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連続投稿です。これでお仕舞いになります。


 世界樹の(もと)、根よりも深く、星の命と同じような流れの場所に一人、人がいた。いや、それはもはや人とは呼べず、星と同じような存在になっていた。だが、彼女には自我があった。化け物のようでもなく、人形のようでもなく、蟲のようでもない。彼女にはちゃんと人の意思があった。


 でも、それは幸運などでは無かった。寧ろ、拷問のようでもあった。星の命とほぼ同化している彼女は命の刻限が存在しない。それは殆ど無限に近い刻を生きなければならない。それを人の感覚で体験するというのは一体どんな風になってしまうのだろう。


 人の心は生きているだけで必ず磨耗する。それが百年、千年いや、もっとだとしたら。人は人として生きてなどいけない。だが幸いだったのが彼女は人であって人でなかったということだ。


 それでも彼女はしっかりと覚えていた。楽しい記憶と言うやつを。昔に遊んだ男の子との記憶を。


 この所、昔の記憶をよく思い出す。あの男の子と別れてから幾年もの年月が過ぎた。もうあの男の子は私のことなど覚えていないだろう。というよりも、もう生きてなどいないだろう。


 少し胸に飛来する【感情】があったがそれを押さえ込む。あの頃の私とは違うのだ。無自覚に【感情】で破壊を繰り返していた頃とは。


 ミラは男の子と遊んだ記憶を思い出す。そしてふつりと涙が溢れた。


 既に過ぎた歳月は十や二十等ではないのだ。もっと長い年月が過ぎてしまっている。もう、あの男の子に会うことはできないだろう。


 そう思った途端、胸が張り裂けそうな程に【悲しく】なった。これが駄目な行為なのは分かっている。しかし止まらないのだ。どんどん溢れて止まらない。


 【感情の魔女】〝ミラ〟は泣いた。たった一人の死を泣いて悲しんだ。少女のように泣き喚いて自分の【感情】を露にした。


「――大丈夫?」


 何処か懐かしく、しかし聞き覚えのある声がした。ミラは顔を上げた。そこには男の顔があった。


 似ていた。昔に遊んだ男の子と。雰囲気が、顔が、声が似ている。


 私の顔を見たその男は動揺を顔に浮かべ、そして【喜び】の感情を浮かべた。


「――やっと会えた」


 その言葉を聞いたとき私の中にあったものが瓦解した。この目の前にいる男は、昔遊んだ男の子なのだと。あの男の子は私のことを忘れてなどいなかったことを。ずっと私のことを探してくれていたことを。


 『魔女』とは人ではない、『霊体』だ。人としての規範を捨て去り、神に近付いた存在だ。だから『霊体』になった存在はもう輪廻を巡ることができない。


 そんなものになってまで私を探しに来てくれたと言うのだろうか。


 そんなことを思って、ふとその男の子の名前を聞いたことが無かったなと思い出す。


『――あなたの名前を教えてくれますか?』


 奇しくも男と女の問いが重なった。顔を見合わせ笑う二人。しばらく笑い合い、女の方が先に名前を告げた。


「――私の名前は〝ミラ〟」


「――ミラ、ずっと会いたかった。会って君の名前を知りたかった」


「叶ったね」


「うん」


「私も貴方の名前が知りたい。貴方の名前を教えてくれますか?」


「僕の名前は――」


二人はいつまでも、ずっとずっと寄り添い合って幸せそうにしていた。

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