1.彼女と彼女の春情
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「佳世、これ似合うんじゃない?」
ちゃかちゃかと掛かっている薄桃色の春向けの洋服を取り出し、佳世にあてがってみる。だがちょっと首を傾げた。
「美樹の方が似合うと思うよ、こういう華やかなのは」
服をあてられるままの佳世が、ちょっと困ったように笑う。対して美樹は首を振り、
「そんなことないよ。佳世だってこういうのしっかり似合うんだから。もっと普段からお洒落してさあ………」
言いながらも、「こっちかな」「こっちの方がいいね」などと次々と佳世にあてがっていき、気に入ったものをストックしていく。佳世は完全にされるがままだ。
「佳世、何色が好きだっけ?」
「青………いや、紺、かな」
「んー、もっと目にうるさい色も着てみなよ――――ほら、これは?」
夏! という雰囲気の、明るい黄色に白のラインが入ったものを突き出す。佳世はちょっと困った顔をして、
「いやー………ちょっと私には明るすぎるかな」
「明るいのを選んでるんだから。そういう暗い色のはもっとオバサンになってからでいいんだよ。じゃあ、ほら、これ」
「いや、これもちょっと………」
「そんなこと言ってないでほら、着てみる着てみる!」
ごそっとたくさんの服を渡され試着室に押し込まれた。
「あー、これちょっと多すぎて掛けるとこないよー」
「んじゃあちゃっちゃと着てみてこっちに渡す!」
言いながらも既に美樹は新たな服を物色し始めている。
その背中を眺めて少し困ったような表情をしていた佳世だったが、やがてふっと笑って試着室のカーテンを閉めた。
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