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3,平原にて 日常 【法正視点】

彼女の真名は考えてありますが、本編にて明かすまで設定等でも明かしません。


そして、今回はなぜか筆が進まない精神状態で書いたので自信がありません。

が、彼女の思い、前話にてわからなかった部分を補足出来たらいいなと思っています。


いつもありがとうございます。

「今日はこれまでにするわ、無理やり詰め込んでも身につかないもの。

 今後は文字の練習を実務に変更、言葉遣いもそれと同時」

 肩を杖で叩きながら、いつものように白くなっている三人へと促す。

 なかなか動こうとしないのは通例だが、今日は次に張飛の勉強も入っている。四半刻程度なら放って置いてもいいのだが、準備もしなければならないため正直邪魔でしかない。

 愛鶏へと視線をやると察してくれたらしく私の肩から飛び立ち、まっすぐに北郷の頭へと蹴りをくらわせた。勿論、着地と同時に羽を開き、他の二人への攻撃も忘れない。

「いってえぇぇぇーーー!!」

「どうして羽なのに、こんなに痛いの?!」

「甘いでしゅ!」

 絶叫する北郷と、驚く劉備。が、朱里はこれまでの経験からか、椅子から立ち上がって躱してしまう。

 あら、これは林鶏にも訓練が必要かしらね。

「ケッ?! コオォォ!!」

「なっ?!」

 一瞬驚き、そこからすぐさま北郷の頭を踏み台にして、通常の鶏には見られないような跳躍を見せる。孔明の顎に見事直撃し、倒れかけるのを北郷が支えている。

「あぶなっ!」

 あまりにもこの陣営の子たちが不勉強すぎて、ここ一月ほどは私も体を動かせていない。護身程度であっても、体は動かさなければ鈍ってしまう。

 この乱世、護身術の一つも覚えないで旅など無謀だとあれほど言ったにも拘らず、どうして学ばなかったのかは、今度二人が揃った時にでもじっくりとその考えを聞かせてもらいたいものね。

 特に弱いことを自覚している孔明。士元のように手段を用いることもなく、『幽州にいく途中で賊に襲われていたところを救ってもらった』なんて、その無鉄砲さには驚かされたものだった。

 しかもそれを、さも武勇のように語る北郷と武将の面々、そして頬を赤らめる孔明がついていれば、容赦もなく説教をしても仕方ないわよね。

 まったく、馬鹿ばかりで頭が痛いわ。

「はぁ・・・・」

 本来なら、将来を担う翼徳や町の子たちに勉強を教えることを優先したいというのに、どうしてこうも馬鹿が多いのかしら?

 政に関しても、私がわざわざわかる程度に内容を噛み砕いて説明するという余計な手間を省きたい。

 が、それにはある一定の学が必須なのだから必要な期間だと思うしかないだろう。

「次は翼徳がくるのだから、さっさと場を開けなさい」

「えっ? 法正ちゃん、ご飯はいいの?」

 劉備の問いかけに対して、私はこの一月内に北郷の言葉を元にして作った固く焼き上げた『パン』と呼ばれるものを出す。本来なら元直たちが作る菓子のように柔らかい物らしいのだけど、保存食として自分で作った試作品。

「これがあるから結構、あなた達はなるべく民に顔を覚えてもらうために市へ出なさい。二つの象徴がない今、あなた達に出来ることは顔を売ることよ。

 民のことは民を見て、学びなさい。護衛は・・・・ 林鶏」

「コッ!!」

「任せたわよ」

「コケコッコオォォォーーー!」

 手を叩いて三人を追い払い、三人は逃げるようにして書庫を出ていく。その姿を見ながら、私は墨を一つの硯にまとめておく。とにかくあの子は漢字を書くことで覚えないといけないのだから、墨はいくらあってもいい。

「・・・・固いわね」

 茶を注ぎ、腰にかけてある巾着から干し柿を取り出し、試作品を食べる。

 試しに作ってみたはいいが、水分が欲しくなる。が、よく噛まざる得ないため、腹には満たされる。保存食として有効だけれど、水分をどう補うかが問題ね。

「干果と麦を増やすように書類を必要・・・ それに伴い、農地開拓と治水工事は優先しないといけないわね。それにどれくらい持つかを確認しないといけない・・・

 となるとほぼ同条件で作り、荷物のように括って外に放置してみましょう。

 町の警邏も軍がいちいち動いていたら民を怯えさせてしまうし、人が足りない・・・ 今の一兵卒から使える人材を発掘しないと無理だわ」

 先日、町のいざこざに将が吹っ飛んで行くなんて馬鹿なことをした関羽たちに説教をしたばかりであり、まだ小規模の今ならいいがあの子たちの考える先にある物を見据えるなら今から身軽に動ける信頼をよせる部下が必須だろう。

「頭が痛いわね・・・・」

 教育は出来ても、人手不足だけはそう簡単に解消されるものではない。けれど、そこで立ち止まっている暇はこの陣営にはない。

「仕方ないわね・・・ 関平と孔明に人材発掘の件は任せましょう」

 今は軍の鍛錬と賊討伐を行っている関羽にそんな余裕はなく、何よりあの子は人に警戒される。

 翼徳に人を見る目はまだないし、あの子にはまだ学ぶことの方が重要。

 まだ理論が出来上がっていない今のあの子の自由な発想は、子どもならではもの。それをいかに失くさずに文字を覚え、勉強を『楽しい』とさえ思えれば、自分から自然と吸収していくことだろう。

 それがどんな方向になるかが、私は楽しみでしょうがない。

「法正お姉ちゃーん! 来たのだ!!」

 そう考えていると翼徳が扉を開け、飛び込んできた。そのままの勢いで私の腰に飛びついて来たのを受け止め、頭を撫でた。

 『子どもは大陸の宝』。これは我が家の二つ目の家訓であり、私自身の信念。

 蜀にいる私が唯一『友』と呼び慕う黄忠(紫苑)と、その娘である璃々のことが脳裏に浮かんだ。しかも蜀でまともな部類に入る同僚でさえ、厳顔、魏延、張仁という自分の本能に従って生きる輩ばかり・・・・ 追い出されたとはいえ、二人のことを思うと早まった行動をとったとわずかに後悔の念を抱く。

 文を出すことを固く心に決め、翼徳と視線を合わせた。

「翼徳、扉は静かに開けなさい。壊すことは簡単でも直すことはとても難しい・・・

 そうね、今日はいつもの書き取りを終えたら、裁縫を教えてあげましょう」

「裁縫? 難しそうなのだぁ・・・・」

 予想通り、あまりしたことがないらしく、その顔は渋いものへと変わってしまう。

 が、戦うことが大事なのは事実であっても、翼徳は女の子。

 劉備や関羽の料理や孔明の趣味、関平のように無趣味になるようなことは論外。それを実感するのが女性の本能に近いものだけなど、私が絶対に許さない。

 『戦場に立っているから』という理由で、この子の可能性を潰すのはあってはならない。

 勿論それは、全員に言えたことだが。

「だからこそ、作ることの大変さがわかるわ。

 それに私がちゃんと教えてあげるから、大丈夫」

「にゃぁ・・・」

 目に見えて表情を曇らせる翼徳の頭を撫でてから、飴を掲げることにした。

「とりあえず、書き取りが終わったらお茶にしましょう」

「にゃ! 頑張るのだ!!」

 すぐさま笑顔になって、机に向かう翼徳を見届けてから、私も再度書簡を広げた。



「法正お姉ちゃんはどうして、みんなに真名を許さないのだ?

 みんなのこと、嫌いなのか?」

 書き取りの最中に話しかけてきた翼徳の問いに私は動揺することもなく、筆を動かす。

 この質問はこの一月の間に、北郷にも、劉備にも、関羽たちにもされたもの。というか、私としばらく行動を共にした者は、ある例外を除いて誰しも一度は問うてくる。

「それに、どうして鈴々には優しいのだ?

 愛紗が『口調が全然違う!』って怒ってたのだ」

 この子は、敏い。

 否、子どもは大人が思っているよりもずっと大人のことを見ているし、現状を理解している。言葉でそれをうまく説明できないことと、詳細までは知ることはなくとも、どんな事態はかはわかっている。

 だから私は、子どもであっても嘘は吐かないと決めている。わからないならわかるように話すだけ、それは大人であっても対応は変わらない。もっとも無知であることを自覚せず、感情のままに詰め寄ってくる者に対して容赦はしないが。

 嘘はどんなものであっても、人を傷つけてしまう。

「翼徳、真名の意味や重要性は知っているわね?」

「心を許した証、なのだ!」

 手を止めてしまった翼徳にこれは話が終わるまで集中しそうにないので、茶を淹れに立ち上がる。

「そう、己の生き様、死に様を描き、心の在り様を示すのが真名の意味。出会って数日の相手、信頼に置けない者には預けるとなど出来ない。

 今は乱世、ましてや私はあの二人に『雇われている』程度の存在よ。いつ裏切るかはわからない」

 真名の価値観は人それぞれであることはわかっているが、どうにも真名の価値を安く見すぎている気がしてならない。ここのところ数日を共に過ごすだけで、真名を許すものが多すぎる。私にはまったく理解できない。

「私はね、翼徳。

 私自身が信じようと思い、この背を預けるに足る者だけに真名を預ける。そう決めているの。

 私にとって真名を交わすということは、命を預けることと同じなのよ」

 そう言うと翼徳は干果を口に含みながら、両手を組んで何かを考えるようにしていた。髪留めの猫もなんだか難しそうな顔をしていて、少し可愛らしい。


 私が子どもに優しいのは事実だが、同時に私は残酷でもある。


 命を奪うということを、彼女たちが行おうとしている行為の難しさすら私は翼徳にも話している。

 もっとも劉備と関羽からは頬を叩かれ、孔明にはその場で非難され、北郷からは言い方に関しての注意をされ、唯一理解を示したのはおそらく同様のことを関羽にしたのだろう関平のみだった。

 それがあってもなおこの子は私に笑顔を向け、頬を叩いた義姉たる二人を引っ張って私に謝罪させた時は驚いたものだった。

「なら、鈴々は頑張って、法正お姉ちゃんから信頼を勝ち取るのだ!

 だから、勉強もたくさん頑張って、出来ることをやるのだーー!!」

 その言葉に私は呆気にとられ、おもわず笑みをこぼしてしまう。

 目には気力に溢れ、固い決意を宿している好ましい目を私はこの地に来て答えたのと同じ数だけ見ている。

 この陣営は知識や経験、武の面で足りないのは事実。けれど、この馬鹿がそれを得た時どうなるか、私は楽しみでならない。

「楽しみにしておくわ」

 もっとも翼徳のように素直に口にする者はいなかった。仮に同じことを思っていたとしても口にした分だけ、翼徳が一番私と真名を交わす日を近く感じる。

「でも、少しだけお兄ちゃんたちに優しくしてもいいと思うのだ」

「それは無理ね。

 あの子たちが『王』と『軍師』である限り、少しは出来るようになるまで容赦するつもりはないわ」

 お茶を手にして、こうして私を笑うことを知っているのは今のところ翼徳だけであることはここだけの秘密。


『荀攸ーーー!! 貴様は私の生涯の敵だぁ!!!』


 頭に響く叫び声、それの発信源が関羽ではなく関平であることがさらに私の頭痛を酷くさせる。

「・・・・・翼徳、今日の勉強はここまでになるかもしれないわね」

 書簡を閉じ、筆を置いて立ち上がる。代わりに立てかけていた杖に手を伸ばし、感触を確かめるように数度振ってみる。芯に鉄を仕込んである特注品だが、最近振るいすぎているせいか痛みが激しい。

「・・・・替え時かしらね」

 長く使っている物のため愛着もあるが、これを機に数本新調しておくべきかもしれない。軍に同行する際は流石に杖だけというのも心もとないし、仕込み杖を作っておくことにしましょう。

「法正お姉ちゃんは大変なのだ・・・

 大丈夫なのら? 法正お姉ちゃん、ちゃんと休んでるのか?」

 そう言ってくれる翼徳の頭を撫でながら、その手元にあった書簡を軽く確認しておく。

 字を覚えるのも順調、内容も徐々に兵法に切り替えているというのに辛そうには見えない。今度は、人心掌握等についての書を用意しておくことを検討しましょう。

「あなたがそう言ってくれるだけで十分よ、翼徳。

 事態の把握に行ってくるわ、ここの片づけを任せてもいいかしら?

 裁縫は後日、時間を作りましょう」

「はーい、なのだ!

 片づけたら、鈴々もそっちに行くのだ!」

「えぇ、ただしちゃんと片づけてからくるようになさいね」

 冗談交じりに杖を振るってそう答えると、その後ろで鈴のように笑う声が聞こえた。



「何をしているのかしらね? あなた達は。

 馬鹿なのかしら?」

 声のする方へと向かってみれば、そこに転がる原因と思しき書簡が二つ。

 一つ目は士元から孔明への手紙。そしてもう一つは・・・・ この文の長さから言って何かの書。

「士元・・・・」

 その書簡を拾い上げ、その内容におもわず苦い顔をしてしまう。何故、関平が叫んでいた理由がそれを読んで理解出来てしまった。

 そこに書かれている内容は女学院の頃から私には理解の出来なかった、同性同士の恋情を書いた物語。

 物語を書くこと自体は良い、文章を繋げること、構成を考えることは先の見えぬ世の先を読むことに似ている。練習台になると言ってもいい。

 けれど、これを一般的な異性の恋愛として何故書かないのかを、半刻ほど問い詰めたい気もする。

「瑾・・・・ あなたは凄いわね?」

 当然皮肉だが、あの腐の元凶に何かしらの報復が出来ないかを今度試してみたいものね。

 関平の怒りを抑えようとしている北郷と関羽、そして私にすら気づくことなく読みふける劉備。

 腐の汚染が拡大しているわね、どうしましょうか。あぁ、いっそ・・・・

「ほ、法正しゃん?! どうしてここに!」

 孔明の言葉に考えが中断され、私はそちらを見る。気づくのが遅すぎるわね、気配の察知程度は出来なければ命取りになる可能性もあるし、やはり護身術は仕込みましょう。

「状況を見るに、曹洪殿と荀攸殿の絡みを書いた士元の妄想の産物があなたの元に届けられ、それを偶然読んでしまった関平が我を失ったということでいいかしら?」

 驚いている孔明は私の推測を聞くと目を泳がせ、いくつかの書簡をその懐にしまう。

 士元、あなたは仕事の片手間に何をしているのかしらね?

 次に北郷へと視線を移すとすぐさま姿勢を正し、冷や汗をかいている。それに対して私は、翼徳に向けた意味とは別の感情一切籠っていない笑みを向けた。

「さ、流石だね・・・ 法正さん」

「士元と孔明、そして瑾のこの病気は女学院の頃からよ」

 私はそう言ってから杖を手に当てて音を鳴らし、その場に居る者全員の注目を集めてから、ここ最近彼女たちにとって死刑宣告になりつつある一言を言い放った。

「さぁ、あなた達、覚悟はいいかしら?」



 青ざめた顔をした五人を流石にその場で説教すると外聞に響くので、全員を一室にて椅子に座らせた。

「まず、関平。

 あなたは妄想の産物と現実を見分けることも出来ないのかしらね?

 いくら曹操殿の下でこれが売られているとはいえ、荀家が先程の言葉を聞いていたら厄介なことになっていわよ?」

 この手の物を一つの商品として見ている曹操殿を果たして大物とみるべきか、奇人とみるべきかは迷うところだが、この弱小勢力が荀家に睨まれるなど面倒なことになることは避けたい。

「だが!」

「これを真実とあなたが思うことと、彼に対して怒りを抱くことは別に止めはしないわ。

 やるなら堂々と、こんな届かぬところで叫ぶのは意味がない行為だと言っているのよ。それこそ家でも、勢力ではなく、彼個人に言うべきこと。

 あなたがこの城内で将として叫んだ場合、一勢力の総意ととられかねないことを覚えなさい」

 関平の反論が飛ぶ前に先手を打ち、案の定関平は怒りの矛を降ろした。北郷が何か言いたげにしていたが、それは睨みつけて黙らせる。

 正直、荀彧の弟がどうなろうと私は知ったことではない。あの書の素材とされている時点であちらでも理不尽な扱いに慣れているか、実際に男を好む性癖でもあるのでしょう。

「関羽と北郷、そして劉備。

 あなた達は王と将軍として立場に立っているのだから、事態の収束をもっと速やかに行わなければならない。上に立つ者が、下の者と一緒に慌てふためいてどうするのかしらね?」

「「「はい・・・・」」」

 本人たちも自覚があったらしく大人しくうなだれ、私はそれ以上言及を控えた。

「では、関羽と関平は調練に戻りなさい。

 今日すべきことをやり、夜は書庫に来るように」

「あぁ、了解した」

「それでは失礼する」

 ここから話すことにいると面倒な二人を早々に追い払い、私は原因となった書簡を広げる。

 内容はともかく、これらには確かに需要がある。乱世の中で荒んでいく人の心を和らげる効果があるのは事実、それに良い収入になりそうね。

「法正さんが真面目にあれを読んでるのって、なんか嫌な予感しかしないんだけど?」

「えっ、そう? 結構面白い内容だと思うんだけどなぁ」

「桃香様、では次にこの書を読んでみてくだしゃい!」

 残された三人が私のことを見ながら、ひそひそと話す声は全て聞こえている。

 特に北郷、あなたが私をどう思っているかがよくうかがえる言葉ね。なら、期待通りにしてあげましょう。

「孔明」

 私は今考えたことを話すために、現状腐を広めるのに最も適している者の名を呼んだ。


 これで多少は装備を揃えることも出来るかもしれない。と、淡い期待を込めて、私は一人の君主を生贄に捧げた。

 これで良くも悪くも、彼の名は民に知られる。まさに一石二鳥の案を提示することによって。


これの次は、この時の北郷の視点ですね。

間に投稿する可能性が高いです。そして、その時にこちらは数字を消すかもです。


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