24,正対後 道中
久々の本編です。どうぞ。
曹操さん達と別れた俺達はある場所に向かって行軍し、曹操さんから返してもらえた白き衣と靖王伝家を俺と桃香は身に着けることにした。
「うわー、懐かしいなぁ」
久しぶりに着た白き衣が懐かしくてまじまじ見てると、俺は思い出さなくていいことを思い出してしまい、顔が引き攣る。前なら引き攣るようなことじゃなかった筈なのに、改めて考えると結構恥ずかしいことで出来ることなら忘れたままでいたかった。
「うん? どうかしたの? 北郷。
どっかに虫食いでもできてたとか?」
「全然そんなことないから大丈夫だし、曹操さん達に失礼だからな?!」
隣にいたこともあって桃香がいち早く俺の硬直に気づいて声をかけてくれるのは嬉しいけど、もっとましな言葉選べなかったのかよ?!
新品同様とまではいかないけど埃がついてることなんてなくて、むしろ俺が持ってた方がもっと汚れてただろう。まぁ、人の服を預かるって言ってたんだから、誰かが袖を通すなんてないだろうし当たり前なんだろうけど。
「だってまじまじ見てたから、どっかおかしかったのかなーって。
あぁ! 体が大きくなってちっちゃくなっちゃってたとか?」
「そ、そうなんだよ!最近走り込みしたり、素振りしたり、紅火と取っ組み合いやってるからかなー。少しは筋肉ついてきたみたいから、ちょっときついかなーって」
話題をそらす手段を探すために適当に言いつつ、力こぶを見せるように腕を曲げてみるも悲しいことに力こぶは出来ない。体を鍛えるのを日課にしたのって法正さんが出てった後だし、そんなに日数が経ってないから当然とはいえ力こぶってどうやったらできるんだよ・・・
「それに久しぶりに着たからやっぱり懐かしくってさ」
「あー、そっか。
私のは家にあって大事に扱わなきゃいけない重たい剣だけど、その服は北郷がこっちに来た時から着てた物だもんね」
本当に思ってたことを並べたら意外と納得してくれて、俺はほっと胸を撫で下ろす。
桃香達が最初の頃に俺を神様みたいな扱いしたから『白き衣』なんて仰々しく呼ばれてるし、皆があんまりにもキラキラした目で見てくるから言い出せないけど、朱里と法正さんが着てる服と同じただの制服なんだよな・・・
「ご主人様はやはり天の国のことが・・・」
「あらあら、愛紗ちゃんったら違うわよん。ご主人様はね、改めて自分の手元に帰ってきた物の意味に気づいただ・け。
ねー、ご主人様」
どうとでも取れるような言い回しを使って愛紗を誤魔化してくれたところまでは素直にお礼を言わなきゃとか思ったけど、お前絶対白き衣が制服だって知ってるよな?
ていうか、こっち見てウィンクすんな。気づかうように優しい目で見るなぁ!
「んで、一つお聞きしたいんですが、何故街の警備隊だった俺じゃなく、将軍補佐である愛羅様を向こうの陣営に貸し出したんですかねぇ?」
言葉こそだいぶ改善されてきたけど、苛々を隠す気のない紅火が後ろから俺達を睨む。
「そ、それは・・・」
紅火の言う通り、本来なら民との距離感も近い警備隊の隊長を務めていた紅火と数人の部下が残り、曹操さん達と連携を取って移動に伴う書類や騒動にならないように様子を見て俺達と合流するという案もあるにはあったんだけど実際は愛羅本人からの強い希望と、俺と桃香、朱里の話し合いにより、将軍補佐である愛羅を残すことにした。
「北郷、言っちゃってもいいんじゃない?」
言葉に迷った俺とは違って、桃香はどうってことないように笑って言うもんだから俺はぎょっとする
「だけど、桃香」
「説明しなかったらしなかったで紅火ちゃんはめんどくさいし、あとから北郷が責められて何か問題になるよりは私達もいるここで説明しちゃった方がいいと思うなぁ~」
それ、俺が言及されたら口滑らすって言ってない?
多分聞いても頷くだけだろうから口には出さず朱里を見れば、桃香の意見に賛成してるらしく俺を見ていた。
「ご主人様が言いにくいなら、私から説明しますか?」
「で、でも・・・」
「そうしてくれるといいっすね。
聞いたのは私から何で、何言われてもなんもしねーっすよ。俺がアンタらにとってどんだけ不遜で扱いにくい奴なのかは、嫌って程わかってるつもりなんでね」
「自覚あるなら少しは直そうぜ、紅火ぁ! あっ・・・」
思わず叫んでしまい、紅火を見るけど気にするどころかにやりと笑って俺を見ていた。
「あほか、てめぇ。
命令を聞いちゃいるが、民に近い俺がアンタらにべったりしてた方がおかしいんだよ。何せ俺は、この中で一番の下っ端なんだからな。
大体、俺の考えなんざ拾った時からわかってることだろうが」
言葉は刺々しいけど、なんでか上機嫌な紅火がよくわからない。
それに俺達は役職こそつけてるけど、同じ陣営の仲間なんだから下っ端とか気にしなくていいって言ってるのにな。
「その性格と考え方が今回あなたじゃなくて愛羅さんが選ばれた主な理由でしゅよ、紅火さん」
「馬鹿な私にもわかるように説明していただけませんかね? 軍師様」
溜息を零しながら紅火を見る朱里に紅火は口先だけ敬意を払って、その目は笑ってない。手は出さないって自分で言ったんだから手は出さないだろうけど、流れる空気までは保証してなかったもんな。
朱里は朱里で紅火を怖がることもなく睨み返すし、本当にみんな強くなったなぁ。
「いやー、孔明ちゃんと周倉ちゃんが見つめあうなんて珍しいねー」
鈴々と交代したのか、最後列から俺達に合流した王平さんが睨み合う二人の間に割り込んで、二人の顔を遠ざけるように手で顔を押しのけていく。
さすが王平さん、良くも悪くも空気を読まない。
「王平さん、私は事実を・・・!」
「私は別に喧嘩を止めに来たわけじゃないよ?
一陣営の筆頭軍師が、末端武官に本気になろうとしたところを茶化しただ・け」
文句を言おうと口を開いた朱里に、王平さんは楽しげに笑って相手にしない。確かに口での勝負は朱里の本業だし、紅火は手を出さないって言った以上フェアじゃない。
「てか関羽ちゃんとか華雄ちゃんにも言えることだけど、この陣営は適当が下手くそだよね。
私もそうだけど大体の人は君達より馬鹿で単純でもっと適当に生きてるんだから、加減しないと周囲が面白いことになっちゃうよ?」
「いや、愛紗達がまじめすぎるのもあるんだろうけど、王平さんが不真面目で適当なだけなんじゃ・・・」
「そうともいうー」
ケラケラ楽しそうに笑う王平さんにつられるように俺達も笑って、さっきまで殺伐とした空気が流れて軽くなっていく。これが王平さんじゃなきゃ少しは考えて行動してくれたとか思うんだけど、王平さんだしなぁ。
「ところで話を戻すけど、周倉ちゃんは曹操ちゃんの演説を聞いてどう思った?」
「・・・あぁ、そういうことっすか」
その言葉で察しがついたらしい紅火は乱暴に頭を掻いて、溜息をついた。
「で、感想は?」
紅火が理解したってわかってる癖にわざわざ言葉にさせるあたり、軍師独特の性格の悪さというか、女学院出身者の性格の悪さが滲み出てるよな。
「・・・すげぇって思いましたよ。
あの人の前じゃなく、後ろに居てぇって思うぐらいには」
紅火も紅火かで俺達じゃないから大人しく従うし。ていうか、やっぱりか。
実力主義者の曹操さんの考え方に、紅火が賛同するかもしれないという俺達の予想通りだった。
「でっしょー。
君主同士の会話だったから他の人達は入ってこなかったし目立たなかったけど、曹操ちゃんのところは関羽ちゃんと同じくらい強い夏候惇ちゃんと張遼ちゃんを筆頭に、他にもつよーい武官がごろごろいるんだよ?
それに人たらしは曹操ちゃんだけじゃなくて、曹仁様もいるしねぇ」
「噂は聞いてますけど、見てないものは信じらんねーっすよ。
強い男なんざ、俺はこれまで一度だって見たことがありませんから」
「あははは、私も彼が戦うところを実際に見たことないかな。ていうか、ここに居るほとんどの人がそうじゃない?
だってあの方が表立って戦ったのって黄巾の乱の時と、連合での動きぐらいだしー」
見た物しか信じず、自分を打ち負かした力だけを信じてやまない紅火らしい言葉に対して、王平さんも怒ることもなくさらっと受け流す。
つーか、曹仁さんについて王平さん詳しすぎじゃね? 何でそんなに知ってんだよ?!
「それにさ、周倉ちゃんは自分を一番下っ端なんて卑下するけど、ぶっちゃけ周倉ちゃん以外に出来ない仕事だよ?
ここの他の武官って強すぎだし、関羽ちゃんみたいなお堅い性格の子が街を見回ってたら皆落ち着かないじゃーん。かといって、のほほんとしてる君主二人が街の見回りとか無理だし、孔明ちゃんなんて体力ないから見回りなんて出来っこないし」
「出来ましゅから! 歩き回るぐらいの体力はありますから!!」
「私は向いてるかもしれないけど、普段が適当すぎて取り締まるなんて柄じゃないんだもん。
その点周倉ちゃんはそこそこ強くて、振る舞い方とか雰囲気が民に近い。それでいて一般兵の家族にも鍛錬の鬼とか、しごきの鬼とかで恐れられてるから距離感がちょうどいいんだよねー」
ちょっと待とうか。紅火の通称が鍛錬の鬼とか、しごきの鬼とか俺初めて聞いたんだけど?
「じゃぁ、なんすか?
愛羅様は抜けても平気っつうことっすか?」
「ひどく言っちゃえばそうなるね!
将軍補佐なんてあってないようなものだし、あとは単純に候補に挙がった人の中で私と周倉ちゃんより信頼が置かれてるのもあったんじゃない?」
愛羅が絡んできたこともあり、普段は敬意を払う王平さんに対してすら牙を向けだす紅火に王平さんは歯に衣を一切着せない。それどころか、火に油を注ぐ様なこと言っている。
「周倉ちゃんは関平ちゃんに仕えてるようなもんだし、私も客将から一応立場を変えはしたけどまだまだ他所に貸し出すほどの信頼はないもん」
別に信頼してないわけじゃないと口を挟みたい気持ちもあったけど、この二人は否定したところで言い返されることが目に見えてるんだよな・・・
「そのあたりの心配は無用だ。
愛羅は自分の心にわずかでも不安や陰りがあるのなら行動に移すことも、戻るという約束もしない」
愛紗が王平さんの言葉を付け足すように告げれば、王平さんは肩をすくめて苦笑する。
「それに、だ。
愛羅は勿論ご主人様を始め、信頼を置いていない者に一部隊や後方での守りを任せたりはしない」
遠回しにここに居る全員を俺達が信頼していることを代弁してくれる愛紗に感謝しながら、俺は話題を変えることにした。
「そういえば朱里、次に行くところについては皆に伝えてないよな?
この場で説明してもらってもいいか?」
「ご主人様が説明してくださってもいいんですよ。
人に教えることは覚えることを再確認するにはちょうどいいんですから」
王平さんに止められて不完全燃焼になった苛々が俺に向けられてるような気がするのは、俺の被害妄想かな?
「抜き打ち試験だね!
そういうことだから北郷、説明よろしく」
「へーい・・・
えーっと、俺達が今向かってるのは荊州っていう劉表さんが治めてる土地で、袁家と馬家に次ぐ大陸の実力者であり、袁家と敵対していることで有名・・・らしい」
名家になればなるほど大なり小なり敵対しているらしいけど、劉の名を持つわけでもない袁家が大陸一を明言していたり、前回の連合においてもトップを務めたりしていることをよく思ってなかったらしい。
「で、そこに転がり込むしたってか?」
「違います。
これは劉表殿の息子である劉琦殿からの正式な依頼でして、向かってくる袁家に対して共同戦線を張るように持ち掛けられたんでしゅよ」
「っていう建前で、跡目争いのために少しでも味方が欲しかったんじゃない?」
朱里と紅火の仲の悪さがそろそろ何とかしないとやばいような気がする・・・ お互い仕事っていうぎりぎりのラインで守ってくれてるけど、取っ組み合いのけんかとか始めないよな?
ていうか、王平さんがまた聞き捨てならないこと言ってるし?!
「何で王平さんがそんなこと知ってんだよ?!」
「荊州の狸爺がいろいろしてることは有名な話だもーん。
旅する時はそういうのも潜り抜けていかないし、個人的にも気になるところがあったしね」
「劉表、か。
私も少しではあるが聞いたことはあるな、え・・・ 賈詡が随分悩まされていたようだ。それにきな臭い噂も絶えないにもかかわらず、尻尾をつかめないと零していた」
いろいろな情報が出てきたので俺は思わず頭を押さえるけど、大体は朱里が言っていたことと一致してる。
広い荊州には多くの名士や商人達が集まり、それらを治めているのが劉表さん。そして、劉表さんには劉琦と劉琮という二人の息子がいて、今はまだ表立って後継者争いにはなっていないがそれも時間の問題だろう。また劉表さん本人もどちらを後継にするかは明言せず、乱れた大陸の中でお世辞にも善政とは言えないが民の生活を維持させている太守の一人なんだそうだ。
ただ多くの名士を抱えているのが原因なのか劉表さんからは黒い噂が絶えず、周囲には不審な死が多く、民にこそ被害はないが名士達の間では血で血を洗い、金と権力の繋がりは誰かに管理されているかのように最終的にある人物に行きつく。
「北郷、怖い?」
俺が黙っていると桃香が声をかけてくれて、俺は素直に頷いた。
人の命が消えるのは血に塗れた戦場だけじゃなくて、もっと得体のしれない対談の場でも起こりうることが怖い。
「でも、怖いとかばっかり言ってらんないよな」
両手で頬を叩いて、気分を無理やり変える。
怖いとか、辛いとか、不安だとか、暗いことばかりを考えてもどうしようもない。
「曹操さんとの交渉とかは全部桃香達任せになっちゃってたし、次は俺も隣に並ぶよ」
左拳を桃香に伸ばせば、桃香は笑って右拳で受けてくれる。
「うん、頼りにしてるよ。相棒さん」
「おう、任せろ。相棒」
曹操さんと曹仁さんとも違うこの距離で、俺達は俺達の絆を確かに感じていた。
次は赤の本編か、白の次話の予定です。




