2,彼女との出会い
一日で書いて見せました。
若干内容が駆け足の気がしますが、こっちは番外というかおまけに等しいの許してください。
実際、黄巾乱ではまったく活躍してないので、書ける内容も多くありません。
そのため、あと数話でこっちはけりをつけたいと思います。
いつもありがとうございます。
そこに響くのは筆が文字を書いていくわずかな音、机は六人掛けのものなのだがその座り方で今の状況が多少現れてくる。
前に一人腰かけるのは黒にも似た紺色の髪を後ろで一つに括り、同色の瞳は冷たく書簡を見つめ続けていた。
たまにこちらを見てくる目はそれよりもはるかに厳しく、肩に乗せた真っ白な愛鶏・林鶏の翼を撫でる。
そしてそれに向かい合うように座る俺たち ――― 俺、桃香、朱里 ――― の三人は彼女に恐怖を抱きながら、ただ懸命に筆を動かしていた。
「コケエェェェーー!」
「時間ね・・・・ 私が採点を終えるまで、休憩を許可するわ。
ただし、その間に逃げようものならどうなるかは、わかっているわね?」
「「「はい・・・・・」」」
俺と桃香はそのまま机に突っ伏し、朱里はそのまま虚ろな目をして別の書簡に目を落としていた。
そして採点している彼女自身、俺と桃香の採点を同時に行い、その傍らには自分の仕事用の書簡が山となって積まれていた。
どれだけ酷い言われ方をしても彼女に反論することが出来ないのは、その言葉に間違いはなく、言われてもしょうがないくらい彼女が有能なためだった。
「・・・・・ようやく、誤字をなくすことが出来たようね。北郷」
彼女のその言葉に俺はほっと胸をなでおろしかけたが、そう思ったのは束の間、彼女は呆れるように肩を降ろした。
「これでようやく、まともな仕事が出来そうね。
次は言葉づかいや立場のある者の振る舞い方、礼儀作法も出来ない君主なんて塵以下だわ。勿論、それは劉備殿も行うので、覚悟しておきなさい。
それにしても文字を学んで一か月、ようやく読める程度の文字なんて馬鹿なのかしら?」
筆を置きながら彼女の口から放出されていく毒舌の数々、俺たちはもう聞き慣れつつあるその言葉にへこみながら、彼女と出会ったあの日を思い出した。
時は少しだけ遡る。そうあれは、曹仁さんたちと別れてすぐのことだった。
「俺たちに平原を?」
突然やってきた洛陽の使いを名乗る赤い髪の女の子と、その傍を離れようとしない二つ縛りの少女の申し出は今回の黄巾党討伐の功績により、平原の土地を任せたいというものだった。
「そうなのです!
お前たちは今回の功績により、先日亡くなった諸侯の土地を任せるとのことなのです!
ことが重大のため、天下の飛将軍であるれ・・・ 呂布殿がわざわざ来てやったのです!!」
「ん・・・・ ね・・・ 陳宮、威圧ダメ。
言われたこと、やる」
「呂布殿おぉぉ~~~~」
小さいこの方に振り回されているのかと思ったら、そうでもないようだった。
って、この子が呂布?!
「ん? んーぅ?」
呂布という子が何故かきょろきょろとし、可愛いものが大好きな愛紗がさっきからそわそわしている。が彼女はその隣を通過し、何故か愛羅の傍に寄ってきた。
どうかしたのかな? ていうか、何で愛羅も距離をとってるんだろう?
「ど、どうかしたのだろうか? 呂布殿とやら・・・」
そして突然、愛羅に抱きついた。しかも目を細め、気持ちよさそうに肩の力を抜いてさえいる。
えっ? 何事?
「落ち着く・・・・ 好き」
「愛羅ずるい。ずるいずるいずるい・・・
愛羅は昔からそうだ。可愛い動物に好かれて、抱きつかれたり、肩にとまったりして、苦手とか言っておきながらいつもお前は動物に好まれてて・・・・ それに子どもにだって、私よりもずっと好かれてたし」
「私自身、勝手に寄ってくるので困っているのですよ?!
どうすればいいかわからず、大体あんな小さな者たちをもし怪我でもさせたら・・・」
それを見て、愛紗がまるで呪詛のようにぶつぶつと呟き、虚ろな目をしてどこか遠くを見ていた。
愛紗が怖い?! でも、当の本人はどうすればいいか困ってるんだけど?!
「呂布殿ー!
呂布殿を誑かす黒髪長身女、覚悟するのです!! ちんきゅーきぃっくー!」
戸惑いながらも愛羅は呂布さんを抱えてひらりとかわし、攻撃をしてきた子も危なくないように拾い上げて、そっと地面に降ろした。
そうしてから呂布さんの頭を撫でて、まるで子どもに言い聞かせるように目を合わせる。
「呂布殿、あなたは仕事で参られたのでしょう?
それを成し遂げ、戻らなければならないのではないのですか?」
呂布さんは何故か愛羅の言葉を拒むように、首を振る。
あっ、その仕草で愛紗が悶えてる。
「恋・・・」
「真名をそう簡単に人に預けてはいけないもの、それも天下の飛将軍たるあなたが私などに真名を・・・・」
諭そうとする愛羅に呂布さんのうるうるとした目が襲う、愛羅は精神に五百のダメージを受けた。効果は抜群だ。
「駄目・・・・?」
呂布さんは、『小首をかしげる』を使った。愛羅は硬直し、額に手を当ててしまった。
「ぬぅ・・・・ わかりました。
私の名は関平、真名は愛羅と申します。どうか、受け取ってください。恋殿」
急所にあたった。愛羅は陥落した。
ていうか、なんだかんだで愛羅って優しいよなぁ。さっきのだって天下の飛将軍の彼女なら簡単に避けられるのに、一緒に抱えて避けてるし。攻撃してきた子も怪我をしないように、地面に降ろしてたし。
『苦手』とか言っても子どもが寄ってきて戸惑いはしても、邪険にしたところは見たことがない。もしかしたら、かまいすぎる傾向にある愛紗よりよっぽど躾とか上手なのかもなぁ。
「愛羅、好き」
呂布さんは全体攻撃、『告白』を使った。全員が呂布さんにメロメロになってしまった。
いや、本気でこの子、超可愛い・・・・!!
「呂布殿おぉぉぉーーーー!!」
たった一人だけ、怒りのボルテージを上げている子がいるけど。
その後、どうにか愛羅から呂布さんを引きはがし、重要な書類や地図を貰って俺たちは平原を目指した。
愛羅は慣れない触れ合いのせいで疲れた顔をし、愛紗はそれに嫉妬して、桃香と鈴々はそれを見て『仲良しさんだねー』とか言ってほのぼのしていた。
が、朱里は相変わらず書簡を見て灰になってるし・・・・ 大丈夫なのかな? このメンバー。
特に歓迎をされるわけでもない城下を抜け、俺たちは城の中に入っていく。
広い場所に出て、中央の椅子が置かれた玉座らしき部屋でその人は立っていた。
愛紗、鈴々、愛羅が僕らを守るように武器を構え、それぞれ目で合図して愛紗が頷いた。
「おい、そこに居るのは誰だ!」
「・・・あぁ、やっと来たのね。
あまりにも遅くて、城中の掃除が終わってしまったわ。
家事はいいわね、心を鎮めてくれる。まったく、城の管理すら満足に出来ていない馬鹿みたいな人がこの地にいたかと思うと、笑ってしまうわね」
朱里と鳳統さんとよく似た服を着た白と青の二色だけのシンプルな服装をした女性だった。その肩には白い鶏を乗せ、その目は鋭く俺たちを見ていた。
「遅かったわね、孔明。
昨夜には着くと思っていたのだけれど、どんな言い訳を私にしてくれるのかしら?
ねぇ? 姉とは違って発育が残念で、共通している嗜好も残念で、今回初めから終わりまで、とても私を失望させてくれたお馬鹿さん?」
俺たちというよりも朱里を見ていたらしく、朱里を字で呼んでいる。
知り合いなのに字呼び? 真名を許してないって、どういうことだ?
ていうか、久しぶりに会ったらしいのにすっごい酷いこと言ってないか? この人。
「確かに私は、人手が足りなくて、誰でもいいから空いている人材を求めたましゅた・・・」
灰になっていた朱里がどうにか絞り出すようにして、言葉を紡ぐ。よろよろと歩み寄り、持っていた書簡が地面に落ちて、カッと突然目の前にいる女性を見た。
「だからって、どうしてよりによってこの人なんですか?!
槐お姉ちゃんの馬鹿ぁぁぁーーー!!」
「いろいろ言いたいことはあるけれど、馬鹿はあなたよ。孔明。
あぁ、それともそんなこともわからないくらいあなたは馬鹿になったのかしら?
ねぇ、『臥龍』孔明?」
失笑を交えながら、こちらへも失望の眼差しを向けている。
えっ? 俺たち、見下されてる? 初対面の人に?
「朱里、この人は一体誰なんだよ?
ていうか、あんたも初対面の人間にその態度は失礼じゃないのか?」
「この人は・・・・ 水鏡女学院の先輩であり、姉の友人にあたる方でしゅ」
渋々と言った形で紹介する朱里を見れば、朱里自身彼女をあまり好きではないことは明らかだった。
でも、先輩と仲が悪いって何でだ?
「あなたの同門の先輩であることは認めるけれど、私は瑾の友人ではないわ。
ただ同時期に偶然、同じ師の下で受けたというだけの存在。
今もこうして互いに利があったからここに居るだけであり、私は他から引き抜きがあればいつでもそちらに着くでしょうね」
「なっ?! 貴様はいつでも私たちを裏切るというのか!」
彼女の言葉にいろいろと言いたいことはあるが愛紗が一番に噛みつき、彼女自身は涼しい顔をしている。
「当然でしょう?
軍師とは本来、そうして成り上がっていくものであり、忠誠を誓うに値しない者は見限り、次の主を求める。噂に聞く戯志才も、あの荀攸もしていること。むしろ、この大陸では日常茶飯事だわ。
それともそんな常識もわからないほど、あなたは馬鹿なのかしら?」
「なっ・・・・」
彼女は別に早口というわけではない。むしろ聞こえやすく、はっきりと言われるその言葉は筋が通っていて、反論をする余地がない。
それが常識・・・・ 俺が知らない乱世のやり取り、どれだけこの関係が珍しいかをその言葉で改めて思い知らされた。
「・・・・それで朱里、彼女は一体誰?」
それでも彼女の事実や言葉が怖くては額に冷や汗を浮かべながら、朱里に問いなおした。
「あぁ、申し遅れたわね。
姓は法、名は正、字は孝直。そこに居る孔明の姉、諸葛瑾を経由して雇われた者よ」
「水鏡女学院で数々の伝説を残したことから、いろいろな意味で有名な『残念三軍師』の一角、『毒舌の法正』さんです・・・・」
うなだれ続ける朱里、すでに撃沈して硬直している愛紗が並んでいた。
ていうか、『毒舌の法正』・・・・ 誰だよ、そんなうまい名前付けた奴。
「えっ? 法正さんって劉璋さんのところに仕官したって聞いたよ?」
桃香の状況がわかっているのかいないのか、能天気な驚いた声に朱里が顔を上げて怒鳴った。
確か俺の知る歴史でも法正は蜀についていて、蜀攻略の時に劉備の方についたとか大して有名じゃないから裏覚えだけど。
「仕官したのに、毒舌が過ぎて追い出されたんですよ!!」
「私は民を見ようともせず、政もしないで身内で争っている馬鹿に馬鹿と言っただけよ。
まぁ、今の乱世はどこに行っても馬鹿ばかり。瑾からあなたの話を聞いて、自分で調べたけれど、あなた達も大概馬鹿だったわ」
呆れ果てたようにこちらを見て溜息を吐く法正さんは、その懐から餌を出して肩の鶏に与えていた。そして、手が空になった後に右手に持っていた杖で俺を指し示す。
「北郷一刀、白き星の天の使い。
そこに居る劉備殿と共に希望のみを掲げ、実現性皆無。
公孫賛殿から言葉巧みに兵を奪い、友情を語り装備を受け取る。挙句、曹操軍から食料、装備を譲り受け、黄巾党討伐という功績を得る。偶然が重なり、空いた平原の土地を任せられた」
「!? どうしてそれを・・・・」
「法正殿よ、一体何が言いたい?」
流石に武器は構えこそしないが愛羅は鋭く法正さんを睨み、怒りを露わにしていた。
が、彼女は気にした様子はなく、杖を持ったまま腕を広げる。
「これが現状、知識を持つ者が今のあなた達を見た時の正当な評価よ」
言い返すことが出来なかった。
俺たちはそれだけのことをしたし、俺は何も知らなかった。知ろうともしていなかった。
だが、続いた言葉は予想外なものだった。
「けれど私は、あなたと劉備をたった一点において、評価もしているわ。
その行動がなかったら、私はここに居なかったでしょう」
評価? 俺たちを?
とても信じられないが、俺は彼女の口から紡がれる次の言葉を待っていた。
「あなたはたった一人の臣を守るために、要ともいえる二つを失った。
それを多くの有象無象は『馬鹿だ』と言って笑うでしょう。けれど、あなた達はその行動で掲げていたものが偽りでないことを示したのよ。
言葉だけだったあなた達の夢や希望は、そこでようやくぶれることのない芯を得た。だからこそ曹操殿は、あなた達を許したのでしょうね」
その言葉は胸に刺さっているというのに、染み渡っていく。見れば隣の桃香も同じ顔をしていて、愛紗たちも神妙な顔をし、朱里に至っては目を疑っている。
杖の先を俺ではなく愛紗に変え、その目は軽蔑や失笑とは違うものを宿していた。
「そして、関羽。あなたはこの二人にとって、それだけの価値があったということ。
さぁ、あなたはこれだけの信頼をどう返すのかしらね? 見物だわ」
「貴様に言われずとも!」
「まぁ、あなたがした猪のような行動がなければ、なかった話なのだけれどね」
そこで全てを台無しにするように失笑し、それに同意するように肩の鶏も鼻で笑うような仕草を見せた。
鶏なのに、器用だな?!
「鶏如きがーーー!!」
「姉上、鶏に対して短気を起こすな!」
斬りかかろうとする愛紗を愛羅が羽交い絞めにして押さえるが、そんな愛紗の頭へと鶏が飛び、蹴りを入れていく。
「林鶏、そこの猪と表で少し遊んできなさい。
加減はするように」
「コケッ。
コッコッコッ、ウコケエェェェーーーー!!」
法正さんの言葉に林鶏と呼ばれた鶏は頷き、愛紗の前で雄々しく翼を広げて、猛々しく鳴いた。
俺はその背に、決闘を申し込む武人の姿を幻視した。
「決闘を申し込まれ背を向けるのは、武人の恥!
止めてくれるな! 愛羅!!」
「鶏に武人が本気を出すことは、恥ではないのか?!」
止めようとする愛羅は愛紗に引きずられて、中庭へと消えていった。
ごめん、愛羅。そっちは任せた。
ていうか林鶏って・・・・・ あの名前はどうなんだろう。
「名前の頭に油をつけたら、油淋鶏なのだー」
って、鈴々が言ってるし。ていうか、俺は鈴々と同じ頭なのか・・・・?
「残念ながら漢字が違うわね。
林鶏は『林』に『鶏』。油淋鶏の漢字には、一部分足りないのがわかるかしら?」
「なるほどなのだ! 法正お姉ちゃんは字が綺麗で読みやすいのだ!!」
そう思って肩を落としていると、法正さんはどこからか書簡と筆を取り出して文字を書き、丁寧に鈴々に漢字の違いを教えていた。
態度、全然違うのはどうしてなんだろうね?
「お姉ちゃんの字は、汚くて読めないのだ。
お兄ちゃんなんて、字が書けないのだ」
鈴々のその言葉で、温まりかけていたその場の空気が冷えきった。
そしてその視線は俺と桃香、朱里に向けられ、最早笑みすら消え去ったその表情はとても怖い。というか、出す空気が怖すぎる。
「・・・・なるほど、そこからなのね」
法正さんはゆらりと立ち上がり、杖で床を一度打ち鳴らした。
おもわず俺たちはその場で姿勢を正し、ガタガタと震える。
「孔明、あなたは本当に、何をしていたのかしらね?
文字すら満足に書けない君主、これは笑いごとにもならないのだけれど?」
「だって、そんな暇は・・・」
「暇がないのは作らなかったからよ、あなたも学ぶ側である北郷自身にも問題はあるわ。
それとも北郷、あなた文字も知らないで政を行うつもりだったとでも?
あなた達はどこまで馬鹿なのかしら?」
朱里が言いかけた言葉を理解し、すぐさま正論によってねじ伏せていく。
その通り過ぎて、ぐうの音も出ない・・・・
「そして劉備殿、あなたは本当にあの善政を敷いていることで有名な公孫賛殿の学友なのかしら?」
「うぅ・・・ でも、白蓮ちゃんは・・・」
何かを言い返そうとすることを許さない笑みを浮かべ、彼女は口を開く。
というか、眉間に刻まれた皺が怖いです・・・・
「彼女が地味とでもいう気かしら?
えぇ、彼女は確かに一見は地味よ。
あなたと同じように諸侯の誰もが彼女を『普通』と笑うけれど、この乱世で善政を敷き、軍を整え、本人もまた武官でありながら領主としての役目を果たしている。
私はこれを『普通』などとは思わないし、思えない。
行っていることは地道なもので曹操殿、涼州の馬騰や孫家に確かに敵わないでしょうね。けれどあれは血についてきたものが多い。
ましてや劉備、あなたのような運も彼女にはない。
実力のみであの地位を手に入れた努力の天才、それが彼女よ」
その口から吐かれる正論、そして容赦のない言葉はまるで機関銃のようだった。
本当に返す言葉がない。反論の余地がなかった。
俺たちがなんとなくで流され、こうしてここに居られるのも白蓮の厚意があったからだ。白蓮には次に出会った時、多くを謝らなくちゃいけない。
「さぁ、馬鹿なあなた達に学ぶということを教えてあげましょう。きっちりとね」
その前に俺たちが無事会えたら、だけどね。
俺たちは出会ってたった一日で、彼女の怖さを思い知った。
林鶏と愛紗の決闘の結果は・・・・ 多分、次話でわかるんじゃないかと思います。
次は領地での話、次に黄巾乱決戦頃こちらが何をしていたか、その後に董卓連合へのつなぎといったところでしょうね。あと三話でまとまるといいのですが・・・
彼女の真名に関してのことも、次話で明かせるかと思います。
感想、誤字脱字お待ちしております。




