3.彼と彼女の交情
●
真夜中、日付の変わる頃にようやくレポートを書き終えてそろそろ寝るかといったところで滅多に鳴らない携帯電話が不意に鳴った。滅多にないことだから必要以上におっかなびっくり手に取って見ると、『山代佳世』と表示されていた。
「………山代?」
珍しいな、と呟く。いや、別に言ってみただけで珍しいといえばそもそも誰かから電話がかかってくること自体が珍しいし、山代から電話がかかってくることなどこれまでに一度あったかどうかだ。
そういえば、ここ何日か会ってなかったな。
しかし、かかってきた時間も時間である。
何の用事だろうと通話ボタンを押し、そろそろと耳元に当てる。
「………はい、もしもし城ケ崎です」
『あ………城ケ崎?』
「ああ。えと、山代? 何の用?」
電話の向こうの声は確かに記憶にある通りの山代の声だった。訊くと、山代は歯切れ悪く口の中でモゴモゴと何かを言った。
「え、何だって?」
『あ、いやその、………今、どこにいる?」
「そりゃあ、自分の部屋、だけど」
アパートの自室を家と言っていいのか判断がつかず、いつもやや回りくどい言い方になってしまう。
「でも何で?」
『ん、今から行くから』
は? と訊き返す頃には一方的に切られていた。
「……………」
ツー、ツーと数度鳴って沈黙した携帯電話を口半開きで黙って見つめる。
今から来るって?
●