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彼女の事情  作者: FRIDAY
22/28

22.彼と彼女の気情

 


 ●



 ずけずけと、情けも容赦もなく刻まれて、山代ヤマシロは身体をくの字に折り込んだ。

「嫌、だよ。嫌だ、よ。でも、でもさ」

 く、と一息詰めて、山代は床へ叩きつけるように、

「それじゃあ、どうすればいいのさ! 友達のままは嫌だけど、嫌だけど! でも私は、」

「どうしたいんだよ」

 またも城ケ崎は山代の言葉を遮って、山代は言葉に詰まった。

「俺に正直になる必要は、まあないんだけど。自分に正直にはなってみろよ」

 わかってるんだろ? と城ケ崎は言う。お前は、実のところ、わかってるんだろ。自分が本当は、どうしたいのか。

 ………でもこれも、正しくはないよなあ、と城ケ崎は思う。

 これじゃあまるで、いや、まるまんま、城ケ崎は山代を誘導している。

 けしかけている、と言っていい。

 行け、と言っている。

 でもさ。

 そうやって、言い訳して。

 でも、正直になれって言われて、言葉に詰まるっていうんなら。

 ………そういうことなんじゃ、ないのかよ。

「気持ちなんてのは、移ろいやすい消えやすい、失せやすいし忘れやすい、すぐに薄れてなくなりやすい。十年経ったら何にも残らない。あったことさえ曖昧になる。だからお前だって、今いくらどれほど相生のことが好きでも、十年待たずに忘れちまうのかもしれない」

 俺が、かつて好きだったという感情を、たった数年でもう覚えていないように。

「でもさ」

 城ケ崎は言う。

「後悔っていうのは、なかなかなくならないんだよ」

 なかなか、忘れられないんだよ。

「そりゃあ、まあ、ものやことによるんだけれども。本当に大切なことに対して、何かを果たせなかった後悔っていうのは、これがなかなかなくならない」

 十年経っても、と城ケ崎は言う。

「本当に後悔し続けることは、きっと死ぬまで後悔し続ける」

 まして自分は、自分から進んで、後悔しているのだから。

 忘れないために。

「それは」

 山代が、口を開いた。

「それって、美樹ミキも知らない、城ケ崎の昔の話?」

「………ああ、そうだよ。小学生のときの話だ。でも笑うなよ」

 笑わないよ、と山代は言った。眉尻を下げた表情で。

「ここでそれを詳しく話す気はない――――どころかまあ、誰にも話す気はないんだけどな。口を滑らせたことは実は何度かあるんだけれども」

 そういうことじゃなくて、と城ケ崎は話を戻す。

「俺はあのとき、俺がするべきだったこと、しなくちゃいけないことができなくて、後悔した。ずっと後悔してる。今でも後悔してるさ」

 それでな?

「お前は、お前が相生アイオイへの気持ちを押し隠したところで、後悔しないでいられるか?」

 辛いぞ? と城ケ崎は言う。

「それこそ辛いぞ、後悔っていうのは。やっておけばよかったって思っても、絶対にやり直せないんだから。取り返しはつかないんだから。もう――――どうにも、ならないんだから」

「でも」

 山代も、城ケ崎を遮る形で口を開いた。

「美樹に好きだって言って、同性愛は嫌だって拒絶されて、それで距離を置かれるようになったりしたら――――そっちの方が、ずっと後悔するよ」

「本当にそうか?」

 城ケ崎は退かない。

「やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がいい――――まあ、綺麗事だけれどな。それに一番いいのは、やって後悔しないこと、だよ」

 つーかさ、と城ケ崎は唐突に口調を崩した。

「その程度なのか?」

「………その程度って?」

「お前が相生を好きだっていう気持ち。それは、その程度なのか? 相生に伝えずにいられるくらいの、その程度?」

 それならまあ、それでいいんだろうさ。

 友達のままで。



 ●




 

 

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