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4,平原にて 出会い 決意

決意・・・ より少し弱めかもしれませんが、彼が何かを決めることは間違いないのでこのサブタイトルで行きます。


これからもよろしくお願いします。

 週に一度はある完全な休みの日、俺はいつも何するわけでもなく市を歩くのが日課となっている。

『民のことは民を見て学ぶ』

 法正さんからの教訓を実行しているのもあるが、天の世界と違って簡単に暇を潰すものが存在しない。また、力仕事が出来るわけでもないし、かといって読書とかが趣味じゃない俺には、そこら辺を散策することぐらいしか出来ることがない。

 そして、その休日は護衛として、俺の頭には林鶏が乗っている。

「コケッ?」

 俺が見上げたことによって、不思議そうにこちらを見て首を傾げてくる。

 どうやら飼い主である法正さんに似て、自分に不快ではないときは普通に接することが信条らしい。

「・・・・お前も暇だよな」

「コケー」

 『むしろ、お前がな』とでも言うように翼をいじりがら適当に返され、俺は否定するわけでもなく市を歩く。昼に近い時間、午前の仕事を終えた人たちが競うように飯屋へと詰めかけ、賑わいを見せる。

 が、気のせいかもしれないけどいつもより人が少ない気がした。

「なぁ、林鶏。

 いつもより、人が少なくないか?」

 おもわず林鶏に問いかけると、俺の頭の上で立ち上がり、周囲に軽く見渡した。

 その目は鋭く、真剣な表情をし、いっそこいつに兵とかの索敵でも任せたら結構優秀なんじゃないかと思う。

 一般兵より確実に強いんだし、言葉は話さなくても書簡とかを利用すれば平気かな。今度朱里たちに話してみるか。

「ケェ!」

 何かを見つけたらしい林鶏が一点を翼で指し示し、俺の頭を数度蹴る。

 だから! 何で鶏が地団駄を踏めるんだよ?!

「行ってみるか」

 俺と林鶏だけじゃ、事態を把握する程度しかできないかもしれないが、行かないよりはマシだろう。大したことじゃなかったらそれはそれでいい暇つぶしになるだろうし、何かあったら城まで走って伝達すればいい。

「よし、林鶏。

 方角、見失わないでくれよ?って、何で降り」

 突然頭から飛び降り、あっという間に俺との距離をとったかと思えば、こちらを振り返り嘴で前を示した。

 え、えー・・・・

 お前、何? 市の並びとか、道まで完全に理解してるのか?

「コケエェェェーーーー!」

 俺が来ないことにしびれを切らしたのか、林鶏は走りだす。

「ちょ、待てよ! 林鶏!!」

 俺もそれを追って走りだし、必死にあとを追った。



 結局俺は一度も林鶏に追いつくことが出来ず、全力疾走だったことと、林鶏に追いつこうと必死になっていてどの道を通ってきたかも覚えていない。

「お前は・・・・ ほんとに、にわとり、ですか?」

 今は乱れた呼吸を整えるのがやっとで、ここがどこだかもわからない。

 ただ、人だかりが出来ていて、その声は荒い呼吸を繰り返す中でもはっきりと聞こえていた。

 運動不足のせいもあってか、膝が笑い、息切れも早かった。予想外のところで体を鍛える必要性を感じさせられ、護身術はやっぱり学んだ方がいいかもしれない。

「コケッ!」

 俺を疲れさせた張本人は特に疲労を見せることもなく、且つ容赦なく俺の頭の上で広場の中央を嘴で指し示していた。


 そこに居たのは一人の女性。

 天では存在しない緑の髪を短く刈り込み、愛紗たちが持っている偃月刀と同じくらいの大きさの大剣を軽々と肩に担いでいた。

 刀身は通常のものよりもはるかに太く、それを持っていること自体が彼女の力の証明のように感じられた。

 その大剣をその場に突き刺し、まるで軽業師のように簡単に鍔の上に腕を組んで仁王立ちをする。

 異様に様になるその姿、そうあることが当たり前のような堂々とした立ち姿に俺は圧倒されていた。

「コッ?!」

 何故か驚いたような目をして、声を出した林鶏が何故か俺を置いて走り出す。

 まだ状況がわからない俺は、とりあえずその場に残ることにし、彼女が何を言い出すのかを待った。


「諸君、私は優秀な年配の男性が好きだ!!」

 それはまるで大砲が目の前で鳴らされるような、大声だった。

 その一声でざわついていた周囲が押し黙り、彼女だけを見る。

「諸君、私は優秀な年配の男性が大好きだ!

 百姓が好きだ。猟師が好きだ。大工が好きだ。商人が好きだ。

 兵士が好きだ。武人が好きだ。文人が好きだ。領主が好きだ。

 道端で、平原で、森で、林で、村で、城で、都で、この地上で出会える優秀な年配男性が大好きだ」

 それを語る彼女の顔はどこか頬を染め、まるで片思い相手に告白するどこにでもいる女の子の表情をしていた。

 やや早口でありながら、その場にいる誰もが聞きやすいように調整されたその声に、おもわず誰もが内容に疑問を抱く隙もなく聞き入ってしまっている。

 それはまるで、言葉という名の兵器。

「老兵が傷だらけの体を引きずりながらも、若者へと武を教える姿が好きだ。

 その傷ついた体が語る歴史、守り抜いた証には愛おしさすら覚える」

 一分にも満たない間に発せられた言葉の内容がありありと脳裏に浮かび、その言葉に一部の者が同調するように叫ぶ。

「生きるために泥だらけになり、土の付いた皺深い手で家族を抱きしめる百姓が好きだ。

 その腕が生み出した作物が日々の糧となり、我々を生かすことを思うと眩しさすら感じる」

 語っている言葉に難しいものはなく、ただありのままの真実を伝える。

「だが、将は、君主はどうだろうか?

 優秀で地位ある男は、それを理由に次々と短命でこの世を去る。

 戦いで、病で、謀殺で、世のために尽くすもの、民のために在ろうとする者はことさらその傾向が強い。

 残っているのは見た目詐欺の爺と、万年発情期の男しかいない。

 あるいは論ずるに値し無い存在も、多々存在する。

 あぁ! なんと嘆かわしい!!」

 その場で頭を抱え、彼女はカッと目を開き、叫ぶ。

「ならば、優秀な男を育てればいい!

 先ある若き男を、我々好みに仕立て上げ・・・・ いったーい!!」

 そのまま先を続けようとした彼女へと、まっすぐ投擲されたのは握り拳ほどの大きさの石。



 おもわずその場にいた全員がそちらを振り返ると、鈴々と朱里を連れた般若・・・・

 ではなく、法正さんが立っていた。



 法正さんがその場で何事かを呟くと周りにいた数名の者たちが動きだし、住民たちを散らしていく。

 軍ではなく、普段着に近いものに緑の羽織を着た彼らは昨日の会議で言っていた愛紗の側近である周倉を隊長とした警邏隊だろう。

「あっ、正ちゃんと孔明ちゃんだ。やっほー」

 演説の行っていた彼女は親しげに腕をあげ、朱里はそれに苦笑いし、法正さんは傍へと駆け寄ったかと思うと彼女の左頬を思いっきり伸ばしていた。

「私をちゃん付けで呼ぶなと、何度繰り返せばこの頭は理解するのかしらね?」

いひゃいよー(痛いよー)へいひゃん(正ちゃん)

 そうした後、まるで猫を摘み上げるように彼女の首元を持って、引き摺って行こうとする。

「城に戻って事情を聴き次第、あなたには説教よ。

 覚悟しなさい、平」

 が、大剣の鍔を掴んで抵抗する彼女に、さすがの法正さんも引き摺って行くことが出来ないようだった。

「いーやーだーーー! 正ちゃんのお説教だけは嫌ーーー!!」

 俺はそれを眺めつつ、朱里と鈴々の元へ駆け寄った。

 二人は民に怪我がないように作業を行えているかの確認等をしているようで、たまに欠伸すらしていた。

「朱里、彼女は一体誰なんだ?」

「あっ、ご主人様。やっぱりいらっしゃったんですね。

 あの方は『残念(天才)三軍師』の御一人で、『年上狂いの王平』さんです」

 朱里がもう開き直っているらしく、恥じることもなく笑顔でそう答えてきた。

 うん、朱里が俺にあの趣味がばれてから、隠すこともなく楽しそうに本を持ってるんだもんなぁ。それに法正さんに仕事として公認されたのもあって、最近毎日が楽しそうに映る。

 何でだろう? 良い事の筈なのに、涙が止まらないんだ。

 しかもね、桃香はすっかり腐を普通に楽しんじゃってるんだよね・・・

 最近、『素材がないですねぇ』とか言って、ぶつぶつ何も書いてない書簡見てて、凄く視線が怖いです。

「補足するなら『残念(天才)三軍師』の『残念』は軍師として働けながら、他の才の方が長けていることが由来なんでしゅよね・・・・

 勿論、本人たちの性格によるところもありますが」

「軍師じゃないのかよ?!」

「この乱世で仕事を探すなら、『軍師』は響きがいいですからね。

 実際法正さんも、王平さんも、仕官せずとも食べるに困らない状態には出来ていたみたいですし」

 ・・・それって、わざわざ乱世に首突っ込まなくても、勝手に生きていけたって意味じゃないか?

 それは思うに留め、俺の視線は法正さんたちに戻った。


「だいたい、あなたの趣味は偏り過ぎよ。

 それを個人で楽しむならまだしも、人を巻き込んでどうするのかしら?」

「別にいーじゃん。

 誰も彼もが楽しめたらそれでいいし、素質のある人しか好きにならないよ。

 それにそう言う正ちゃんだって、子ども好きのことが公になってから、その手の趣味があるって話じゃん!」

 いまだに続いていたらしい口喧嘩だったが、その言葉で法正さんから流れてくる空気が変わった。

 あっ、ヤバい。これ、本気で怒ってる時の空気だ。

「誰がそんなことを、言っていたのかしら?」

「瑾ちゃん」

「瑾・・・・ 覚えておきなさい」

 その怒りを視線と共に遠くの空へと向け、杖を一度固く握りしめる動作をしてから怒りが存在しなかったかのように周囲を見渡した。

 き、切り替えが早すぎる。さすがは法正さん、すげぇ。

「北郷、状況を把握しようとしたところまでは良い判断だったわ」

「あ、ありがとう」

「ただし、その後の判断はよくないわね。

 相手の内容を理解する以前に、民が一か所に集められ、演説が行われた時点で私たちを呼ぶべきだった。

 今回は林鶏が私を呼んだからいいけれど、本来その判断をするのはあなたよ」

 褒めることは褒め、責めるべき点は責める。いつものことだけど、法正さんの使い分けは本当に見事だ。怒りに任せて褒めるべき点をなかったことにしてしまう者は多く、相手の気力だけを削ってしまっては次には繋がらない。

 責めるだけでも、褒めるだけでも、人は伸びない。そんな些細なことを実感させられる。

「今度から気を付けるよ」

「えぇ、そうなさい。

 平のことも、今から城に戻って話し合いを・・・・」

 そう言って治まった事態を次の段階へと移そうとしたとき、場に大きな声が響いた。


「子どもが、子どもが川に落ちたんだ!」


 それを聞いた瞬間、俺は何かを考えるよりも早く駆け出していた。




 この大陸には川の周りに近づけないようにする柵がない。

 橋もよほど高所でなければ柵はないし、正直危険極まりない場所の一つである。会議で何度か柵の製作を案として出したが財政難もあり、案としては賛成だが現在は実現不可能とされていた。

 川は浅くとも流れや、足場の不安定さで呆気なく命を落としてしまう。ましてやそれは、幼い子どもなら尚更だろう。どれだけこの世界の子たちが俺の世界の子どもたちより多少強かったとしても、危険であることには変わりはない。

「子どもは!?」

「あっ、あそこだ!」

 木片か何かに捕まって流れていく子ども、周りはどうすればいいかもわからずにその場にとどまって、事の流れを見つめていた。

 これが現実、他の誰かが動き出すまで他の者は動かない。誰かが動き出すのを、何か言うのをじっと待っている。


 そしてそれは、天の世界にいた頃の俺自身の姿に被って映った。


「あー、楽だったよな」

 そう、楽だった。

 周囲に流されるがまま、自分では何も決めず、確固たる意志も持たずに周りに頼って生きるのは。夢なんてなくても怠惰に過ごせるあの世界で、俺は何もしてこなかった。

 けど俺は今、この世界で生きていて、多くのことを決めなければならない。

 何をしたいか、何を成し遂げたいか、どうしたいか、そればかりが駆け巡る。

「俺はこの大陸で、俺らしくなりたい」

 胸に落ちたのは、そんな思い。

 王平さんの意見に偏りはあっても熱い演説を聞いて、俺はもっと根本的成したいことを見つけることが出来た。

 何もないなら、俺はここで『自分』を作ってみせる。

 ここで生きて、せめて一緒にいるみんなが恥ずかしくない男になりたい。


 だからこそ俺は、身なり着たままのその状態で川へと飛び込んでいった。

 俺はまっすぐではなく、やや上流へと向かうように斜めに泳ぐことを心がける。確か前、テレビで真横に泳ごうとすると川の流れに流され、余計に体力を使うとか言ってた気がするし。

「今、助けてやるからな」

 泣きじゃくりながら、必死に俺の体にしがみつく子どもを抱え、俺は片手だけで必死に泳ぎ続ける。が、子どもの呼吸だけを確保しようとして、口に多くの水が入ってくる。

「ご主人様、あと少しです!! 頑張ってください!」

 愛紗の声援が聞こえて、俺はどうにか岸の直前までたどり着き、子どもを手渡すことに成功した。

 体力は尽きかけ、伸ばされた愛紗の手を取ろうとした瞬間、それを流木が遮り、俺は川の流れに飲まれてしまった。

 最後に見えたのは、必死に手を伸ばす愛紗の姿だった。



 暗い意識がだんだんと目覚めていき、周りの声がぼんやりとだが聞こえてくる。

「それじゃ、私が実演するわねぇん」

 白い、全てが白いそこで俺が目を開くと・・・・・

「んちゅうぅぅぅぅぅ~~~~~~」

 筋骨隆々の筋肉達磨が、俺の唇を奪っていた。

「~~~~~?????!!!!!」

 突然の事態と、俺のファーストキスが化け物に奪われたことで俺は飛び起き、周囲を見渡した。

「あらん、情熱的ねぇ。そんなまじまじ見ないでよん。

 照れちゃうじゃない」

 分厚い油のように、べっとりと耳にへばりつくその声。

 何だろ、この怪物。そして俺、こんなのにファ、ファーストキスを奪われた? のか・・・?

 ・・・・ヤバい、死にたい。

「おぉ、よかった。

 曹仁にならった人工呼吸が成功したようだな」

 目を移すとそこには俺と同い年ぐらいの青年が座っていて、俺の服は前が肌蹴られ、さっきのファーストキスを奪われたのが人工呼吸なら、心臓マッサージをされてたのか?

 そっかぁ、人工呼吸なら仕方ないよね。そう仕方ない、命の方が大事だもん。そう、だいじ・・・・・

「って、納得できるかーーーー!!」

 おもわず叫ぶ俺に、飛び込んできたのは二つの衝撃。

 見覚えのある桃色の髪と黒髪、桃香と愛紗だった。

「ご主人様、よかったです・・・ 本当によかったです」

「よかったよぉーーー。

 法正ちゃんから話を聞いて駆けて来たら、息してなくて、真っ青な顔してたんだもん」

 涙ながらに俺に抱きついて離れようとしない二人に、おもわず涙が出てきた。

 俺のことを心配してくれる人がいる。

 たったそれだけがこんなに嬉しいことを思い出して、二人を抱きしめる。

「心配かけて、ごめん。

 けど俺さ、ようやく自分がどうしたいか、その初歩の初歩が決まったんだ」

 夢への一歩というにはあまりにも小さくて、曹仁さんに比べるのもおこがましいだろう。

 だから俺は、俺に出来ることからやって行こう。

 やっと、そう思うことが出来た。

「俺、頑張るよ」

 そう思って空を見上げ、風と共に戯れる白い雲を眺めた。


内容を詰め込み過ぎたような気がしますね・・・

やっぱりこちらはあまり気がのらない・・・ けど、書かなければ董卓連合がおかしなことになるし。

これも他の視点をどうにも書かないと状況がわかりにくい。そんな気がします。


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