目覚めと出会い
あそこでもう少し奴の神経を逆撫でしない方法をとったら・・・。 こんな事には・・・。
「ん、んー・・・ ハッ!?」
あれ、ここは・・・えーと、病院のベッド・・・?あれ?でも、た、確かさっきまで俺はピッチに・・・。
「うわー!!起きたー!!」
「な、うぶぅ!?」
上半身、主に首辺りに大きな衝撃。打ち所が悪ければ二度寝していたところだ。
起きたばかりなので目が霞んで良く見えないのだが、多分俺は今誰かに抱きつかれている。えーと、声からして・・・女かな?・・・女だよな、うん。・・・誰かは分からないが、心配してくれる人がいるってのは有難い。
「良かったー!このまま目を覚まさないんじゃと思って心配しちゃったんだよー!?後始末どうすれば良いか分かんないし、困っちゃうなーって」
・・・前言撤回。多分この人俺自身の事は殆ど心配してない。
「だ、だ、れだ、や、やめ」
うぅ、懸命に話そうとしてるのだが、起きたばかりなので呂律が上手くまわらない。よくあることだよね。
「あっれー?覚えてないのー?私!冬華だよー、冬華!」
「ふ、ゆ、か?・・・・・・・・・?」
誰だ。・・・え、えーと、起きたばかりだから・・・ね、記憶が・・・ね?決して俺が視力最低だったり、舌足らずだったり、認知症だったりする訳じゃないんだよ?うん。
「忘れたの!?・・・・・チッ、もっときつく印象残しておくべきだった」
「え?」
「あ!いや、何でもないよ?」
・・・なんでだろう、すっごく不穏な予感と、寒気がする。それに、
「あ、のさ、ぁ、ひ、とつ、気になる事、があ、るん、だけ、ど」
先程より大分上手く喋れるようになった。これなら大方意味も通じるだろう。
「ん?なあに?」
とりあえず聞いておかなければならない事がある。今後の対応にも関わるし。
「えー、と、き、みは、誰?何、で、ここにい、るの?」
「・・・は?」
「だ、だ、から、君は、だ、れ?ど、うし、てここ、にい」
「ハァァッ!!」
・・・ベッドの隣にあった見舞い品の果物が入った籠が吹っ飛んだ。そして中に入っていた果物は、圧倒的回転量をほこりながらマットの敷いてある床に綺麗に着地。10点。
「は、はは・・・冬華さん・・・。い、一体どう、したのー・・・」
「いやぁ、何でもないですよぉ」
完全に何でもなくない目と敬語。
「あ、あー、お、俺、つか、ぬこと聞い、ちゃった?」
「・・・いえいえ、同じ家に住んでいる身なのに、全く覚えられていないこと、怒ってませんよー?」
「へ?」
同じ家に住んでる?あなたと?というかあなた誰?
「覚えてないようですね。えーえー、一緒に住んでますとも。春くんのご両親は二人共海外へ長期出張中ではないですか」
「そ、そうだっ、たっけ?」
信じられない。まだ夢見てんのかな。親が長期出張中?一緒に住んでるならなんで覚えてないんだ?てか、まず誰なんだ。
「えーと、そ、それに・・・ほら、足は・・・残念な事に、なっちゃったけど・・・」
俺が必死に思考の網を巡らせている時に、不意に彼女が言った。足?残念?何が・・・
「・・・え、え、いやあああぁぁぁっ!!!」
「わああぁぁぁっ!」
み、み、み、みみ、み、右足が無いいぃぃぃっ!
「ふ、ふぅー。び、びっくりさせないで・・・。え、えーと、覚えてるでしょ?・・・サ、サッカーの試合中に・・・その、折れた右足の骨が、動脈に・・・」
サ、サッカー?俺はサッカーをしてた・・・、サッカー・・・。
「おおおぉぉぉっ!」
「びくぅぅぅぅっ!!」
そ、そうだ、思い出した、俺、サッカーやってて、それで・・・試合の時敵のタックルで・・・
「もお!びっくりしたじゃないの!」
「イタッ!」
強烈な平手打ちが俺を襲った。心地好くない音が病室に響き渡る。理不尽、ダメ、絶対。
「・・それで、もう思い出した?」
「イタタ・・・ん・・・おう・・・思い出したよ・・・」
俺がそういうと、先程まで睨むような目付きをしていた冬華さんの顔はパッと明るくなった。
「はぁー、良かった。・・私、完全に忘れ去られたんじゃないかと」
「俺はサッカーをやってたんだな」
「・・・・・・・ウリャアアァッ!!」
さっき果物籠が置いてあった一本足の小さなテーブルが、真っ二つに折れて吹っ飛びました。器物破損です。
「さ、さっきからどうしたのかな?冬華さん?」
「・・・何でもねぇよ」
・・遂に・・・というか俺が起きてから5分もしないうちに冬華さんはヤンキーになりました。
「・・・大体、アンタ、もうサッカーできなくなっちまったのに余裕の表情だなぁ」
え?あぁ・・・確かに・・・。右足がなければ、サッカーなんかできないよな・・・。てか、そういえば俺、サッカー大好きだったんだよな・・・。小さい頃から父さんとかと欠かさず練習して・・・中学校の時には全国大会にも・・・。あの時は凄く楽しかった・・
「・・・あ、あれれ、どうしたの春!?なんで急に泣いて・・あ、わ、私の演技が恐かったのかな、あははー・・」
女子の前なのに・・・情けない。でも、何かすごく泣けてきた。涙が止まらない。思考回路が上手く繋がらない。但し、しっかりと分かることがある。今のが彼女の素だ。
「お、落ち着いてってばぁ。そ、そんなに泣かれたらなんか罪悪感感じるじゃない・・・」
・・・あれだけの事言っといて感じなかったら、多分正常な人間じゃないよ。
その後、先程までの態度とうってかわってオロオロしていた冬華さんから聞いた話によると、俺が所属していた高校は、あの強烈なタックルに俺が倒れた後、大事なPKのチャンスを外し一人少ない敵校にロスタイムで決勝弾を喰らったらしい。俺にタックルを喰らわしたアイツは、故意の攻撃と認められ、慰謝料の支払いと公式戦8試合出場停止を命ぜられたらしい。
そして彼女の話の中で、俺の両親が海外へ医者の仕事に行っていること、居候させてもらってる事は思い出した。ただ、彼女については何を聞いても殆ど思い出せず、どうしたのか彼女は「折角・・・」と呟きながら涙を流していた。・・・俺は、罪悪感を感じた方が良いのだろうか。




