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 平原にて 日常

書けました。

今回はずいぶん待たせた気がしますが、待っていてくださった方ありがとうございます。


これからもよろしくお願いします。

「法正さんは怪物か・・・・・」

 午前中いっぱい行われていた勉強会からようやく解放され、桃香と朱里と共に市で肉まんや胡麻団子を買って中庭に設置されている東屋にて食事をとる。

 護衛としてつけられていた林鶏は市では食糧にされかねないため、法正さんお手製の青と白のミサンガのようなものがつけられ、そこには丁寧に『林鶏』と刺繍されている。

 また、法正さん自身俺たちが来る前に何らかの対処をしたらしく、食材と思われることもない。

 それもあって市では俺の頭に乗って、護衛の任をしっかり果たしてくれた。

 今は普通の鶏のように地面のミミズを食べたりと、食事に勤しんでいる。

「ケェ!」

 が、『怪物』といった時点で俺の額にさっくりと嘴がささ・・・

「いってぇーーー!!!」

「ご主人様、少しは学習した方がいいと思うよ?

 林鶏ちゃんの前で、法正さんの悪口言うのは自殺行為だってばー」

「ちなみに怒りは下から羽、足、嘴の三段階に分けられているようです。法正さんの教育の賜物なのか、言葉もしっかり理解してますし・・・

 『残念(天才)三軍師』の中でも法正さんは目の前で意見を言わず、陰口を叩く方に容赦はしません。勿論、言葉の真意をくみ取ろうとしない人間に対しても、でしゅが」

 桃まんにかぶりつきながら俺を見て呆れている桃香と、茶を注ぎながら経験者なのか分析まで補足される。

 ・・・・女学院で自由に闊歩してたんだ? こいつ。

 でも、陰口を叩く人に対して容赦しないのは簡単に想像できるなぁ。子どもである鈴々にすら命の重さを真剣に説くくらいだし、誰に対しても堂々と立ち向かって行く法正さんは怖いけど、その真剣さが伝わってくる。

 それはいいんだけどさ・・・・

「何でただの鶏がこんなに強いんだよ?!

 おかしいだろ! ただの鶏が愛紗に勝つとかさぁ!?」

 あの日、地獄の書き取り終わった後に愛紗が真っ白になってて、度肝を抜かれた。愛羅はそんな愛紗を慰めるのに必死だったし、全員で止めなかったら山に籠るところだった。

「林鶏は初めての教え子で、法正さん自身『教育』がどこまで通用するかを試したかったみたいで容赦していませんでしたから。

 昔から何故か、護身程度には武を修めることを勧めていましたし」

「なるほど・・・・

 けど、護身にしては強すぎないか? 法正さんって。

 それに、何でも出来すぎだろ?!」

 この一月の間、俺たちに勉強を教える傍らで俺たちにどうしたいかの判断が必要な物、意見を求める以外の仕事は、ほとんど法正さんによって行われたと言っても過言ではない。

 武官の仕事は愛紗たちに、経理の仕事の一部を朱里に任せていたようだけど、それでも自分の仕事と俺と桃香の分の書類の筆記、そして勉強。これだけで相当の仕事量の筈だ。

「私たちの勉強を見る片手間に、刺繍をしちゃうくらいだもんね」

 そう、陣営としての統一感を持たせるために法正さんがわざわざ刺繍してくれた上着。

 それぞれが着ていた服の一か所に、朱里が考案した意匠である緑の円の中には白の『北』の一字、その周りを守るように色とりどりの花弁があしらわれていた。

 それが一着だけならいいんだが、普段から身に着けるべきとのことで全員の上着にわざわざ刺繍され、上着につける位置がなさそうな鈴々は常につけているスカーフに刺繍されていた。

『職人に任せるほどの財が出来たら、正式に注文なさい。

 これはその場しのぎ程度よ』

 他に刺繍が出来るような子たちが居なかったことと、その暇がなかったことで軍に必要そうな旗も結局法正さんが刺繍し、この一月法正さんの個人的な休みは存在しなかった。

 だというのに、俺たちを叱り飛ばす元気があるのだから、不思議なものだ。

「公平な方ではありますよ。

 口がとても悪くて、容赦がないですけど、それでも正しい行いはちゃんと評価してくださる方です」

「評価、かぁ・・・・

 俺たちのところにいてくれるのも、あの件があったからなんだよなぁ」

 剣と服を曹操さんたちに預けた一件、誰かが嘘くさいと言っても、人を殺して庇護を求める者を生かす戦があった。

 殺さないと、守れない。

 剣を持った相手に、剣を持って武を振り落とさせることでしか抑えきれない。

 そのまま腕を広げたら、相手は容赦なく斬りかかってくる。

 失いたくない、守りたい、それは言葉だけじゃ、無に等しい。

「・・・・俺の生きた世界って、平和だったんだなぁ」

「うん、でも私たちはそれに少しでも近づけようとしなきゃね」

 だらけるように机に突っ伏す俺の頭をポンポンと触れられ、林鶏に肩を翼で叩かれた。



「あっ、兄ちゃんたちが居たのだー!」

 そうしてダラダラと過ごしていたら、書庫に向かう所だったらしい鈴々がこっちに気づき駆け寄ってくる。

 あの鈴々を勉強好きにし、自分から来るようにできている法正さんすげぇ・・・・

「よっ、鈴々。

 これから書庫か・・・・ 法正さんと一対一で怖くないのか?」

「法正お姉ちゃんは怖くないのだ。

 兄ちゃんは法正お姉ちゃんが怖いのら?」

 むしろ不思議そうに首を傾げられ、俺はおもわず面を食らったような驚きに染まってしまう。同意を求めるように桃香と朱里に視線を向けると、桃香は何故か微笑み、朱里は苦笑していた。

 何か知ってるの?

「ご主人様は知らない?

 法正さん、実は子どもにはとっても優しいんだよ?

 私たちに命のことを説いたときはすっごく厳しくて、子どもが嫌いなのかなぁとか思ったけど、町の子どもたちと話すと法正さんは凄い人気なんだよ」

「えっ?」

「法正さんの家の家訓に『子どもは大陸の宝』があるそうで、昔から子どもには優しいんでしゅ。

 それにとっても子どものお世話とかも慣れていて、その時だけ穏やかな顔をなさっているんですよ」

 法正さんが子どもに優しい、かぁ。

 なんだか気難しい雰囲気があし、勉強のせいでおっかない所しか想像できないけど、そうでもないのかもしれない。

「怖くない、か・・・・

 良い人だっていうのはわかるだけど、あの人ならもっとうまく生きれそうな気がするんだけどなぁ」

 鈴々の頭を掻き撫でて、おもわずそう零してしまう。

 これだけ優秀な人材が俺たちのような駆け出し君主ではなく、それこそ曹操さんたちのところにも行けただろう。

 あの口の悪さがなければ、劉璋さんのところでその手腕を活かせもしたのではないだろうか。

「うーん、鈴々には難しいことわかんないのだ!

 けど、法正お姉ちゃんは自分が後悔しない道を進んでるから、あんなにまっすぐ綺麗なのだ!」

「後悔しない道、かぁ・・・・」

 『後悔しない』その道がどれほど険しかったのか、どんな道だったのか、法正さんは俺たちに語ってくれる日は来るんだろうか?

『私は勝つように協力はする。

 けれど、負けが見えた時、私は生きるためにあなた達を平然と裏切るでしょう。

 あなた達以上に優先すべきものがあるときも同様、この命は真名を交わした者と私の物。

 生き様も、死に様も、私が決めるわ』

 真名の話をされた時、彼女が言った言葉が耳に残る。

 真名の重み、預けられた責任を俺は今更ながら実感した。

「鈴々はもう行くのだー!」

「うん、鈴々ちゃん。転ばないようにね」

「お姉ちゃんじゃないんだから、そんな心配不要なのだ」

 書庫へと駆けていく鈴々を見送り、俺よりもずっと法正さんのことを見ていた鈴々が眩しく映った。

「ご主人様、お茶のお代わりいかがですか?」

「うん、貰うよ」

 そう言って朱里から茶のお代わりを注いでもらった瞬間


「荀攸ーーー!! 貴様は私の生涯の敵だぁ!!!」


 愛羅の怒号に手元が狂って、湯呑をひっくり返してしまった。

 幸い机の上に零れたから、誰も火傷はしなかったからいいけど何事だ?!

「愛紗ちゃんじゃなくて、愛羅ちゃんってところが珍しいよねぇ」

 声のする方を見る俺とは対照的に、桃香はまるで転機を語るようなのんびりとした口調でお茶を啜る。

 わーぉ、これが法正さんの教育の賜物かな?

「桃香様・・・ なんだか打たれ強くなりましたよね・・・」

 まぁ、あれだけ正論の毒舌に言われ続ければ多少は耐性もつくし、神経も太くなると思う。

 元々、我の強い愛紗と奔放な鈴々に挟まれていたんだし、人を受け入れる器はあるんだよなぁ。

 勉強の方は法正さん曰く、本当に首席だったかを疑うくらいらしいけど・・・

「うーん、むしろ愛羅ちゃんがここまで騒ぐ内容が気になるっていうか・・・」


「確かにそうですが、桃香様?

 先程の言葉がどういう意味かを、説明していただけますか?」


 俺たちのその会話に入ってきたのは、まるで刃をつけつけるかのような愛紗の冷たい声だった。

「あー! もう!

 愛紗ちゃん、『桃香様』じゃなくて、『お姉ちゃん』って呼ぶって約束したのに!!」

「い、今はそのことを言ってるのではありません!」

「だーめ! お姉ちゃんって呼ぶまで許さない!!」


「・・・・・『夫婦喧嘩は犬も食わない』っていうけど。

 林鶏、お前はあれ食べれるか?」

「コー・・・・」

 林鶏は首をクルクルと回して否定し、姉妹喧嘩は鶏も啄まないようだ。

 俺も無理だよ、あの二人って喧嘩しだすと妙に頑固だし。

「朱里、とりあえず先に向かっとくか」

「そうですね」

 二人を放置して、俺は林鶏を頭に乗せ、朱里と共にいまだに叫ぶ続ける愛羅の元へと向かった。




 俺たちが現場へ行くと、通路にいくつかの書簡が散らばり、その中央で愛羅が鬼の形相となって書簡を睨んでいた。

 俺もそれを追うように書簡を手に取るとそこに書かれていたのは・・・


『不規則な心音、一体私はどうしたというのだろうか?

 義理とはいえ、兄弟たる者にこうした思いを抱くなど不謹慎であり、何より私たちは同性同士・・・・ あってはならないこの思いを抱いて私は、はたしてこれまで通り荀攸に接することが出来るのだろうか?


 あぁ、曹洪が僕を見ている。

 その目に僕が映り、まるで胸の高鳴りを隠すように拳が握られ、わずかに紅潮した頬が凄く可愛らしい。

 一体どうすれば、彼を襲うことが出来るのだろうか・・・・』


 どんな顔をすればいいのかが、わかりません。

 とりあえず、この世界にもBLの文化があるっていうことは嫌っていうほどわかったけどね?

 書簡にしてあるってことは、これは創作物の可能性もあって、なおかつ事実かも知れないし、けど曹洪さんって人は会った事があるけどそんな感じはまったくしなかったって言うか、いやそもそもそういうのってわかるもんじゃないから・・・・

「コケェーー!」

「はっ?!

 林鶏、俺、落ちちゃいけないところに落ちるところだったよぉ!」

 思考に沈みかけたところを林鶏の一声で何とか這い上がり、おもわず涙ぐみながら林鶏に抱きつこうとするがそれは呆気なく翼で弾かれる。

「フッ」

 その目は、『男は乗り物としか思っていない』と語っていた。

「この鶏が!

 名前通り、唐揚げにしてやろうか!!」

「コケコッコオォォォォーーーー!!」

 今ここに、男同士の譲れない戦いが起ころうとしていた。

「ご主人様が林鶏に喧嘩を売っても、絶対に勝てませんから!

 それより現状をどうにかしてくだしゃい!!」

「はい・・・・」

 そうだよね、愛紗が勝てないのに俺が勝てるわけないよね。

 でもね、そこまで直球に言われると少し傷つくかなぁとか思ったり。

「うわ~~~、これ凄いねー」

「愛羅、落ち着け!」

 アレ? 俺が林鶏と喧嘩している間に二人がこっちに来てる。

 一体いつ来たんだ?!

「朱里、その散らばってる書簡を任せてもいいか?

 桃香も読みふけってないで手伝ってくれよ?!」

 俺もとにかく、愛羅を止めよう!



 そうして俺が愛紗と共に愛羅に駆け寄った瞬間、聞きなれた杖の音と規則的な足音が周囲に響き渡った。



「ほ、法正しゃん?! どうしてここに!」

 朱里の驚きの声を気にした様子もなく、俺たちの方へ彼女は歩み寄ってくる。左手の杖をつきながら、書簡を踏むこともない迷いのない歩み。

 うん、わかってた。

 あんな大声が響いた時点で、法正さんが来ないわけないって思ってた。

「状況を見るに、曹洪殿と荀攸殿の絡みを書いた士元の妄想の産物があなたの元に届けられ、それを偶然読んでしまった関平が我を失ったということでいいかしら?」

 左手の杖、右手に持った書簡で内容は既に確認したらしく、この一月ですっかり見慣れてしまった恐ろしい笑顔を向けられる。

 ヤバい・・・ 超怒ってらっしゃる。

「さ、流石だね・・・ 法正さん」

「士元と孔明、そして瑾のこの病気は女学院の頃からよ」

 女学院が腐の根源か!!

 突っ込みを入れたいが今こんな茶々を入れたら、法正さんに怒られることは間違いないので控えておく。

 そして無情にも、法正さんが説教をする時のいつもの癖()行われてしまった(打ち鳴らされた)

「さぁ、あなた達、覚悟はいいかしら?」

 説・教・確・定。

 その場にいる全員が瞬時に青ざめ、法正さんの言われるがまま説教部屋へと連行された。



 幸いだったか、不幸だったか全員が一言告げられただけで説教は終わり、愛紗と愛羅が席を立つ。

 そして、二人が立ち去ったことを確認してから、法正さんは書簡を眺めるのを不安に重い小声で二人に話しかけた。

「法正さんが真面目にあれを読んでるのって、なんか嫌な予感しかしないんだけど?」

「えっ、そう? 結構面白い内容だと思うんだけどなぁ」

「桃香様、では次にこの書を読んでみてくだしゃい!」

 腐の汚染が拡大しているだと?!

ていうか、そんな器の広さはいらない! 何でも受け入れすぎだろ、桃香ぁ・・・

「孔明」

「はひ?! 何でしょうか?」

 突然の呼びかけに飛び上がるように返事をした朱里に対し、法正さんは書簡を朱里へ手渡した。

「あなたの手腕で、これと同様の・・・ そこの北郷を主人公にした作品は書けるかしら?」

「はぁ?!」

「い、いいんですか!

 こちらでも執筆活動をしても、ご主人様を元にして書いても、いいんでしゅか?」

「どうしてそんなに嬉しそうなんだよ?!」

 非難する俺に、法正さんは真面目な顔をしてこちらを見つめてきた。そして、指差したのは俺の上着の刺繍。

「北郷、状況を見なさい。

 政を行うにも、軍を動かすことにもまず資金が必要となるわ。それはわかるわね?

 そして、この陣営はほぼ無一文・・・ いいえ、公孫賛殿と曹操殿より装備や兵、食糧を賄ってもらったことを考えれば、負債を背負っていると言ってもいいわ」

 法正さんの言葉に頷き、俺たちはいずれ白蓮や曹操さんにこの借りを返さなければならないだろう。

「資金稼ぎか・・・

 それはわかったけど、何もこんな本じゃなくても・・・!」

 納得半分、避難半分。それだけを苦し紛れに言っても、法正さんはいつもの表情を崩さない。

 えっ・・・ 想定内の言葉だったのか?

「天の使いの証である服もなく、武も、智も、一般兵並・・・ 以下のあなたの名を広く知らしめるためにはこの策以上のものがあるなら聞くわ」

「お、俺が実は実力があるように書くとかさ・・・」

「民は嘘に敏感よ、一つの嘘は民に消せない疑念を落とす。

 それに男性陣が良い顔をするかしら?

 ただでさえ、あなたが赤の使いより凡人であることは公然のものになっている。

 そこにさらに偽りの情報・・・ 信頼も落ち、あなたの身に危険が及ぶ可能性がある以上、私はその策に賛同できないわ」

 法正さんは『反対』でも、『許可』でもなく『賛同できない』といったこと。また、反対の理由が俺の身に危険が及ぶことに二度驚かされた。

「そこまでしか言わないわ。

 私はあくまで雇われ文官、策を提示しても、決めるのはあなた達(君主)よ」

 そう言って席を立ち、林鶏を連れだって法正さんは部屋を出ていく。

 協力はする、知恵は授ける、けれどそれを決断するのは俺たち。

「で、どうするの? ご主人様?」

「一晩・・・・ 考えさせてください」

 桃香に笑顔を向けられ、今はそれだけ言うのが精一杯だった。



次はこんな陣営に、呼んでいない来訪者が来ます。

さぁ、誰でしょう?

その後は、あちらでの決戦の情報が入ったり、董卓連合へと続けられるかなぁと思います。


週一は守りますが、遅れたらすみません。


感想、誤字脱字お待ちしています。

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