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17,虎牢関にて 【音々音視点】

少し長めの音々音視点です。


「音々音、お主・・・ 本気でござるか」

 恋殿のいない三人部屋で響くのは怒気をはらんだ芽々芽の声であり、鋭い目つきでこちら(ねね)を睨みつけてくる。

 でも、そんな他なら震え上がるようなことをされても、ねねの決意は変わらんのです。

「本気なのです。

 恋殿をお前だけに任せておくなど、出来るわけがないのです」

 真剣な芽々芽に対し、ねねはあくまでいつも通り返せば芽々芽の表情には先程よりさらに強い怒りが現れますが、ねねが目を逸らすことはない。

 恋殿に告げ、決めた時から芽々芽とこうなることはわかっていたのです。

「戦場は遊び場ではござらん!

 そんな思いで立てばお主のように武も持たぬ者など、あの戦場では瞬きの内に大陸の灰塵となる!

 ましてや相手は連合。武人として、死を承知で立ちむかった華雄殿ですら安否不明の今、彼の連合がどれほど危険かを、お主はまるで理解しておらぬ!!」

 怒りの全てを声へと変えるように声量は次第に大きくなり、これが一般兵相手なら芽々芽を怯えるのでしょう。

 が、芽々芽との喧嘩が常であるねねがこれぐらいで怯むわけがないのです。

「芽々芽が武将であるように、ねねも軍師なのです!」

 軍師は武将とは違い、死ぬ覚悟なんて馬鹿なことはしなくても・・・

「戦場に立ち、風穴を開けるのが武将なら!

 戦場に立たずとも戦場を知り、考え、導くのが軍師なのです!!」

 戦って、勝とうとする思いに違いはない。

「その軍師が戦場に立つなど、愚か者のすることだと言っているのでござる!!」

「だからこそ!」

 互いに襟首を掴んで、額をぶつけ合うほど間近で怒鳴りあい、睨みあう。

 これまでも何度もしてきたことだというのにそこにいつもの笑顔はなく、恋殿の姿もない。

 だけどねねにも、譲れないことはあるのです!

「お前達武将がしている覚悟を、軍師がしていないとでも思っているのですか?!」

 命を直接的に奪うのが武将なら、命を間接的に奪うのは軍師。

そしてきっと・・・ ねね達が知らないもっと上である月は・・・

「命を背負っているのが、武将だけだと思うなです!!」

 軍師とも、武将とも違う君主が、奪った命も、守った命も、全てを背負う覚悟をしているのだというのなら!

「っ!

 そんなことは・・・」

「わかるなどとは言わせないのです!

 武将がどんな思いで戦場に立ち、覚悟するかを軍師であるねねにわからないように、軍師がどんな思いで策を巡らし、腹を決めるかなどわかるわけがないのです!!」

 ねね達(人間)は馬鹿でどうしようもない存在だから、自分が直面したことしかわからない。けれど、わからないことをわからないまま放置せず、わかりたいから想像することがねね達(人間)には出来るのです!

「ねねが未熟なことも、愚かなことも、自分自身が一番わかってるのです!」

 ねねがこれまで描いた策は、恋殿という絶対の力の元に振るわれた格下の相手が前提のもの。

 が、今回は違う。

 相手の力が未知数且つ、負けるかもしれないという状況下で策を描いたことはない。

 軍師としては未熟でまだまだ駆け出しのねねを詠や千里が気を使い、わざと策を伝えずに渦中に入れることがなかった事を知っていた。

 知っていてもねねは力不足で、二人が成していくことを見ていることしか出来なかった。

 悔しくて、自分が情けなくて、だけど・・・ 足手纏いの軍師(自分)が策を乱すことも許せなくて、二人の心遣いが優しすぎて痛かった。

「けれど、千里が言ったように前も敵、後ろも敵の現状、ねねだけ逃げることなど出来る筈もないのです。

 だからねねも、恋殿たちと共に戦場に立つのです」

 だけど千里はそんなねねに恋殿達と共に行動するという条件の元、暗に策を示して全てを任せてくれた。

 師と仰がずとも、目標としている存在の一人が初めてねねを対等な『軍師』として頼ってくれたのです。

「足手纏いでござる!」

「まだ言うですか!

 それは芽々芽も同じ、霞と恋殿に置いていかれるのがオチなのです!!」

「~~~~!

 この分からず屋が!!」

「お前が! それを! 言うのですか!!」

 互いに頭突きあい、睨みあい、さらに言葉を続けようと口を開いた次の瞬間

「二人とも、そこまで」

 そんなねね達の間に立ったのは、恋殿でした。

「恋殿?!」

「恋殿もこやつを止めてくだされ!」

 いつ入ってきたかわからなかったねねは驚き、芽々芽はどうやら気づいていたらしく驚いた様子はない。

 恋殿は芽々芽の言葉に少しだけ視線を向けて、ゆっくりと首を振られた。

「音々音、もう決めたこと」

「っ!!

 ですが! 某はもう華雄殿のように友を! 仲間を失いたくないでござる!!」

「そんなこと、絶対に」

 とぎれとぎれとなる恋殿の特徴的な言葉はそこで一度区切られ、机の上に無造作に置かれた方天画戟を持ち上げられたのです。

「恋が・・・・ させない」

「恋殿・・・」

 これまでのどの時とも違う恋殿の気迫に戸惑ったのは芽々芽だけでなく、ねねも同じでした。

 恋殿は、変わられた。

 優しき心根が変わることはなくとも、実際に触れ、見た者にしかわからない根が芽を出している。

「だから、芽々芽も・・・ 来て。

 音々音、守る。手伝って。

 音々音も、恋に策、教えて?」

 ねね達に伸ばされた左手に、芽々芽と共におもわず顔を見合わせてしまうほど驚いてしまったのです。

 恋殿がねね達をこうして言葉で直接頼ることなど、これまで一度としてなかった。

 信じ、頼ってくれた。

 言葉を束ね、人として必要としてくれた。

 臣下として、これほど嬉しい事はないのです・・・!

 もはや、恋殿は決断を下された。

ならば臣下たるねね達に迷いは不要、口にすべきことはただ一つ。

「「いまだ未熟な身なれども、我ら二人。

 恋殿にどこまでもお供する所存!」」

 この言葉は、これまでに交わされた無言のもの。

 そしてここからは・・・

「某は武を」

「ねねは智を」

「「忠誠と共に我らが主君に捧げん!!」」

 今この瞬間に交わされた、未来永劫なるもの。

「ん・・・」

 素っ気ないとも取られてしまうようなその一言だけで、ねね達には十分なのです。




 恋殿と霞によって門が×の字に両断され、連合の虚を突くようにねね達は突貫していくのです。

「ねね、策」

「はっ!」

 すさまじい速さで駆ける愛馬である珊瑚の上で必死に恋殿の背に張り付き、献策するように声をかけられる。

 飛びだす前から兵を見て、策はもう決めてあった。

「千里の想像通り、前衛には泗水関にて華雄を破ったと噂の白の遣い・劉備陣営!

 そこに加え、他諸侯の連合軍が折り重なっています!」

 すさまじい揺れと砂埃の中で、舌を噛まぬように一度そこで言葉を区切って、恋殿の背中越しに前を見る。

 千里は会議において策を二つあげ、その内一つを霞が成すように話していた。

 ならば、ねね達が目的を成し遂げる(勝利を掴む)ために行うべきは・・・・

「どれだけ多くが立ちふさがろうと、ねね達の目標はただ一つ!!」

 小難しいことなど、この一戦には不要。

 ならば、狙う者はただ一人。

 揺れる馬上でねねが指差すのは、遠くからであっても悪目立ちする悪趣味な金の旗。

「この連合の長たる袁紹の首目掛け、突っ切ってくだされ!!

 もし、首を取ることが実現出来ずとも恋殿と珊瑚、そして芽々芽の騎馬の速さならば、このまま戦線を離脱することも出来る筈なのです!」

「ん。

 芽々芽」

「承知!

 某はいつも通り、恋殿のお傍を駆け抜けましょうや!」

 ねねの言葉に二人が頷くのを見て、わずかに後ろを振り向けば、そこには見慣れた紫の鎧を纏った董卓軍の兵達があとを追ってきていました。

 誰が聞いても無謀な戦いを前にし、猶予は多くなくとも逃げることを選ぶことも出来たにもかかわらず、ここに立つことを選んだ者達。

 命知らずの愚か者、死をも恐れぬ魔王軍。

 安否不明の華雄と、泗水関への仇討だと言わんばかりに殺気立つ兵達に千里がどれほど冷静に現状を告げ、連合の戦力を伝えても、去る者はほんのわずかだった。

『あはは・・・ 結構、残っちゃったね』

 思い出すのはほんの数瞬前、ねね達の前で初めての泣き笑いの表情と共に零れた千里の言葉。

 それを見てねねはようやく、千里が会議で口にした『選別』という言葉に秘められていた想いに気づかされたのです。

 霞と千里が行おうとしているだろう『武で名高い存在の誰かを破る』あるいは『生け捕りにすること』も。ねね達が今、実行に移している『連合の長たる者を斬ること』も、力無い民から兵となった者達が生き残れる可能性はほとんど無に等しい。

 だからこそ千里は、内通者を追い払うというほんの少しの事実を混ぜて、わざと兵たちに戦場を離脱する機会を与えた。

・・・本当に千里は、笑顔の下に嘘ばかりなのです。

 その嘘がどれほど多くを守っているかを誰にも語らずに、いつも平気そうに笑って、何事もなかったように他人すら笑わせようとする。気遣い馬鹿なのです。

 霞は当然、馬鹿なのです。

 酒を飲んでいたかと思ったら、赤い星が落ちてきてから何かが変わったように働きはじめ、華雄をしごき、それにねね達も巻き込んだはた迷惑な奴なのです。

 泗水関で敗れたと聞いている華雄も、筋金入りの馬鹿なのです。

 最初はただの熱血且つ戦闘馬鹿で、霞がそれを矯正したかと思ったら、今度は君主馬鹿と仲間馬鹿をこじらせたのです。

 詠も真面目にやっているように見えますが、あれは結局月のことが好きすぎていろいろとこじらせた君主馬鹿の親友馬鹿。

 月も一見はまともですが霊帝に頼まれたからと言って、混沌と言ってもいい洛陽へと足を踏み入れ、多くと戦って守ろうとした変り者。

 そして最後に入ってきたあの女装癖の変態である荀攸も、わざわざ自分から洛陽などという権力と俗物しか集まらないようなところに、女装したいがために女官として入ってきた大馬鹿者なのです。

 ただの馬鹿だというのに、その馬鹿で余計な言葉から起こる会話は・・・ 楽しくもない事もなかったのです。

「この軍は・・・ 揃いもそろって馬鹿ばかりなのです」

 ねねは助けられたあの日から、恋殿が居ればいいと思っていた。

 誰に出会っても、他の誰が恋殿に忠誠を誓おうと、恋殿がどこに身を置こうと、それは変わらない筈だった。それなのに・・・

 目を閉じなくとも思い出されていく洛陽での日々が、なんでもないと思っていた会話の数々が、暗かっただけの世界を優しい光りで照らされた気がしたのです。

「音々音・・・」

「は、はい! なんでしょうか? 恋殿」

 恋殿が目の前に迫ってくる多くの兵をあしらい、跳ね飛ばし、駆け抜けていく中でこちらへと声をかけられました。

 少し考え事をしすぎたのです。

 が、ねねが思っていたよりも進みが早い・・・ どういうことです?

「珊瑚が・・・ ちょっと危ない事、するって。

 芽々芽、真珠もいける?」

「行けますとも!」

 何をするかをせめて聞くのです! この脳筋がぁ!!

 叫びたくとも、激しい揺れで大きく口を開くことが出来ず、芽々芽を睨みつけることしか出来ない。

「れ、恋殿、何を?」

「飛ぶ」

 は? ・・・・はぁ?!

「芽々芽、続いて」

「合点でござる!

 真珠よ! 珊瑚殿に続け!!」

 ねねが驚いている間にも恋殿と芽々芽は少ない言葉でやり取りし、襲ってくる浮遊感。

 孫の旗、馬の旗、そして公孫の旗を飛び越えると同時に多くの視線を集め、珊瑚は着地する。無論、着地と同時に矢が襲ってくるが、二頭はそれよりも早く駆け出し、恋殿達もいくつかの矢をあしらうのみとし、その場から去っていく。

「このまま、行く!」

「「承知!!」」

 恋殿の掛け声にねね達も叫んで応じ、ただまっすぐに金の袁旗を目指したのです。


 が、そうすんなりと首は取れないようなのです。


 我々の行く先を阻んだのは二つの影。

「おっと呂布。

 若い前衛はあんたの行動に呆気を取られたようだけど、ここはただじゃぁ通さないよ?」

 片や馬に跨った姿で十字槍を担ぎ、黒髪に数本の白髪を混ぜた西涼のクソババァと恐れられていた馬騰。

「そう先を急がずに、この老いぼれ達とちと遊んではくれまいか?」

 片や硬鞭(こうべん)を杖のようにつき、幼い少年のような姿をした怪物・・・ もとい袁家のクソジジィである田豊。

「老いぼれはあんた一人だから、『達』とか言わないでくれるかい? 田豊の爺様」

「ほっほっほ、子を産み、髪を白く染めている主も既に婆の域に片足突っ込んでおるわ。

 それを認めぬ方こそ見苦しいとは思わんか? 馬騰」

「髪以外の容姿が一切変わらないあんたがおかしいんだよ!」

 何やら戯言を言っていますが、そんな戯言に付き合っている暇はねね達にはないのです!

「邪魔」

 恋殿は迷うこともなく殺気を向け、無造作に方天画戟の一撃を馬騰へと見舞う。

「おぉっと!

 こりゃ・・・ ウチの娘が吹き飛ばされるわけだ!!」

 恋殿の一撃を受け、馬上から吹き飛ばされることもなく立つ馬騰は歴戦の雄たる貫録をねね達に見せつけるようです。

「邪魔」

「連合の長たる袁紹殿を狙っているんだろうが、そうはいかないよ」

「なら・・・」

 槍と戟が重なり合い睨みあったのは一瞬だけ、恋殿は無造作に振り払う。

「押し通る、だけ」

「おぉ、怖い怖い」

 馬の首ごと馬騰を両断せんとばかりに振り払われた戟に対し、馬騰は慌てる様子もなく巧みな馬術で馬をすぐさま後ろへと下げた。

「耄碌した老いぼれ共が!

 貴殿らが戦場に立つ時代は終わったでござるよ!!」

「ふむ・・・ 否定はせぬよ、これからを創る若人達よ。

 じゃが、耄碌した老いぼれにもやるべきことがまだ残っているでのぅ」

 息を荒げることもなく芽々芽の斧を軽くあしらい、まるでこちらを諭すように告げる田豊は空いている右手を口元にあてる。

「しかし、戦場に立ったのはいつ振りか。

 友と共に大陸を守り、若き霊帝様の元で振るった武・・・ ずいぶんと錆びついてしまったものよ」

 田豊の言葉よりも、ねねは何かに違和感を感じて周囲を見渡します。

 何かが・・・ おかしいのです。

 前衛を固め、兵が手薄なのは想定内ですが、これはあまりにも手薄すぎる。

 妥当な線は前衛との合流取ろうとする時間稼ぎ。ですが、そんなものは恋殿の相手にはならないことは先の一戦が証明しているのです。

 なら、考えられることは・・・・

「っ!」

 馬騰、田豊の後ろにある本陣であろう幕。

 自分達の権力を見せつけるように幕はあまりにも大きい・・・ まさか!

「恋殿! 芽々芽!

 今すぐ離脱です!!」

「? 音々音?」

「どういうことでござる?!」

「これは時間稼ぎ!

 そしてこれは、前衛である他陣営との合流のためのものではなく・・・」

「ほっほ、気づいたか。賢い子じゃの」

 ねねが言葉を続けようとした時、田豊は年齢には不相応なその姿で年相応の笑みをこちらへと向けてくる。

「まさか、飛将直属にここまで読む軍師がいるたぁね。

 やっぱりこの大陸は面白い」

 喉を鳴らすように笑う馬騰はそのまま幕を切り裂き、布が細切れになって風に乗る。

 そしてそこに、ねねが想定したものの影が現れていく。

「のぅ? お嬢。

 儂の後継に欲しいとは思わんか?」

「あら、縁起でもないことをおっしゃりますのね。お爺様。

 お爺様は私が死ぬまで生きてくださるので、そんなものは不要ですわ」

 くるくるとした金髪を揺らし、弩を構えた兵達を引き連れるようにして立つ袁紹。

「・・・・!!」

「恋殿! 押さえてくだされ!!

 ここは離脱なのです!」

 その姿を見た途端、恋殿の殺気が膨れ上がり、今にも襲い掛かりそうでした。

「逃すか!!

 弩兵隊・・・」

「黙りなさい! 許攸!

 この私が率いている隊、私以外が指示を出すことなど許しませんわ!」

 袁紹は隣に立つ許攸と呼ばれた者の言葉を遮り、こちらをじっと見ていたのです。

 嗤うわけでも、嘲るわけでもなく、こちらへと視線を向け、目を閉じたかと思えば口元へと手を当て、洛陽まで聞き及ぶほど有名な口癖を口にしながら嗤い出す。

「オーホッホッホ、呂布さん。あなたもこれで袋の鼠。

 さぁ、みっともなく命乞いをするか、負け犬らしく尻尾を巻いて逃げるか、好きに選びなさいな!

 それとも・・・ 矢の雨の中でお爺様と馬騰殿と戦い、さらに挟撃されるなどと戦乱がお好みかしら?」

「おのれっ!」

「芽々芽!!」

 飛びかからんとする芽々芽を声で制し、恋殿の袖を引くとねねの手はそっと恋殿の左手に包まれたのです。

「わかった。

 逃げる」

「恋殿! このまま言われっぱなしでは・・・」

 芽々芽が何かを言おうと口を挟みますが、恋殿は首を振り、方天画戟を一度だけ袁紹へと向けました。

「月・・・ 何も悪くない。

 お前もきっと・・・ 悪くない」

「っ!

 あなた・・・・」

 わけのわからぬ恋殿の言葉は、袁紹の返事も待たずに駆け出していく。

 芽々芽も顔を歪ませながらも恋殿に従い、戦場を離脱しようと身を翻しました。



「恋殿!! 待たれよ!!」

 戦場を駆けることしばし、もうじき戦場を抜けるという所で一つの声が恋殿の足を止めました。

「愛羅・・・」

「貴様は! あの関羽の妹か!!」

 どこか嬉しそうな恋殿に対し、殺意を隠そうともしない芽々芽に関平は武器をその場にさし、攻撃してこないことを示すかのように両手を広げているのです。

 戦場でそんなことをするとは、こやつは阿呆なのですか?!

「敵対の意志はない。

 ただ一つどうしても伝えたいことがあり、あなたを追った」

「聞く耳持たん!

 華雄殿を打ち倒した関羽の妹など、今この場で叩き斬ってくれる!!」

 恋殿の代わりとでもいうかのように芽々芽が応え、得物の斧を投げようとするその手を恋殿が遮られた。

「芽々芽・・・ 待つ」

「ですが!」

 いまだに飛びかかろうとする芽々芽の馬へとねねが飛び移り、後ろから羽交い絞めにしたのです。

「音々音! お主まで何をするか!!

「恋殿!

 話すならば、手短に、お願いするのです!」

 力のないねねが芽々芽を押さえつけられる時間は少なく、連合の兵達もこちらを追ってきていることに変わりはないのです。

「ん・・・

 愛羅、何?」

「陳宮殿、感謝する!」

「感謝はいいから! 戦う意志がないのなら、速くするのです!!」

 優しい顔で礼を言われても、こちらが焦っていることに一切変わりはないのです。

「華雄殿も、毒で蝕まれていた泗水関の兵達も皆、生きている。

 一騎打ちにおいて負傷はしたが我々が保護し、療養中だ」

「信じられるわけがない!!」

「お前は黙るのです!!」

 羽交い絞めにしても口は動くので、ぎゃーすかと喚く芽々芽へと怒鳴り返して、会話を続行させる。

「捕虜の身でこの場に連れ出すことは出来ず、本人直筆の文を渡すことしか出来ない。

 だが、我が主達はけして華雄殿を悪く扱うことはないことをわかってほしい」

「・・・・」

 恋殿は投げられた文を受け取り、しばらく眺めた後に懐へと潜ませ、関平を見つめた。

「恋、愛羅、信じる。

 だから・・・ 華雄、お願い」

「任されよう」

「芽々芽、音々音、行く」

「~~~~!!

 承知!」

 短いやり取りだが恋殿に信じるとまで言わせた関平を認めないことも出来ず、芽々芽は声にならない悲鳴をあげた後にいつも通り返事を返したのです。

 ねねも大概ですが、芽々芽もやはり恋殿のことが自分の感情よりも最優先。

 その点が、ねねが芽々芽を認める大きな要因なのです。

「逃げる!」

 恋殿のその言葉と共に、我々は脱兎のごとく虎牢関を後にしたのです。


来週は本編を投稿します。

この時の白陣営は、希望者がいた時のみとします。


現在、梅雨番外のアンケートを活動報告にて行っています。

活動報告に書けない方などいらっしゃいましたら、感想欄にてどうぞ。

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