9.彼女と彼の人情
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「相生………が」
好き、と。
山代は、確かにはっきりそう言った。
今日のここまでで一番はっきりと、意志を込めてそう言った。
相生・美樹が、好きだと。
「……………」
ほほう。
成程。
相生が好きなのね。
成程成程。確かに俺もよく知っている人物だ。
なーるなーる、なーるほどぉう。
「……………」
現実逃避をやめよう。
山代はまた俯いてしまった。また顔を真っ赤にして。
城ケ崎としてもいよいよ言葉に詰まる。
一体どんな言葉をかけろと。
「相生………が」
恐らく自分は今余程阿呆な顔をしていることだろう。同じ台詞を繰り返すことしかできなかった。しかしそれにも山代は律儀に頷く。
ほほう。
成程ね。
うん、俺は今かなりテンパっている。
兎にも角にも落ち着こう、と城ケ崎は再びブラックコーヒーを呷った。
先程は直接喉に流し込んだが、今度はわずかに口内で転がし、舌に広がる苦味を味わって思い切り顔をしかめる。
うむ。割と冷静になった。
これがプラシーボ効果という奴だろうか。いやちょっと違うか。
………えーっと。
山代さんは女性です。
相生さんも女性です。
山代さんは相生さんが好きなのだそうです。
「相生が好き………っていうのは、その、恋愛的な意味、なんだよな?」
また、山代は頷いた。
まあ、恋愛相談に来てるわけだし、な。
えーっと………
まぁたハードル上がったなあ!
頭を抱えたくなった城ケ崎だった。抱えないが。
成程確かにそれなら、相生には相談できないというわけも、相生に相談しないのかと問うたときに泣き出したわけも、これほどまでに山代が思い悩んでいるわけも納得できる。
相生に相談、できるはずもない。
しかし城ケ崎は経済学部だった。
こういうのはカウンセラーの出番とかじゃないのか。
臨床心理などかじったこともない。
人生初の相談事で、よもやここまで難しい相談を持ちかけられるとは。
正直自分には荷が重い。あっさり投げ出してさっさと明日に備えて眠りたかった。
だが。
そいうわけにもいかない………よなあ。
曲がりなりにも今までの仲がある。無責任に適当なことを言うわけにもいかないが、軽く受け流すこともできなかった。
友達、だから。
大学に入り、半ば望んでもいたとはいえ人間絶縁体となってしまっている城ケ崎の、それでも縁の続いている友人たちの話だから。
面倒事は嫌だし、厄介事は嫌だし、人間関係は嫌いなんだけれども。
これだけは、山代と相生だけは、城ケ崎にとっての『例外』だった。
面倒でも煩わしくても、それでも関わっていきたいと。
願わくば少しでも長くこの仲を保ちたいと思う、そんな二人なのだから。
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