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 洛陽にて 残念三軍師会談 【王平視点】

書けましたー。


北郷と別れた彼女のその後の行動です。

彼女は真名を明かす時まで、このまま通します。

 北郷と別れた私は、街の中心にある多分夜逃げとかして空っぽなお金持ちっぽい建物の中に入っていく。

 城を囲むように燃やしたから案外場所によっては被害ないし、こんなところを見に来る暇人なんて居ないんだよね~。まぁ、居ても私が何とかしちゃうし、ここで待ってるだろう二人に怪我なんてさせてたら、じわじわとなぶり殺しにしちゃうけどね★

「はーい!

 正ちゃん、瑾ちゃん、お待たせ~~~♪」

 建物の奥の方へと向かえば、そこには一つの座卓を囲んで二人が座って待っててくれた。どうやって入れたのかお茶まで用意して、正ちゃんはお昼代わりに干果を摘んでる。

「場所を指示したあなたが遅れるなんて、何を考えているのかしら? 平」

「愚問ね、正。

 平が何かを考えて行動しているわけがないでしょう?」

 入ってきて早々に正ちゃんの厳しい言葉を貰うし、瑾ちゃんからもさらに追い打ちをくれるけどいつもの事だから笑いながら席に着く。

 ついでに正ちゃん特製の干果もつまんで、その美味しさにさらに笑みが深まるのを感じた。

「それもそうね。

 あなたが書物の事しか考えて行動できないのと同じように、ね」

「当然でしょう?

 私はあなたのように『自分の信念』なんて曖昧なものに振り回されて生きるつもりはないもの」

 正ちゃん達が静かに見つめ合ってるけど、ほぼ同時に目を伏せてから口元だけを緩ませてる。

 二人に言ったら絶対怒られるだろうけど、私は二人のこのやりとりって嫌いじゃないんだよねー。

「とにかく、瑾ちゃんも元気そうでよかったー!

 一人でさっさと海の方に行っちゃうんだもん、心配したんだよ?」

「心にもないことを口走るのが得意になったわね、平。

 あなたが私と正を心配することなんて、ありえないわ」

 二人の睨みあいが一段落したところで声をかければ、瑾ちゃんは懐から書簡を取りだしつつ、私の言葉に応えてくれる。

 二人と会話してると、ちゃんと言わなくても私の考えてくれることを拾ってくれるからすっごく楽ー。

「心配するよー。

 主に瑾ちゃんの護衛として雇われた人達の精神とかー」

「旅路において、私自ら書物の素晴らしさを延々と語り続けていただけだから、特に問題はないわね」

「それってつまり書簡を見ただけで吐き気がして、長文を読もうとしたら発狂するぐらいだよね?」

「さぁ? それはどうかしら。

 私とは最後まで目を合わせようとしなかったから、わからないわ」

 それって目も合わせられないぐらい、瑾ちゃんに恐怖を抱いたってことじゃない? とか思ったけど、流石にこっちの仕返しの言葉が怖いから言わないでおこーっと。

 まぁ、瑾ちゃんだからわかってるだろうけどね!

「それに、その辺りは私に限ったことではないでしょう?

 一人でふらふらとした挙句、自分の趣味をひけらかして歩いたあなた」

 瑾ちゃんは私を視線で突き刺して、その視線は流れるように正ちゃんへと持っていく。

「わざわざ山の奥にある劉家の末端に仕えた挙句、譲れないものを通そうとして、結局放浪することを選んだあなた。

 どちらも私に負けず劣らず、おかしな道だと思うけれど?」

 他の人なら怯えだしそうな視線と言葉を言われてるんだろうけど、正ちゃんも私も顔色一つ変えることはない。

 だって、自分で選んだ道だから。

 誰が失敗だと嗤っても、誰かがおかしいと指摘しても、何かがそれを拒んでも、そんなの気にしてやる義理がない。

 後悔なんて歩いていくのに邪魔だから捨てたし、恥なんて知ったこっちゃないもーん。

「しかも、今は二人揃って未熟な龍と幼子同然を子育て?

 世が乱れると同時に、あなた達の頭も乱れたのね」

「世が乱れる前から既に乱れていたあなたの頭と一緒にしないでほしいのだけど?

 私が子育てなら、あなたは猛獣の調教と言ったところかしら。

 付け足すなら、私に未熟な龍も、常識も出来ていない幼子以下の存在を押し付けたのは他ならぬあなた自身でしょう」

 憐れむように溜息を吐いた瑾ちゃんと、心外であることを言葉と態度で示す正ちゃんの間に挟まれてニコニコと笑う私。

 なんだかこうしてると、女学院時代を思い出しちゃうなぁ。これこそが私達三人が揃った時に日常風景で、素敵なお茶会なんだよねぇ~♪ このお茶会に通りかかった子達の顔は何故か引き攣ってたけど☆

「残念ながら私は猛獣の調教なんてしてないわ、それには専属が居るもの。

私がしているのは精々誘導・・・あぁ、けれど最近の戦で猛獣からただの畜生(負け犬)に堕ちたわね。忘れていたわ」

 わーい、正ちゃんも瑾ちゃんも自分の雇い主だっていうのに容赦なーい。

 まっ、私も雇い主達の扱い粗雑だし、劉備や北郷(あの子達)からしたら、私も正ちゃん達と同じで扱いにくいだろうけどね。

「最近の戦、ね・・・

 そちらの陣営が井戸の底から玉璽を見つけたようだけど、本当に井戸の底にあったのかしら?」

「アハハハ!

 井戸の底にあったところを見つけるなんて、砂漠で金を拾い上げる並にありえないことだよねー」

「そうね。

 けれど、この大陸の全てが漢王朝のものだというのなら、玉璽がどこから湧き出ようと不自然ではないでしょう?」

 正ちゃんはきっと瑾ちゃんがしたことをわかってるんだろうけど、馬鹿な私にはわからない。まっ、なんとなく察しはつくけどね~。

「それもそうだねー。

 なんたって皇帝は天気だって操れちゃうって信じられてるぐらいだし、それぐらいの奇術めいたことだって出来ちゃうよね」

 だから、二人がそれ以上言及しないなら、私はなーんにも知らなくたっていいし、知らない振りだって出来る。

 たとえばこの戦いが袁家の手の中で行われてるように見えて、その手自体が他の誰かによって用意されたものでも、私は別にどうでもいいしー。

「結局、この連合はみーんな好き勝手やって、生き残った陣営はそれなりの結果を持って帰るってカンジだよね~」

 私がそう言うと正ちゃんと瑾ちゃんが二人して、他の人にはわからない程度に目をわずかに開いちゃった。

 あっれー? 私なんか間違ったこと言ったかな?

「正、平に何か薬物の類を試したの?」

「この子に試しても正しい効果が期待出来ないのに、試すわけがないでしょう。

 むしろ、あなたが何か自己啓発を行うような書簡を送りでもしたんじゃないかしら」

「わーい。

 二人の中での私の認識がぶれてないことに感動すればいいのか、親友達から異常状態って判断されて泣けばいいのか、まっようー」

「「前言撤回。いつも通り(だわ)」」

 私が笑っても二人は笑ってくれないけど、私には表情でわかるんだなー。

 緩まなくたって気楽そうで、一切容赦する必要もないぐらい気軽で、心配なんて無用なほど信じてる。

 あぁもう、二人とも大好き。

 二人のことを理解出来ないから怖いとか言う人はいっぱいいたけど、そもそも理解出来るなんて思う方が間違ってるのに馬鹿だよねぇ~。

「てか瑾ちゃん、洛陽にある欲しがってた書簡はあった?

 男として最高って言われた虎の旦那さんの書簡、探してたよね?」

 私が馬鹿なことを熟知してる二人のいつも通りの反応に安心感すら覚えつつ、私が話題を変えると、瑾ちゃんの目が夜に輝く蛇の眼みたいになっちゃった。

「えぇ、手に入れたわ。

 彼の報告書や英雄伝、彼自身が手がけた書簡の類はしっかりと、ね」

「あー! いいなぁ!!

 写してくれたら、いい値で買うよ!!」

「虎の夫・・・ 武勇に優れ、江東の虎を支えたと言われた方だったわね。

 もっとも英雄と称えられるには局地的過ぎることもあって、彼の武勇を称える物も、経歴などが触れている物もごく一部にしか流通されていないことでも有名ね・・・

 何故か平もあなたも彼に関しては異様なほどに知識が多かったけれど、まだ資料を欲したのかしら?」

 瑾ちゃんがどこからか出した書簡の一部を私へと見せてくれて、正ちゃんが補足説明するみたいに言ってくれる。

「だって、大陸の良い男って少ないんだもーん。

 しかも早死にするし、もうこれは中央で調べるしかないって思ってたけど、流石の私も大道芸人やりつつ侵入工作は出来なかったー」

 女学院にはいくらかあったけど、水鏡(ミカガミ)ちゃんは知らないし、あっちの先生は『知りたいのなら、自分で調べなさい』って投げるしー。

 まっ、女学院の資料の数って、多分大陸一だと思うけどねー。

 あの人がどうやって集めたのか知らないけど、私が思うにあの人はこの大陸一の駄目人間で、貂蝉とは違う意味での化け物だと思うなぁ。

「欲しかったから得た、そして私は成し遂げた。

 ただ、それだけの事よ」

 孫家の虎を支えた人であり、寡黙な獅子。

 残した文章で瑾ちゃんの心を射止めるなんて、なんていうか憎いねぇ。まっ、私も好きだけどね! それだけに亡くなる前に会えなかったことが、ホント惜しい。

「なら、欲した物を手にした今、あなたはそこから出ていくのかしら? 瑾」

 正ちゃんの言葉に瑾ちゃんは表情を変えることもなければ、動作を止めることもない。

 普通の人ならしてもいいような動揺を、正ちゃんと瑾ちゃんは少しもしようとしないところも私が二人を好きな理由の一つだなぁ。

 『後ろめたい』とか、気持ちの不安定さの表れが二人はまったくないんだもん。そう言う所が、凄く気持ちいいんだよねー。

「もし仮に決めていたとしても、あなたに言う必要があるのかしらね?

 それに・・・ それはあなたこそがそうでしょう?

 いつまでもあの子達の世話役なんて、あなたの柄じゃない・・・ いいえ、違うわね。出来てしまうからこそ、あなたはしない」

 正ちゃんは瑾ちゃんの言葉に肯定も、否定もしないでお茶を口にする。

「あなたはきっと、元直以上に多くを導く師に相応しいのでしょうね。正」

 そんな瑾ちゃんの言葉に、正ちゃんは鳥肌が立ったみたいで自分の腕を少し擦ってる。

 うん、ごめん。私もちょっと鳥肌立っちゃった。

「あなたが私を褒めるなんて、明日は槍でも降るのかしら。

 目的の物が手に入って浮かれているんでしょうけど、気味が悪いわ」

「そうね・・・ あなたに会うと嫌でもあの子のことを思い出すから、私らしくない言葉を口走ってみたくなる。あなた達にそんな表情をさせることが出来るのなら、あの子の前でもこうしてからかってみても悪くなかったかもしれないわ。

 ・・・なんて、それこそ私らしくないわね」

 瑾ちゃんはそこで席を立って、閉じたままの窓をほんの少しだけ開けて外を覗き見る。あの子のことを思い出すなら空が見たくなる気持ちがわかるから、私も正ちゃんも瑾ちゃんの行動を咎めなかった。

「勝手ではあるけれど、私が持っているあの子の作品はこちらで模写して流通させてもらっているわ。

 あの子の名はこの大陸に残すべきものであり、歴史に名を残すのが乱世に駆ける者だけではないことを、他の誰でもなくあの子の名が実証するでしょう」

「そう・・・

 ならあなたは、陰の立役者と言ったところかしら?」

 そう言って正ちゃんも杖を使って立ち上がって、瑾ちゃんにいくつかの書簡を手渡した。

 正ちゃんが瑾ちゃんに何かを贈るなんてってからかおうとも思ったけど、書簡の表に彫られた水仙の花を見て、出来なくなっちゃった。

「一度口にしたのなら、絶対に成し遂げなさい。瑾」

 その書簡を何かわかったのか、瑾ちゃんも大切そうに抱えて、ほんの一瞬だけ瞳を潤ませてたように見えた。まっ、私の気のせいだろうけどねー。

 だって、私達はあの子の事では泣かないから。

 泣かないって、約束したから。

「えぇ」

 瑾ちゃんの返事が聞きながら、私は部屋の中に飾られたままの二胡を手に取って弾いてみる。

 勿論、私が突然二胡を弾くなんて思ってない二人は呆気にとられて、ほぼ同時に溜息を吐いちゃってるー。

「三点」

「瑾、随分甘いわね。

 点数をつけるのも烏滸がましい、の間違いでしょう」

「ひーどーいー。

 これでも、旅の途中じゃ結構稼いだんだよ?」

 まっ、正ちゃんと瑾ちゃんを満足させられるような音じゃないことは百も承知だけどねー。私も頭の中に最高の音があるから、自分の音には全然満足出来てないしー。

「けれど、耳障りではないわ」

「読み終わるまで、弾いていなさい」

 正ちゃんは席についてくれて、瑾ちゃんも書簡を開きながら座ってくれた。

「もう、二人とも素直じゃないんだからー」

 正ちゃんはただ黙って目を閉じて耳を傾けて、瑾ちゃんは書簡を手に物語の中へ、そんな相変わらずな二人のために、私は満面の笑みのまま二胡を弾き続けた。




 瑾ちゃんが書簡を読み終わったのを機に解散となり、瑾ちゃんに護衛がつくのを確認してから、正ちゃんと一緒に建物を出てく。

「いやー、素敵な時間だったね! 正ちゃん」

「最後はあなたの演奏会となっていたけれどね」

「私は三人で過ごしたかっただけだもーん。

 目的はそれだけだから、最高に楽しかったよ」

 近況報告もお互い出来たし、思い出も共有できた。うん、良い日だったなぁ♪


「人が心配して洛陽中を駆けまわってたっていうのに!

 男と楽しそうに駆け回ってた馬鹿姉はどこだーーー!!」


 楽しい余韻に浸っていると、私の目の前を若草色の紐で馬の尻尾みたいに髪を括った子が駆けて行った。

 勿論、正ちゃんが危なくないように私が前に出てたから被害はないけど、鬼の形相で駆け回る姿が面白くてついつい目で後ろ姿を追っちゃう。


「そこだーーーー!」


「答え、自分で言っちゃうんだ」

 前方にある何かを指差しながらまっすぐ走っていく子を見送って、あとで情報集めて詳細調べておくことにしよっと。本当は今すぐにでも追いたいけど、正ちゃんの安全が一番だしね。

 正ちゃんへと振り返ると、正ちゃんは人なんか見ないで西に傾いて真っ赤になった夕焼けを見てた。

うーん、正ちゃんが見てるとなんか絵になるなぁ。私に絵心なんてないけどね!

「正ちゃん、行こっか」

「えぇ」

 私が促すように手を伸ばせば、正ちゃんは返事をするだけでその手を取ってはくれない。

「行きましょう」

 でも、それでいいんだよ。

 感情なんて曖昧で、言葉なんて時に嘘塗れ。

 なら私は自分が信じたいものだけ信じて、本当に大切なものだけを特別な括りに入れておくから。

 北郷に言ったように、この世界の言葉はみんな重い。

 だから私達は真名を預けたりもしないし、二人は絶対に言葉にしないし、約束で互いを縛りもしない上に契約なんてものとは縁遠い。

「正ちゃん」

 だって、私が一方的に信じてるんだから、見返りなんて必要ないもん。

「大好きだよ」

「歩きにくいわ、離れなさい」

 抱き着く私に一言だけ言ってどんどん進んでいく正ちゃんにくっついて、この乱の終わりと連合の解散を感じてた。


これにて、白の反董卓連合も終結となります。


来週も白、その次の週ぐらいには本編に戻りたいですが、進み具合次第です。

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