22.彼と彼女の気情
●
ずけずけと、情けも容赦もなく刻まれて、山代は身体をくの字に折り込んだ。
「嫌、だよ。嫌だ、よ。でも、でもさ」
く、と一息詰めて、山代は床へ叩きつけるように、
「それじゃあ、どうすればいいのさ! 友達のままは嫌だけど、嫌だけど! でも私は、」
「どうしたいんだよ」
またも城ケ崎は山代の言葉を遮って、山代は言葉に詰まった。
「俺に正直になる必要は、まあないんだけど。自分に正直にはなってみろよ」
わかってるんだろ? と城ケ崎は言う。お前は、実のところ、わかってるんだろ。自分が本当は、どうしたいのか。
………でもこれも、正しくはないよなあ、と城ケ崎は思う。
これじゃあまるで、いや、まるまんま、城ケ崎は山代を誘導している。
けしかけている、と言っていい。
行け、と言っている。
でもさ。
そうやって、言い訳して。
でも、正直になれって言われて、言葉に詰まるっていうんなら。
………そういうことなんじゃ、ないのかよ。
「気持ちなんてのは、移ろいやすい消えやすい、失せやすいし忘れやすい、すぐに薄れてなくなりやすい。十年経ったら何にも残らない。あったことさえ曖昧になる。だからお前だって、今いくらどれほど相生のことが好きでも、十年待たずに忘れちまうのかもしれない」
俺が、かつて好きだったという感情を、たった数年でもう覚えていないように。
「でもさ」
城ケ崎は言う。
「後悔っていうのは、なかなかなくならないんだよ」
なかなか、忘れられないんだよ。
「そりゃあ、まあ、ものやことによるんだけれども。本当に大切なことに対して、何かを果たせなかった後悔っていうのは、これがなかなかなくならない」
十年経っても、と城ケ崎は言う。
「本当に後悔し続けることは、きっと死ぬまで後悔し続ける」
まして自分は、自分から進んで、後悔しているのだから。
忘れないために。
「それは」
山代が、口を開いた。
「それって、美樹も知らない、城ケ崎の昔の話?」
「………ああ、そうだよ。小学生のときの話だ。でも笑うなよ」
笑わないよ、と山代は言った。眉尻を下げた表情で。
「ここでそれを詳しく話す気はない――――どころかまあ、誰にも話す気はないんだけどな。口を滑らせたことは実は何度かあるんだけれども」
そういうことじゃなくて、と城ケ崎は話を戻す。
「俺はあのとき、俺がするべきだったこと、しなくちゃいけないことができなくて、後悔した。ずっと後悔してる。今でも後悔してるさ」
それでな?
「お前は、お前が相生への気持ちを押し隠したところで、後悔しないでいられるか?」
辛いぞ? と城ケ崎は言う。
「それこそ辛いぞ、後悔っていうのは。やっておけばよかったって思っても、絶対にやり直せないんだから。取り返しはつかないんだから。もう――――どうにも、ならないんだから」
「でも」
山代も、城ケ崎を遮る形で口を開いた。
「美樹に好きだって言って、同性愛は嫌だって拒絶されて、それで距離を置かれるようになったりしたら――――そっちの方が、ずっと後悔するよ」
「本当にそうか?」
城ケ崎は退かない。
「やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がいい――――まあ、綺麗事だけれどな。それに一番いいのは、やって後悔しないこと、だよ」
つーかさ、と城ケ崎は唐突に口調を崩した。
「その程度なのか?」
「………その程度って?」
「お前が相生を好きだっていう気持ち。それは、その程度なのか? 相生に伝えずにいられるくらいの、その程度?」
それならまあ、それでいいんだろうさ。
友達のままで。
●




