あのこのおうじさま
悩んでいましたが、方向性が決まりました
「ねぇさっちゃん、王子って分かる?」
ひときわ大きな一発を最後に花火は終わったようだった、余韻に浸るような沈黙を破るあいちゃんの一言は藪から棒すぎる。
肯定の意を頷きで伝えつつ該当の人物に思いを巡らせた。
王子、と言えば私たち行きつけのバーでたまに見かける人だったような。
何故王子と呼ばれているのかを知らなくても、あそこでは不思議な呼ばれ方をしている人がたくさんいて。
当たり前のようにみんなその名で呼んで、本人も応えているのだから私の思い浮かべている彼が王子なのだろう。
その王子がどうしたのか、という意図をこめて小さく首を傾げた。
「……付き合ってほしい、って言われちゃった。」
…………え?
最早それが口から出ていたのか頭の中だけでの疑問符だったのかも分からないくらい、一瞬で私は大混乱に陥っていた。
それがまだ、困ったような口調だったならどれほどよかっただろう。なのにあいちゃんのそれはどこか恥ずかしそうであり、満更でもないかのように聞こえた。
「ど、うするの?」
「付き合ってみようかなって思ってる。」
まなちゃんは?なんて野暮なことを聞きたくなった、あいちゃんはきっと前に進んでるんだ。
私がうじうじぐじぐじしてたから、颯爽と現れた王子さまにお姫様は攫われていった。
告白されるくらいだから以前から何かしらの付き合いはあったのかも知れない、でも、私はそれを知らなかった。
その事実にもまた打ちのめされる、勝手にまなちゃんの次点は私だと思っていた。
とんだ驕りだったのだろう、私はあいちゃんのことを何も知らない、知らされていない。
さっちゃん?といつまでも何も言わない私を気にかけてかあいちゃんが呼ぶ。
意を決して目線を合わせた、あいちゃんはきょとんとした顔だ。
ああ、私の気持ちなんてこれっぽっちも伝わってなかったんだ。
伝える努力をしなかった自分が一番悪いのは百も承知、それでも少しは感じくれているだろうというのは驕りだったのだとまざまざと感じさせられた。
どうして、なんて決まっている。あいちゃんにとって私は恋人たりうる相手ではないんだろう。
あんなにきらびやかだった夜景が色褪せる、私の走馬灯にはもう、出てこない。