こはくいろのゆうわく
トントントンと規則的な音は野菜が刻まれているようで、キャラに似合わず家庭的だよなぁなんて失礼なことを考えた。
みっちゃんとは共通の趣味友として知り合ってもう何年も経つ、ぶっちゃけ何年経ったのかはいまいち覚えていない。
あいちゃんまなちゃんの2人と知り合うよりずっと前からの友人なのは間違いなかった。
酸いも甘いも噛み分けたというか当たり前に一緒にいるので遠慮なんてものはとうの昔に置いてきていて、まさに気の置けない仲という感じだ。
でも、2人きりでこうやって同じ空間にいるのは久しぶりかも知れない、最近はいつものバーに繰り出してはうだうだしている私の愚痴を聞いてもらっていた。
そういえば、みっちゃんの浮いた話聞いたことないなあと思い当たる。
いつも私の話を聞いてもらってばかりだからか、みっちゃんの色恋に関しては出会ってから一度も耳にしたことがなかった。
三次元に興味ないパターン、かなぁ
またしても失礼なことを考えたのが伝わったのかみっちゃんがこちらに向き直って、ぴゃっと姿勢を正した。
ボーッと考えごとをしていた間は気付かなかったいい匂いが部屋に充満していてすんすんと鼻を鳴らす。
そんな私の姿を見てみっちゃんは小さく笑った。
「ふふ、何か小動物っぽいね。ほら、できたよ。」
差し出されたのはホカホカと湯気をたてていい香りのするスープだった。
細かくされた野菜たちがふわふわ琥珀色の中を泳いでいて嗅覚も視覚も刺激される。
グーーーッと突然私のお腹が大きな音を立てた、あぁお腹減ってるんだと自覚が湧き上がってくる。
そうなると俄然目の前のスープが美味しそうに見えてきてそわそわしてしまう。
そんな私の様子を今度は笑うことなく、ふわりと頭を撫でられた。
「食欲わいたっぽいね、よかった。慌てずゆっくり食べなよ?お腹びっくりするから。」
こくりと頷いてマグを持ち上げる、ホカホカのそれは猫舌の私にはまだ熱そうだったけれど逸る気持ちが抑えられずふーふーと一生懸命息を吹きかけた。
まだ早いかな?もういいかな?を繰り返してようやく口をつける。
そーっと傾けたマグから口内に入ってくるスープは努力の甲斐あって程よい温度になっていた。
コンソメの奥に感じる野菜の甘み、その加減が絶妙でほぅと息を吐く。
喉を通り抜けてじんわり温かさが胃の中に広がっていくのを感じた、優しい、優しいスープだ。