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ぞうさん

「う~ん、通れないぞ~」


 一匹のぞうさんが改札の前で立ち止まっていました。大きな体ではどうやっても前の改札を通ることができません。

 困っていたところにえきいんさんがやって来てくれました。


「すみません。体の大きな方は専用の改札があるのです。どうぞ、こちらへ付いて来て下さい」


「そうなのか~、了解した~」


 ぞうさんはえきいんさんの後を、のっしのっしとゆっくり付いていきます。

 このペースなら改札に着くまで時間がかかるでしょう。そこで、えきいんさんは少し世間話をすることにしました。


「これからどこへ行かれるのですか?」


「ちょっと動物園の方にね~」


「なるほど、それは安全なところに行くのですね。食料もありますし、敵もいませんし」


「安全かぁ~、でもおいらはおりの中だけじゃなく、いろんなところを見てみたいんだよなあ~」


 動物園に入るぞうさんにも思うところはあるようです。


「う~ん、一度入ってしますと外に出るのは難しいかもしれませんね」


「でも、諦めないんだ~。こう見えておいらは芸が得意だから~。いずれはサーカスからスカウトされるかもしれないんだぞ~」


 自慢げにふんすー、っと鼻息を鳴らすぞうさん。


 サーカスに入っていろんなところを歩き回る――それがぞうさんの夢みたいです。


「そうなるといいですね。……はい、着きましたよ。ここがあなたの通れる改札です」


 先ほど通れなかった改札のように、切符を機械に通すのではありません。ここではえきいんさんが切符を切ってくれる改札になっています。ぞうさんが通るのにも十分な広さがあります。


「それでは切符を拝見いたします」


 えきいんさんが手を差し出します。

 ぞうさんは長い鼻の先でつかんでいた切符を、えきいんさんの手に乗せました。

 えきいんさんは切符を確認します。


「へぇ~、特急を使われるのですか。動物園はここですか。人もいっぱい来るでしょうし、芸を見せ付けるチャンスは多そうですね。到着予定時刻は……」


 そこでえきいんさんの目が大きく開きました。切符を切ろうとしていた手も止まっています。


「どうかしたのか~?」


 ぞうさんも不思議そうに首を傾けて尋ねます。


「いえいえ、なにも。……ええと、ただ先ほどいろんなところを見て回りたいと言っていたので、特急はもったいないかと」


「もったいない~?」


「ええ。特急では外の景色を楽しむ暇もなく、気付いたら目的地に着いてしまいます。せっかくなら鈍行どんこう列車でゆったりと景色を満喫してはどうでしょう? 到着は遅くなってしまいますが」


「そんなのがあるのか~。別に急いでいないし、そうするぞ~。その方が楽しめそうだ~」


 ぞうさんは納得して、すぐにえきいんさんの提案を受け入れました。


「でしたら……はい、こちらの切符をお持ちください。あっ、料金は変わりませんので交換でお願いしますね」


 えきいんさんは鈍行の切符を切り、ぞうさんに渡します。


「教えてくれて感謝するぞ~。じゃあ行ってくる~」


 ぞうさんは、ばいばいと鼻を体の上で左右に振りながら、改札の向こうへのっしのっしと歩いていきました。


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