22,袁術軍 襲来
ただし、サブタイトル通りとは限らない
でも、書けましたー。
さぁ、どうぞ。
法正さんが居なくなってからというもの、俺は桃香と朱里と共に攻めてくる可能性の高い袁家の対策に追われていた。
曹操さんへの文や商人とのやり取りは桃香と朱里が積極的に片づけてくれたので、俺は今回切り崩すことになった蓄えを少しでも増やすように洗濯板や洗濯ばさみなどの実用品、竹とんぼや水鉄砲などの玩具類の意見を商人さんや職人さん達に話すことで情報料として利益を得ることに成功した。
そして、法正さんが居た時から俺が桃香と朱里を説得させた上で地道に行っていたことももうじき実を結ぶだろう。
「にしても、石鹸があって洗濯板がないなんて意外だったなぁ」
灰と廃油を使った石鹸は曹仁さんによってすでに普及を始めていたようだが、洗濯板や洗濯ばさみは存在しなかったことには驚いた。まさかあの曹仁さんが忘れてたとか、思いつかなかったなんてないだろうけど。
「あとは何かやることあったっけかな・・・」
法正さんが居なくなってからというもの、仕事に没頭することで何も考える暇を与えないようにしていたためか、ほんのわずかでも時間が空いてしまうとふとあの人のことが頭に浮かんできてしまう。
「あぁ、俺は・・・」
頑張っていれば、いつかあの人が戻ってきてくれるなんてことを思ってるのかもしれないなぁ。
「やぁやぁ、振られ君。
暇を持て余してるところ非常に悪いんだけど、私の暇つぶしに付き合ってくれないかい」
「通り魔か! あんたは!!」
言葉ならぬ言の刃で人を斬る、一切の容赦のない愉快犯。
「いやー、君は知らないかもしれないけど、今袁術軍が攻めてきてるからねぇ~」
「いや、知ってますから!
朱里と桃香と作戦会議に追われてましたから!!
愛紗と愛羅と華雄さんが出てるように指示したの俺ですから!!」
いつも通り失礼極まりない王平さんの言葉に怒鳴って返すと、王平さんは何故か目を丸くする。
「君、仕事できたの?!」
「むしろ、あんたが出来ることが意外だよ!!
待機だからって君主の所に来るぐらい暇なんですか、あんたは!」
「馬鹿だなぁ。
暇は出来るものじゃなくて、作るものだよ?」
王平さんをよく見てみれば、今日は珍しくあの馬鹿でっかい大剣を背中に背負っていて、かなりの重量がある筈なのにいつもの全く変わらない軽佻な動きを見せている。
やっぱり、この人も化け物だよな。
「いやいやー、化け物は貂蝉だけ・・・ と思ったけど、あれを受け入れてる君も充分化け物か」
「もう・・・ 諦めました」
「あ、諦めたの?
結婚、おめでとう」
俺の言葉に満面の笑みで祝福する王平さんがこれまた憎たらしい。
しかもこの人、俺と法正さんの一件知ってるし。
「で、何ですか。
暇を作った王平さんは、俺をからかいに来たんですか?」
「からかいなんて優しいものじゃなくて、むしろ傷口に塩を塗り込みに来たかな」
「あんたは最低だ!」
さっきと変わらない満面の笑みでとんでもないことを口にする王平さんは、執務室の机に座っていた俺の前に立つ。
「最低じゃないよ~。
女の子の告白の答えを出さないで、勝手に別の人に失恋したどっかの誰かよりは♪」
「げふぉぅ・・・」
「まっ、関羽ちゃんも返事を先延ばしにした辺り、怖かったんだろうけど」
楽しそうにくすくすと笑いながら、王平さんは俺の目をじっと見つめていた。
「君さぁ、真面目に仕事やってれば正ちゃんが帰ってくるとか思ってない?」
「そ、そんなことは・・・」
図星を突かれた俺はおもわず王平さんから目を逸らすと、その瞬間王平さんの手が俺の顔を強くつかんだ。
「目を逸らすなよ、少年~。
目の前の現実を見てるふりして仕事に逃げて、そんなことじゃぁ自分を想ってくれてる子だっていつか失っちゃうよ?」
「なっ・・・
王平さんに何がわかるっていうんですか?」
「なんも?
それとも君は、私に何でもかんでもわかってほしいの?
人のことを見透かすなんて、全てを理解出来るなんて誰にも出来っこないんだよ? まぁ、死に近かった子は例外みたいだけどね」
俺の反発に対してものらりくらりと躱しながら、王平さんは何も変わらない。
「で?
君主の仕事を真面目にしてるふりしながら、振り向いてくれなかった女の子のことをいつまでも考える悲劇に浸ってるのはいつまで?」
「なっ・・・・!
なら、どうすればいいっていうんですか!!
俺にはもう、仕事ぐらいしかすることなんてないじゃないですか!」
確かに法正さんが居なくなったことを仕事で紛らわせていたのは事実だけど、真面目に仕事をやって、懸命に日々を過ごしていることをここまで言われる筋合いなんてない。
「君はさー、そんな強い人間なの? 何でも出来ちゃうような万能超人なの?
悲しみっていう力を、仕事に割り当てられるぐらい器用なの?
現に今、仕事しかないとか言う戯言を言う男が、仕事で自分を誤魔化せてるなんて思えないけど?」
「だから! 王平さんは何が言いたいんですか?!」
王平さんの言葉の意味が全く掴めず、俺はただ怒鳴り散らす。
「だーかーらー、辛いのに働けなんて誰も言ってないよ?
君はさー、何のために劉備ちゃんとか孔明ちゃんが面倒な部分をやってると思うの。君に少しでも楽をしてもらうためでしょうが」
「えっ・・・・」
王平さんの口から飛び出したのは、俺が知らなかった事実だった。
「えっ・・・ て、まさか気づかなかったなんて言わないよねぇ?」
「だ、だって・・・ あの二人が俺を気遣うだなんて・・・
普段は俺をネタにして腐の本を作ったりだとか、俺に仕事を押し付けて少しでも楽をしようと結果的に押し付け合ったりしてる桃香達がそんなことを考えるなんて・・・」
俺の言葉に王平さんが複雑そうな顔をして、掴んだままの俺の頭を離した。
「あー・・・
そう言えば、あの二人の普段の行いもそこそこ悪かったもんねー・・・ いや、私も他人のことは言えないんだけど」
でも、言われてみれば今回は俺だけが知り合いと連携が取れることばかりで、商人とのやり取りは朱里が、曹操さんは桃香が担当してくれてたっけ。しかも、いつもならお互いを見張るために執務室で行う仕事も俺は自室で行っていいって許可も下りてたんだよな。
「で、私がここに来たのは張飛ちゃんに頼まれたんだよね」
「馬鹿なっ!
法正さんの教育の所為で毒舌ちびっ子になっている鈴々にまで気遣われるだと?!」
「君も口悪くなってること、気づいてるかなー?」
そんな、気遣いとは無縁な皆に気を遣われるなんて・・・ ってちょっと待て!
「おーい、聞いてるかーい?」
「王平さん!!」
「うわっ、復活した」
衝撃を受けて膝をついていた俺は突然顔をあげると、王平さんは驚いたように二歩下がった。
「あなた、言いふらしたんですか?!」
「な、何を?」
「えぇい!
きょとんとしたような顔をしても、ネタは上がってんだよ!!」
形勢逆転し、俺は驚いたままの王平さんの襟首に掴みかかった。
「俺が法正さんに振られたことを言いふらしただろ!」
「感謝の言葉よりもそっちが先なの?!
っていうか、言いふらしてないんだけど!?」
白々しい王平さん言葉なんて相手にしていられない。何より・・・
「俺が法正さんのことを好きだなんて俺自身だってあの時気づいたのに、誰かが知ってるわけないだろうが!!」
「一目瞭然っていうか、『正ちゃんがいなくなる=君が振られる』っていうの共通認識だったんですけど!! 兵や将に至るまで!」
「えぇい、まだ白を切るか!
ハッキリ言ったらどうですか、面白おかしく脚色して言いふらしたって!!」
「えっ、ちょっとマジでムカついてきたからしばいていい?
いくら私でもそこまで傷口抉るようなことしないんだけど?! 瑾ちゃんじゃあるまいし!」
する人、居んのかよ?!
と思ったけど、今はそこより目の前に噂を広めたと思われる人の方が重要だ!!
「いいから、キリキリはけや!」
「流石に物理で言ったら私の圧勝だから何もしてなかったけど、ぼちぼち怒るよ?!」
俺達がそうしたやり取りを部屋で行っていると、突然扉が開かれた。
「うっせーなぁ、何騒いでんだよ。振られ男」
紅火の言葉におもわず黙って、そっちを向くと紅火は相変わらず嫌そうな視線を向けながら俺と王平さんを交互に見つめた。
「毒舌女の次は年上狂いかよ、節操ねーなぁ。
愛紗様はこんなののどこがいいんだかなぁ」
「聞いて、周倉ちゃん。
振られ男が私を無理やり・・・」
「紛らわしい言い方をするなぁ!!」
紅火の言葉はいつも通りだから気にしないが、よりにもよって元凶と思われる王平さんから出た言葉に俺は怒鳴り続ける。
「王平隊長ならそんなの余裕でぶっ飛ばせるでしょうが、遠慮しなくていいんじゃないっすかねぇ」
「そんなことより紅火、俺が法正さんに惚れていたことは共通認識なんかじゃないよな?!」
「あぁん?
てめーの所為で警備隊の仕事が増えてたことを知らねぇのか? てめぇ」
俺に視線を合わせて、今にも舌打ちを打ちそうな紅火は嫌そうに俺の自室へと侵入し、我が物顔で椅子に腰かけた。
流石元・山賊の統領、物凄く様になってる。
「街のガキどもから、あの女をじっと眺めてることで苦情が出まくってたんだよ」
「俺、ストーカー扱い?!」
「あの女、俺達には厳しいけど、ガキどもに慕われてたからな。
つーか、すとーかーってなんだ?」
今にでも煙草を吸いそうな紅火に、ドラマに出てくる刑事の姿を幻視した。
「いや、あの・・・ その・・・」
「ほーぅ、説明しにくい言葉なのか」
ヤバい、何を言っても藪蛇だ。
でも、説明なんかしたら街での俺の呼び名が『すとーかーの御使い』になってしまう。
「まっ、いいけどよ」
流してくれたーーーーー! よかったーーーーー!!
「あんたが何かしでかすなんてことは、今に始まったこっちゃねぇし」
「げふぅ・・・」
俺が倒れ伏すと、追い打ちをかけるように王平さんがドヤ顔で肩を叩いた。
「ね? それぐらい共通認識だったでしょ?」
「俺は知らなかったんだーーー!!」
俺の叫びをどうでもよさそうに聞き流す二人にさらに打ちのめされながら、俺は再び顔をあげて二人を見る。
「で、結局のところ、王平さんは鈴々に何を頼まれたんですか?」
「君をぶちのめせってさ。
『人の気遣いを素直に受け止められない奴なんて、一回王平お姉ちゃんに叩きのめされればいいのに』って言ってたから、二つ返事で受けてきたの」
そう言うが早いか王平さんは俺の腰を掴んで荷物でもぶら下げるようにしながら、窓を唐突に蹴破った。
「じゃっ、華雄ちゃん達が帰って来るまで、私と一緒に訓練しよっか」
「私もいいっすかー?
そいつで憂さ晴ら・・・ じゃなくて、主殿の実力を改めて知っておきたいんで」
「勿論」
「勿論じゃねー!!
っていうか、憂さ晴らしって言った! 弱い者いじめして楽しいか!! 紅火」
「あっ? 私らの統領なんだろ? 一番上なんだろ? 根性見せろや。
大体、いつまでもよわっちぃままでいられるわけがねぇだろう」
ヘラヘラと笑う紅火が異様に恐ろしく、かつて対峙した時とほとんど何も変わってないことを改めて知る。
ていうか、本当に愛紗達の前とは大違いだよなぁ・・・
「心配するこたーねぇよ、私らの中で一番つえぇー人達が戦ってんだ。長引くこたねぇよ。
まっ、それまで体力が持たなかったら、お前はその程度ってことだろ。
道場だかなんだかしらねーけど、あっちはそんなに生温かったんだろ?」
「上等だーーーー!」
「うわー・・・ ちょろっ」
王平さんが後ろで何か言った気がするけど、俺はもう一歩も引きさがる気なんてなかった。
「ぜってぇ、紅火から一本取ってやる・・・!!」
「一本だぁ? てめぇ如き軟弱もんに、とれるかってーの。
なんなら手加減して、右手一本で相手してやるよ」
「いくらなんでも舐め過ぎだ、コラァ!!」
紅火の戦い方は何度か見てるから知ってるけど、一本の曲刀を両手で持ち替えながらくるくると戦うのが得意で、一撃は浅く速い攻撃。
だけど、その戦法で右手一本とか舐めてんのかぁ!
「うわぁー、馬鹿だぁ・・・ でもまぁ、気分転換になってるみたいだからいっか。
じゃぁ、私が審判やるねー!
勿論、今待機してる兵の皆も連れてきて♪」
事態がどんどん大掛かりになっている気がするけど、紅火と睨みあってる俺はそれどころじゃない。
今はただ、目の前の紅火から一本取ることだけしか考えていなかった。
冬雲だって何でも出来るわけでもなく、見落とすアイディアだって存在するのです。
さて、次も白のつもりですが、同時進行で赤も進めたいんですよねぇ。
さぁ、次は本編二十九話頃から決めてたことに触れられるかと思います。




