あのこのすきなあのこ
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「さっちゃん!」
「あ、まなちゃん!久し振り!」
相変わらずいつものバーでひとり酒を決め込んでいるところに来たのはまなちゃん、珍しく1人だ。
婚約者と言っていいのか、私も仲のいいアイツの仕事の転勤に付いて行ってまなちゃんは隣県に引越した。
徒歩30秒(!)の位置に住んでいたのに車で1時間半の距離になってしまい、あいちゃんはぶーぶー言っていた。
「あ、私とりあえずビールで!さっちゃん今日は1人?」
「ん?うん、あいちゃん今日夜勤だから。」
隣に座ったまなちゃんは注文を伝えてこちらに向き直る、そして私の返答を聞いてクスクス笑いだした。
「何?私何か変な事言った!?」
全く身に覚えがないものの私が笑われている事は間違いないはずで、あわあわしながら訊くとその笑みがニヤリとした物に変わった……な、なんだ?
「いやぁほんとさっちゃんはあいちゃんが好きだねぇ。」
「えっ、ちょ!ゴホッ……。」
「わ、さっちゃん大丈夫?ごめんごめん、深呼吸して!」
まさかの発言に喉を通り過ぎかけていた赤ワインが返ってきそうになりむせ返る、この好きは友達としての好きだよね?私の気持ちを知ってる訳じゃないよね?
背中をさすってくれるまなちゃんを探るように見るけどわざとなのか視線を逸らされてしまった。
「はい、改めてかんぱーい!」
「……乾杯。」
「ぷはーっ!久し振りのビール美味しいー!!」
いい勢いでグラスの半分ほど飲み干していくのを恨みがましい目で見つつちまちまワインに口をつける、もしや私はからかわれたんじゃなかろうか。
そう結論付けたところでまたしてもまなちゃんが人の悪い笑みを浮かべた。
「さっちゃんの好きはそういう好きでしょ。」
「!?」
「私にはお見通しですぞー。」
どうして、とか、いつから、とか、言いたいことはたくさんあるけど動揺しすぎてどれも言葉になって口から出てこない。
ただただグラスを持ったまま呆然とまなちゃんを見つめるだけだ。
そんな私の反応も予想の範囲内だったのかチャームの柿ピーをつまみつつまなちゃんは某赤いモサモサのあいつのような口調でからかうように言葉を続けた、酷い……。
なのに突然その空気を引き締めて名前を呼ばれた。
「な、に…?」
「あいちゃんを幸せに出来るのはさっちゃんだよ、私じゃない。」
「え……。」
「だからさっちゃん、自信持って。」
何をどこまで分かっているのか、むしろ私の心まで全てお見通しなのかも知れない。
その位、まなちゃんの言った事は私が最近ずっと思い悩んでいる内容に合致していた。
私でいいんだろうか、まなちゃんではなく。
じわりと目尻が濡れていくのを感じる、それに気付いたまなちゃんが困ったように笑って私の頭を撫でた。
私の周りの人はみんな、私に優しい。
「泣かせてごめんね?お節介ババアしちゃった。」
「な、泣いてないよ!汗だよ汗!て言うかまなちゃんがババアなら私もババアじゃん!」
「なら2人ともババアって事でいいんじゃ?」
「よくないよ!せめてお姉さんでしょ!?」
しんみりしたのを吹き飛ばすようなやりとりにスッと涙が引いていく、さすがまなちゃん人生経験が違う。
ひとしきり笑ったあと私の頭をもう一度クシャクシャ撫でるとまなちゃんは立ち上がった。
「じゃ、下にアイツ待たせてるから!」
「えっ!?」
「次は結婚式かな?またね!」
そう言えばあと2週間で結婚式、て言うか下に待たせてるってどういう事!?
混乱している私をよそにサッと支払いを済ませてそのまま店を出ようとしているのを慌てて呼び止める。
「まなちゃん!ありがと!」
ふわりと笑ったまなちゃんは何の事か分かんなーいとうそぶきヒラヒラと手を振りながら扉を出て行った。
あの笑顔ズルい、そりゃみんな惚れるよ……。
台風というか嵐というか怒涛のように過ぎて行った感が否めない、でもお陰で少し心の整理がついた気がする。
「あいちゃんを幸せに出来るのは私、か……。」
噛み締めるように反芻すればほわほわした暖かい気持ちになった。