2.彼女と彼女の友情
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その後も、佳世は美樹に連れ回されるままに数軒のブティックを廻り、美樹に選ばれるままに大量に買い込むと、様々な店名のプリントされた紙袋を提げて通りがかりの喫茶店に入った。
「………ふひゃあ。さすがにやっぱり買い過ぎたかなあ」
椅子に座り、両脇にどさっと紙袋を置いた美樹は慣れた態度でコーヒーを二つ頼んだ。
「あ、コーヒーでよかった?」
「ん、うん。ありがとう」
自分も買い物袋を置きながら、佳世は椅子に深々と座った。
「………ふう」
「予定よりたくさん回っちゃったね。御免ね、かなり疲れた?」
「あ、いや! 全然!」
ばばっと跳ね起きてぶんぶん手を振った。そんな佳世を美樹は微笑ましく見る。
「あんまり話す時間なかったけど………どう? 最近。何か変わったことはあった?」
「ん? んー………」
何かあったかなー………と中空を見つめている間に、注文していたコーヒーが二つ運ばれてきた。それを一口飲んで、美樹はにやにやと笑んだ。
「日笠君とはどうなの?」
「は? 日笠君?」
一瞬本気で虚を突かれた表情になった佳世だったが、一拍置いて全力で手を振った。
「な、なーんもないよ! 何も! 何も! 日笠君はただの友達! いやさ友達未満!」
「友達未満て………そこまで全力で否定されると、ますます怪しんじゃうなあ」
満面ににやにや笑いを広げる美樹に対し、佳世は唇を尖らせてコーヒーをすすった。
「美樹こそ、あれから彼氏できないの?」
意趣返しのつもりでそう返したが、美樹は豪快に笑い飛ばした。
「ないない。今はいないよ。私はテキトーだからねえ。やっぱいい男もなかなかいないし」
「いい男の人がいたら、付き合うの?」
「まーね。ああいや、告って成功すればね。んーでも、もうさすがに私から告るってちょっと考えにくいかなあ………」
少し悩ましい表情をしながらコーヒーに口をつける。
「まあ、何だ。日笠君がそういうんじゃないとして、それじゃあ佳世、気になる人いるの?」
「………え?」
何気ないノリで訊いた美樹に対し、佳世は一瞬ぽかんとなった後急速に顔を紅くしていった。その様子に、美樹は楽しげに笑う。
「お、その顔は、さてはいるんだね。誰誰? ほらほらお姉さんに教えなさい」
「お姉さんって………同い年でしょ」
「ほらほら話を逸らさない。ん? それでそれで? ほれほれさっさとゲロしなさい」
これ以上ないくらい楽しそうな、その上悪戯めいた笑顔でせっついてくる。佳世は何とかして言い逃れようと必死で考えたが、結局何一つ思いつかず、
「────内緒」
と、どこか寂しげな笑みでそう答えただけだった。
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