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彼女の事情  作者: FRIDAY
13/28

13.彼女と彼の迷情

 


 ●



「────変でしょう? 女が女を好きだなんて」



 呼吸が落ち着いた頃、山代はぽつりと呟くように言った。視線は本の塔の上をさまよっている。

 城ケ崎は、いや、と咄嗟に答えそうになって、しかし寸前で呑み込んでしまった。

 本当に?

 本当に俺は、女子同士の恋愛に対して、全く変だと思っていないのか?

 本当に?

 考える。

 自問する。

 しかし、容易に答えは出なかった。

 本当に俺は、女子同士、ひいては同性間の恋愛に対して、ほんのわずかでも何も思っていないか?

 嫌悪感を、とは言わない。少なくとも、絶対にそれだけは感じていない。これだけは明確に断言できる。山代の相生への感情に対して、明らかに否定的な感情は持っていない。神にだって誓ってみせる。針千本も呑んでやろう。

 しかし、だ。

 十全に肯定することができるのか?

 全く、一切の疑念なく受け入れられているのか? 疑念、あるいは違和感――――

 違和感。

 城ケ崎は、自分の心を思った。

 山代は、相生が好きだ。

 異性を好きになるのと全く同じように、山代は同性である相生に恋している。

 明確に言葉にして、脳裏に浮かべ、心を澄ます。

 その、心に、震えはないか。

 観察する。

 いや、そもそも、こうやって自分の反応を窺おうとしていることそれ自体が、既に違和感を覚えているという証明にならないか。

「…………………………」

 そんなことはない、と言うのは簡単だ。

 そんなことはない。変だなんてことは全くない。誰かを好きになるなんてことは人として当たり前のことだ。それが例え、相手が同性であったとしても、恥じることも隠すこともない。お前は自信をもっていい。堂々と胸を張れ。

 言うだけなら、簡単だ。

 むしろ、その方がいいんじゃないか。その方がいいんだろう。それが山代にかけられるべき言葉で、山代がかけてほしい言葉だろう。

「…………………………」

 かけられる『べき』?

「…………………………」

 正直でいようと、誠実でいようとするのは、そうあろうとするのは、まあ概ね正しいことだろう。だが、盲目的に正直であるのは、誠実であるのは、融通も利かず、莫迦で、阿呆だ。

 嘘、とは言わないまでも、もしも自分が十全に受け入れていなければ、軽々にそれを言うことは、無責任だ。

 そうかといって、否定する気も全くない。

「…………………………」

 城ケ崎は、両目を閉じた。

 瞼の裏の薄闇を見る。

 そして無意識にか、片手で自分の額に触れた。

 瞑目したまま、一つ、深く息を吸って、吐く。



 考えろ。





 ●








 

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