あのこのこころ
あの夜から何か変わったかと言えば何もないような気がする、けど、少しだけ
これは私の願望かも知れないけどあいちゃんの笑顔に明るさが戻ったような気がする
ほんのちょっとでも役に立てたのかなあ…
毎度お馴染みの炬燵に体を預けながら思案する
季節は少し進んでそろそろ炬燵は片付け時になっていた
「まなちゃんね、結婚するんだって。」
「え…?」
ふらりと炬燵に戻ってきたあいちゃんは今聞いてきたかのように言った。
だけど今日、まなちゃんは居ないし他の誰かが言ったという風でもない、それなのに唐突にそれを私に伝えたあいちゃんの意図が全く掴めなかった。
「結婚、するんだって。」
もう一度念押すように紡がれた言葉は私に向けての物なのかも曖昧で、まるで自分に言い聞かせてるみたいだった。
また泣いてしまうんじゃないか、ハッとして顔を上げた私は面食らう。あいちゃんは笑っていた、泣きそうにではなくいつも通りの笑顔で。
まだ1年も経ってないのに急だよねーと口を尖らせて言うあいちゃんからは特別な感情は読み取れない、
それはまるで仲のいい友達の急な結婚に少し寂しさを感じている、たったそれだけの様に見えた。
「さっちゃん?」
「ごめんごめん、何も聞いてなかったからびっくりしちゃった!」
訝しげに首を傾げてくるのに慌てて表情を取り繕う、一体あいちゃんはどうしてしまったのだろうか。
もし本当にまなちゃんへの感情を飲み込んでしまっているのなら喜べばいいはずなのに、素直にそうは出来なかった。
「願ったり叶ったり、て感じじゃないね?」
顔馴染みの所へ向かう背中を見送りつつ思案しているとぽふっと頭に乗せられた掌。
後ろから聞こえてきたみっちゃんの声は自分でも持て余している今の感情なんてお見通しのようだった。
伝わってくる手の温かさに鼻の奥がツンっとなって慌てて目を瞑る。
「ほら、さつき。笑って。」
頭の上にあったはずの掌は気付けば頬に移動していて、左右のほっぺが捕らわれるとぐいと首をみっちゃんの方に回された。
こちらを見ているその眼差しは今の私には優しすぎて要望通り笑えずはずもなく、目の前のみっちゃんの姿が滲んだ。
きっととてつもなく情けない顔をしている事だろう。
「あいちゃん、どうしたんだろ…。」
「さあ…さつきが分かんないなら私にも分かりっこないよ。」
答えの見えない問い掛けに首を振るみっちゃんにだよねーと言いかけた所で、でも、と言葉を続けられてそれを飲み込む。
「いつぞやのさつきとの話がなけりゃ、きっと泣いてたんじゃないかな。」
そう、なのかな…そうだったら嬉しいな
じわじわとみっちゃんからの言葉が染み込んで混乱の真っ只中にあった心が落ち着きを取り戻した。