7.彼と彼女の内情
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「────落ち着いた、か?」
一時間ほど、山代はさめざめと泣いて、その間城ケ崎はひたすら困惑し続けた。
ティッシュ箱を二箱空にして、なおも盛大に鼻をすすりしゃくりあげる山代を前にして、城ケ崎はようやく何かしらを考える余裕ができた。
状況を整理しよう。
まず真夜中だ。
突然電話がかかってきた。
山代からだった。
出てみると、何だか知らないが、いきなり来るという。
大慌てで床に散らばったゴミを破棄したり消臭スプレーを部屋中に撒き散らしたりしているうちに山代は本当に来た。
何かと問えば、恋愛相談をしに来たと言う。
そんな相談は同性であり親友である相生にしろ、と言うと、いきなり泣き出した。
号泣だ。
うむ。
とっ散らかり過ぎてもうどうにもこうにもわけがわからない。
黙っていると、山代はただたださめざめと泣くばかりで埒があかないので、城ケ崎はどうしたものかと思いながら、
「えーっと………恋愛相談、しに来た、んだよな?」
何を言ったものか、と考えながら、本当かよ、と確認がてらに問う。山代は目許を拭いながら頷いた。
「あー………ああ、うん。わかった。それはわかった」
もうこれ以上深くは問うまい。
「で、ええと、何で俺なんだ? 相生、はどうやら駄目、みたい………なのか?」
そもそも誰かに何かを相談されたのが生まれて初めてであり、しかしそれにしてもいきなり恋愛相談て。
ハードル高過ぎだろ。
城ケ崎は知らず渋い顔をした。
下手なことを言って面倒にもなりたくない。
「んと………何で俺なのか、は訊いてもいいのか?」
相生の方は触れない方がいいかもしれないとさすがの城ケ崎もそう思った。しかしわからないのはどちらも同じだ。
[相生が×→城ケ崎]の流れがわからない。確かに三人の付き合いは長いが、だからといって三人で閉じているわけではないのだ。人間絶縁体を自称する城ケ崎はともかく、相生にしろ山代にしろ、交友関係は広い。ならば、その恋愛相談というものが相生に持ち掛けることができないにしろ、他にもアテはいくらでもあるはずなのだ。
と、いうようなことをつらつらと考えながら山代の返事を待つ。しかしこれがなかなか返ってこない。山代はしゃくりあげるばかりだ。
何かしらの気持ちの整理が必要なのはそうであろうし、別に待つのはいくらでも構わないが、このままだと城ケ崎が寝落ちしかねない。
コップのお茶を飲み干すと、冷蔵庫へ戻ってブラックコーヒーを取り出した。それをコップに注ぎ直し、半分飲む。
本来甘党でありブラックコーヒーなど飲めない城ケ崎だが、目覚まし目覚まし、と自己暗示をかけながら腹の中へ降りていくコーヒーを意識する。
コーヒーにそんな速効性があるはずもないが、日頃から気付けにブラックコーヒーを飲んでいるからか少し目が覚めた。
加えて少し冷静になる。
待てよ、と。
別に、[相生×→城ケ崎]と直結しているとも限らないじゃあないか。
[相生×→A×→B×→………→(仕方なく)城ケ崎]かもしれない。
[(残念ながら)城ケ崎]かもしれない。
[(嫌々ながら)城ケ崎]かもしれない。
いや、その方がよっぽど信憑性がある。
巡り巡って城ケ崎、かもしれないのだ。
大いにありうる。
自分が二番目にアテにされるほど信頼されているなんて、随分と思い上がったものだ。
自意識過剰も甚だしい。
「……………」
しかし、そこはかとなく残念な気持ちがするのはなぜだろう。
………なぜだろう。
「────い、から」
「ん、ん?」
軽い自己嫌悪に陥っていたために、ただでさえ未だ嗚咽混じりで聞き取りにくい山代の声を聞き逃した。
聞き返すと、山代はたどたどしく、
「城ケ崎、しか、いなく、て………他に、いない、から」
「………そ、うか」
直結だった。
「………あー」
よせ。嬉しそうな顔になるな。
なぜ喜ぶ。
不謹慎だぞ。
内心で阿呆な叱咤をかけながらもおくびにも出さない。
しかしお陰でとにかくも目は覚めた。
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