『3』CW
「と..いうわけじゃ」
老人は最後に複雑そうな表情を浮かべ、話の終わりを告げた。
「んーっと、話が壮大すぎてよく分かんないんですけど..」
取り敢えず幾つかある疑問点から
1番気になることを聞くことにした。
「その...優秀な研究員っていうのは誰なんです?」
答えは分かりきっている。
「...唯くんじゃよ」
やはり、そうであったか。
なぜこの老人が初めて俺をみたとき、少し申し訳なさそうな
顔をしたのか。悲しそうな顔をしたのか。
普通に考えれば不自然というものだろう。
「無事..なんですか?」
平常心を装ったつもりであったが、
少し語気が強くなってしまった。
「あぁ、無事だと思う。あちら側は盟約で危害を
加えることはできないはずじゃ」
「さっき言っていた適性検査っていうのは
『CW』っていうやつの適性検査って認識であってますよね?」
「そういう事じゃ、唯希君には悪いが勝手に検査させて貰った」
老人の言葉は次第に尻すぼみになっていく。
「なんで...俺なんですか?」
「優秀な研究員であった唯くんの血を引いているのであれば、
あるいは、と思ったんじゃ」
老人は続けてこういった。
「君たちには本当に申し訳ない事をしたと思っておる」
老人の申し訳なさそうな態度に、何故か俺は
無性に腹が立った。
他に対処のしようがなければ仕方が無いだろう。
日本国民全員に適性検査を施すのは困難だろう。
何故、この老人なそういった言い訳をしない?
理由は簡単、己のした事を悪だと認めたいからだ。
悪だと認めたいから言い訳をしない。
では、それは何故か。罪悪感を感じていたいからだ。
己のした事が悪だと自分で認識していることこそが
最大の自己肯定になるからだ。
心底気に入らない老人だ。
だから、俺は切り込むことにする。
「じゃあ、『CW』を使って『干支の器』と
ゲームすればいいんですね?」
「あぁ、その通りじゃ、しかし、負けた場合死ぬかm」
「やりましょう」
「......うん?」
老人は凄く驚いた顔をし聞き返してくる。
「今..なんと?」
「だから、やります。
まあ母を助けるためですし、
適性検査ってのを
合格できたんだから大丈夫っしょ」
楽観的に言ったが本当は怖い。
当たり前だ、死ぬかもしれないのだ。
しかし、何より母を助けるため、
そして何より!
これはまさしく、
平・凡・脱・出!!の最高の機会だ!
こうやって、自分の良心に素直になれないところが
友達のできない理由だろうか。
ああ、恐らくそうだろう。
「まあ取り敢えずその『CW』ってのを受け取って、
今日は帰ります」
「あ..あぁわかった、では持ってくる」
そう言って老人は奥の部屋へと消えていった。
俺はため息をついて椅子に深く座り直すと
20代半ばぐらいの白衣をきたここの職員だと
思われるガタイのいい男が、話しかけてきた。
「おい、お前、本当にやる気か?
死ぬんだぞ?わかってるのか?」
「えぇやりますとも
平凡は嫌なんで」
「なんだそりゃ?」
男はハハッとわらって、
「一応念のため、これ持っとけ」
と言い、1本のナイフを差し出した。
「でも、ゲーム中の殺傷って大丈夫なんですか?」
「『干支の器』はこちら側が自分らを殺せる訳が無いと
判断して、そんな盟約は課していない、
逆に、あっちは『黒と白の盟約』でこちら側に対する
殺傷はできない」
「なるほど、でもどっちにしろ使い道無さそうっすね」
「まあそういわずに持っとけ、何も殺傷だけがナイフの
出来ることじゃない」
「そこまで言うならありがたく貰っておきます」
そうぶっきらぼうに言い放ち、俺はナイフを受け取った。
「俺の名前は日向遥だ。
困った時は頼ってくれよ」
「はい。ありがとうございます」
とか言っておきながら、俺は内心、
名前と顔面あってねー(笑)とか思ってたのは、
秘密だ。だってこの人絶対ケンカつよいもん。
「お前今名前が似合ってない、とかおもったろ?」
読心術か!くそ!いやまてまだそうとは限らない。
今から誤魔化しても遅くはないはずだ!
「いっいやぁ...そ、そんなこと全然思ってないっすよ、全然」
怪しすぎたろ俺!
「まあいいやとにかく頑張ってくれよ!」
日向遥はニカッと笑って去っていった。
ありがとう!見逃してくれて!
入れ替わるように老人が戻ってきた。
なにやら仰々しい箱を持っている。
「これが『CW』、手首にはめて使うんじゃ」
そう言って、メカメカしいリストバンド的なものを
俺に手渡してきた。
「こうですか?」
俺がそのリストバンドをはめた瞬間、
「あぁ、言い忘れておったが、
それはお前さんが消えるか、
『大罪の器』を滅ぼすまで外れんぞ」
とはめた瞬間に言ってきた。
「いや遅いですって」
「まあいいじゃろ、覚悟は決めたんじゃろ?」
俺はもちろんと返しておいた。
「『CW』の使い方のほうは真紀くんに聞いてくれ」
恐らくこの赤髪の女性のことであろう。
「あと最後に一つ、『干支の器』全てを集める必要はないが、
一応集めておいた方がみのためじゃぞ」
「わかりました。じゃあ今日のところは帰りますね」
老人の忠告を胸に、俺は研究所を後にした。