?!お前らの事、捨てきれなくなったじゃないか…。」

「智君の事、憎める訳ないよ。」

智は梨乃達に背中を向けた。

「まぁ、いい、俺の事なんて忘れろ。」

「智君!」

その時、玲奈が智の目の前に来た。

「お前…」

「あの、さっきはありがとね。狂気、断ち切ってくれたんだよね?智君が斬らなかったら私、あのまま一生過ごすのかと思ってたよ…。」

すると、智の身体が震え出した。

「何だよ…特に玲奈、お前は何なんだよ?!お前、俺がどんな酷い目に遭わせたのか分かってるのか?!俺は、お前を脅して、利用して、最後には斬りつけたんだぞ?!それなのに…、どうしてお前は笑って許して、しかも感謝までしてくれるんだよ?普通怒るだろ…、むしろ怒って見捨ててくれた方が気が楽なんだよ!」

智の目の前の地面が濡れだしたと思うと、智は涙を流していた。 

「それなのに…、どうして…。俺、なんで泣いてるんだろ、お前らと居ると胸が苦しいんだよ。思い通りにはいかないし、自分もだんだん分からなくなっていく。こんな苦しみ、お前らと会わなかったらきっと感じなかったんだろうな。」

「智君!」

すると、玲奈は智を抱き締めた。

「俺…人間を裁くから、感情なんて持たないようにしてたのに…。」

「温かい……。死神の身体も温かいんだね。」

「ああ…、死神って名前なだけで死んでる訳じゃないからな。それに、俺は火の死神だからむしろ熱いくらいだと思うけど…。」

玲奈は智を自分の胸に寄せた。

「智君って優しいんだね。だってさ、そうして香澄さんの事助けようとしてたんでしょ?やり方はちょっとあれだったけど…智君、必死だったな。」

智は頬を赤らめ、それを隠すように玲奈のシャツを顔に当てた。

「俺に、優しくするなよ…。」 

すると、智は声を上げて泣き始めた。涙で玲奈の白いシャツも、オレンジのベストもびしょびしょに濡れてしまったが、それでも智は泣き続けた。

「強がってるだけが、強みじゃないよ。今まで苦しかったんだよね?これからは、私達の事、もっと頼って良いよ。」

守や梨乃、勤も智の元にやって来た。

「人を助けるのもまた、死神の役目だ、って廉は言ってたな。」

「あの時、俺はただ、玲奈の狂気が気に入らなかっただけだった。でも、今は…なんとなく父さんが言いたい事が分かったような気がする。これからも玲奈の、みんなの側に居たい。みんなの事を守りたいって思ってるんだよ。」

「智…。」

智は涙を拭って、みんなの方を見た。

「ねぇ智君、またみんなと一緒に死出山怪奇少年探偵団をやろうよ!」 

「あぁ…、これからも、よろしくな!」

智は眩しい笑顔を見せた。空はいつの間にか晴れ、澄み渡った青空が広がっていた。

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