23.彼女と彼の直情
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くっ、と山代の顎が上がった。眉を立てた表情だ。
「その程度って………!」
「その程度だろ。叶わない片想い。届かない恋心。まさか悲劇のヒロイン気取ってんじゃないだろうけどさ。堪えようと思って堪えられるようなもんなら、むしろ今のお前は悩み過ぎだ。一切合財何にも迷わず一択で忍んでればいいじゃないか」
ずばずばと、言う。
傷つける。
そして、
「城ケ崎っ………!」
山代が激昂して何かを怒鳴る前に、城ケ崎は、
いいか、これから俺はまさしく歯の浮く素面では真顔でまずもって言えない恥ずかしい台詞を言うぞ、と内心で前置きして、
「好きであることから逃げるな」
少女漫画かよっ!
と自分で自分に内心で突っ込んだ。
いや実際は少女漫画って読んだことないんだけれど。
「自分の気持ちから逃げるなよ。自分の気持ちに嘘をつくなよ。自分の気持ちを押し隠すなよ。自分の気持ちを、裏切るなよ」
一拍置いて、城ケ崎は断言する。
「後悔するぞ」
山代は、あっけにとられた表情で城ケ崎を見上げている。先の台詞の衝撃が強すぎたか。もうちょっと穏当な台詞を考えるべきだったか。だがしかたない、これこそ後悔してもしょうがない。
城ケ崎は、それらを既に口にしてしまっていて。
そして、まだまだ言葉にしていくのだから。
言う。
「それは間違いなく後悔する。お前は絶対に後悔する。相生に告白しなかったことを後悔する。最後まで距離感が上手く測れずに、曖昧なままに大学を卒業して、いつの間にか疎遠になって、形にならない気持ちだけが残って、こうなってしまうくらいなら、もし破綻してしまうかもしれなかったとしても、気持ちを伝えるべきだったと、後悔することになる」
生の感情を込めて、続ける。
十年後も、二十年後も、ずっと、延々と。
思い返すたびに、思い出されるたびに、後悔が付きまとう。
それまでがどれほど幸いな思い出に溢れていたとしても、ただ、最後の最後のその一つだけのせいで。
思い出は、その全ては、どうしようもなく色褪せる。
くすむ。
いつしか、できる限り触れずに済まそうと、思い出さないようにしようと………そんなものに、変わってしまう。
「――――本当に、後悔しないでいられるか?」
「それじゃあ、さ」
掠れた声で、山代が不意に言った。
「城ケ崎は、城ケ崎だったら、どうするの」
「俺?」
山代は頷いた。
「城ケ崎は、誰か、他の男子を恋愛的に好きになったとき、その人に告白するの?」
「…………………………」
一瞬、思考が止まった。
…………………………。
………えっと。
「………俺?」
自分を指さして、問う。山代は頷いた。
ふむ、と城ケ崎は腕を組み、椅子に座りなおした。
成程、ほうほう、俺、ね。
え?
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