20.彼と彼女の襟情
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友達のままでいたいのか。それとも、恋仲になりたいのか。
まあ、こうして、相手が城ケ崎であるとはいえ誰かに相談に来ているというのだから、半分ほど答えは決まっていいるものだと思っていたのだが。
「友達のままは――――嫌だよ」
山代は、そう答えた。
自分の細い肩を抱きながら。
「友達のままは、辛い」
くっ、とまた喉を鳴らしたが、今度は堪える。
城ケ崎は、思うところを言おうとしたが、その前にふと思い立って立ち上がった。
怪訝そうにこちらを見上げる山代の横を過ぎ、その後ろの本棚の上に鎮座している、ぬいぐるみを掴み上げた。
犬の、ぬいぐるみだ。
それも、結構大きいサイズの。
それを、山代に渡す。山代は、ちょっと驚いた顔をしたものの「ありがと」と小さく答えて素直に受け取った。そして、それを改めてぎゅっと抱きしめる。
そんなものがなぜ城ケ崎の部屋にあるのかは、今はとりあえず言及しない。でも一応、
「臭いかもしれないが」
とだけは言っておく。すると山代はそいつの後頭部に鼻を押し当て、呼吸し、
「………ん、城ケ崎の匂いがする」
と言って、さらに深くぬいぐるみを抱いた。
「…………………………」
いやいやいや、山代が好きなのは相生だから。
「友達のままは辛い、と」
元の位置に戻ってから、一つ咳払いなど挟み、改めて山代の言葉を反芻する。
しかし、何だか歯に引っかかった言い方だ。
「恋仲には?」
どうにも表現しにくいのは確かだ。彼氏彼女、とも言えないわけで。かといって、城ケ崎の言う『恋仲』という表現もどうなのかというところだが。
「………無理、だよ」
長い間を置いて、山代は弱々しい声で言った。
「どうして」
「だって………さ」
きゅっ、とさらにぬいぐるみを抱き込んで、その犬の後頭部に口をうずめて、山代は答える。
「城ケ崎は、変じゃないって言ってくれた。それは、凄く嬉しい。本当に、凄く嬉しいよ。そういってもらえると、本当に………楽になった」
でもさ、と山代は言う。
「城ケ崎以外にも、その、私のこういう気持ち、認めてもらえるとは、限らないでしょ?」
「………それは、まあ、そうかもしれないが」
それは、さっきまで考えていたことだ。
「でも、もう時代も違うぞ。日本じゃどうだったか覚えてないけど………外国には、結構いるだろ。その………同性愛者だってのを、公言して、認められている人。日本だって、まあ何を言っても寛容な国なんだから、言った傍から全部排斥されるってことは………ない、だろ」
根拠はない。虚勢でも堂々と言えばいいのに、と自分でも思うが、どうにもならない。寛容とはいっても、大らかとはいっても、節操なしとはいっても、それでも民間の俗な差別は根深い国でもある、から。それを知っているから。
山代は、小さく首を振った。
でもさ、とまた山代は言う。
でもさ、
「美樹もそう思ってくれる、とは限らないでしょ?」
消え入るような、声だった。
………ああ、そこか、と城ケ崎は内心で思った。
そっちにも、あったのか。
恋愛は、一人でするものではない。
「…………………………」
忘れていた、というわけではないのだけれど。
思慮が浅かった。
あるいは、配慮が足りなかった。
「城ケ崎は認めてくれた。他の人も、認めてくれる人はいるかもしれない。でも――――美樹が認めてくれるかどうかが、わからない」
それが――――と、山代は言った。
か細く。
弱々しく。
消え入りそうな声で。
「それが、私は、怖いんだ」
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