13.彼女と彼の迷情
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「────変でしょう? 女が女を好きだなんて」
呼吸が落ち着いた頃、山代はぽつりと呟くように言った。視線は本の塔の上をさまよっている。
城ケ崎は、いや、と咄嗟に答えそうになって、しかし寸前で呑み込んでしまった。
本当に?
本当に俺は、女子同士の恋愛に対して、全く変だと思っていないのか?
本当に?
考える。
自問する。
しかし、容易に答えは出なかった。
本当に俺は、女子同士、ひいては同性間の恋愛に対して、ほんのわずかでも何も思っていないか?
嫌悪感を、とは言わない。少なくとも、絶対にそれだけは感じていない。これだけは明確に断言できる。山代の相生への感情に対して、明らかに否定的な感情は持っていない。神にだって誓ってみせる。針千本も呑んでやろう。
しかし、だ。
十全に肯定することができるのか?
全く、一切の疑念なく受け入れられているのか? 疑念、あるいは違和感――――
違和感。
城ケ崎は、自分の心を思った。
山代は、相生が好きだ。
異性を好きになるのと全く同じように、山代は同性である相生に恋している。
明確に言葉にして、脳裏に浮かべ、心を澄ます。
その、心に、震えはないか。
観察する。
いや、そもそも、こうやって自分の反応を窺おうとしていることそれ自体が、既に違和感を覚えているという証明にならないか。
「…………………………」
そんなことはない、と言うのは簡単だ。
そんなことはない。変だなんてことは全くない。誰かを好きになるなんてことは人として当たり前のことだ。それが例え、相手が同性であったとしても、恥じることも隠すこともない。お前は自信をもっていい。堂々と胸を張れ。
言うだけなら、簡単だ。
むしろ、その方がいいんじゃないか。その方がいいんだろう。それが山代にかけられるべき言葉で、山代がかけてほしい言葉だろう。
「…………………………」
かけられる『べき』?
「…………………………」
正直でいようと、誠実でいようとするのは、そうあろうとするのは、まあ概ね正しいことだろう。だが、盲目的に正直であるのは、誠実であるのは、融通も利かず、莫迦で、阿呆だ。
嘘、とは言わないまでも、もしも自分が十全に受け入れていなければ、軽々にそれを言うことは、無責任だ。
そうかといって、否定する気も全くない。
「…………………………」
城ケ崎は、両目を閉じた。
瞼の裏の薄闇を見る。
そして無意識にか、片手で自分の額に触れた。
瞑目したまま、一つ、深く息を吸って、吐く。
考えろ。
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