びんぼうさん
「どうしよう……」
小さな女の子は困っていました。
身につけているのはボロボロの衣服。その上着のポケットにはいつのまにか穴が空いていていました。そのため大事なメモを落してしまったのです。
女の子はメモが落ちていないか、うつむきながら必死に探し回ります。しばらく歩いていると、えきいんさんに声をかけられました。
「お嬢さん、どちらに向かうのかな? よければ案内するよ」
えきいんさんはしゃがんで女の子と目線を合わせます。
「ええと……メモを落してしまいまして。落とし物に届いていませんか?」
礼儀正しい女の子です。目上の人にはしっかり敬語も使います。
「そのメモにどの駅で降りればいいかが書いてあったんだね。でも残念ながら落し物があったとは聞いていないんだ。お父さんやお母さんは近くにいないの?」
女の子は首を横に振ります。
「今からお母さんのところに行くんです。わたしの知らないお母さんの……」
女の子には複雑な家庭の事情があるようです。「お母さん」と口に出したとき暗い表情を一瞬見せました。
「お母さんは怖いの?」
「少しだけ…………でも大丈夫です。きっといい子にしていれば認めてくれると思いますので」
健気に頑張ろうとする女の子。えきいんさんはなんとしても手助けになってあげようと思い、一つ質問をしました。
「そのお母さんの家がどんなところにあるか、何か覚えてない?」
「ええと……お母さんの家から少し離れたところにお城があったはずです。あとはこのお金で行けるところです」
えきいんさんは女の子が手に握っていたお金を数えます。そして路線図に書かれた運賃に目を向けました。
「……うん、わかった。ここで間違いないはずだよ」
「ほんとに!? すごい! えきいんさんってなんでも分かっちゃうんですね!」
「ふふふっ、まあね」
女の子からほめられたえきいんさんは、うれしそうに、そして恥ずかしそうに、ほほを指でかきます。
「教えていただきありがとうございます。あともう一つ、何時の電車に乗ればいいんでしょうか?」
「今から三十分後の二番ホームに来る電車だよ。……そういえば荷物は何も持っていないの?」
「はい、お金はぜんぜん持たせてもらっていないので」
ぼろぼろの衣服。最低限のお金。これが女の子が持つ全てでした。
「そうかー、目的地に着くまで結構時間かかっちゃうんだ。本でもあれば暇つぶしができるんだけど……そうだ!」
えきいんさんは女の子を置いて急にどこかへ走って行ってしまいます。
――かと思ったらすぐに戻って来ました。
手に一冊の分厚い本を持って。
「はい、どうぞ。これで暇をつぶすといいよ」
「えっ、でも……」
「いいのいいの。遠慮しないで。もう読み終わった本だから」
えきいんさんは少々強引に本を渡そうとします。女の子は押しに負けて、しぶしぶその本を受け取りました。
「あれ? すごく軽い……」
受け取った瞬間女の子は驚きました。
分厚くていかにも重そうなその本は、薄いノートくらいの重さしかなかったのです。
「驚いたかい? 実はそれは魔法の本なんだ。それをしっかり読めば、お嬢さんも魔法が使えるようになるかもしれないよ」
「魔法の本ですか……」
女の子は魔法と言う言葉に興味が湧きました。物をタダでいただく申し訳なさより、魔法の本への興味に軍配が上がります。
「それではお言葉に甘えていただくことにしましょう。何から何まで本当にありがとうございました」
女の子は分厚い本を大事そうに両手でかかえて、切符を買いに行きます。
そしてその後、えきいんさんに向かってぺこりと一礼して、改札の向こうに歩いていきました。




