25.彼女と彼女の形情
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「俺は、後悔はしたくないからさ。できるだけ――――それまでの関係が、いっそのこと壊れてしまったとしても」
もっとも、それは勇気だとかそういうものではなく………自暴自棄、なのだろうが。
「そもそも、だ」
城ケ崎は、気持ちを少し前に戻した。動揺する前。
「お前は………相生が、お前の気持ちを知って、その上でお前を、その、軽蔑するかもしれないってことを怖がってるわけだけども」
軽蔑、という言葉のところで、山代はわずかに身を縮めた。
「どう、なんだろうな………俺は、相生はそういう奴じゃないと、思うけど」
山代は、わずかに視線を上げた。
「もちろん断言はできない。保証できない………けど、そう思う。相生は、それくらいのことで態度を変えたりはしない」
山代は、何も反応しない。
「それに、さ。仮に告白して、断られて――――失恋、したとしても、まあ確かにそれまでと同じ距離感ではいられないかもしれないけれど、崩れてしまうとも、思わない。――――お前と相生は、そんなに脆い人間関係じゃあないだろう」
詭弁だ。城ケ崎は、付き合いこそそこそこ長くなるが、そこまで相生のことを深く知っているわけではない。山代と相生の関係がどれほどのものなのか、それほどまでに深いものなのかどうか、わからない。
わからない、のだが。
――――それなら俺は、一体何を言っているんだろう。
城ケ崎は口を噤んだ。
中途半端な言葉なら、言わない方がいいのだろうに。
余計なことまで口走ってしまうのは、これも城ケ崎の悪い癖だった。
山代も、黙ったまま何も言わない。
そのまま、沈黙が続いた。城ケ崎は部屋に時計は置いておらず、時間の確認は携帯電話か腕時計なのだが、そのアナログ式の時計の音すらも、聞こえそうだった。
「――――それじゃあ、さ」
沈黙は、今度は山代が破った。
「仮に、仮にだよ。私が美樹に告白して、美樹がそれを受け入れてくれたとするよ。認めてくれたとするよ? でも――――そしたら、どうなる?」
「どう、って?」
訊き返すと、山代は自分の前の床を見つめたまま、とつとつと言う。
「そりゃあ、私だって、城ケ崎だけだとは思わないよ。他にも、認めてくれる人は、いるかもしれないとは、思う。でも」
でもさ、と山代は続けた。
「そうは思わない人だって、やっぱり、いるでしょ?」
城ケ崎は、咄嗟には何も答えない。
「変だって思う人だって、いるんだよ。きっと」
「………まあ、いるだろう、な」
「そういう人たちは、きっといろいろ言うよ。変な目で見るよ。距離を置くかもしれないよ。――――それが、私だけになら、私はいいよ。でも………でもそれは私だけじゃない。美樹にだって向けられるんだよ」
そういう言葉は。
そういう視線は。
そういう距離は――――
「私を受け入れてくれたばっかりに、私を認めてくれたばっかりに、美樹にまで辛い思いをさせるのは――――私は嫌だよ」
一息、
「そんな自分勝手は、駄目だよ」
だからさ、と山代は続けた。城ケ崎が何も言わずに見る中で、山代は、ゆっくりと顔を上げ、ぎこちなく、かなり強張った、無理しているのが見え見えの痛々しい微笑みを見せ、
「だから――――やっぱり、無理だよ」
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