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9,乱の始まり

ようやく、白もこの章を始めることが出来ます。

「あははははははは! 何度読み返しても面白すぎでしょ。この檄文」

 花畑から戻ってきた俺たちを迎えたのは、城の外まで響いてるんじゃないかってぐらい大きな王平さんの笑い声だった。

「王平さん、笑いすぎです!

 大体、これは笑いじゃないでしゅよ!!」

 それにかまわず中へと入っていくと朱里がそんな王平さんを怒り、中央の机で法正さんは何かを書き写している。

 目を細め、素早く筆を動かし、集中しているせいか。いつもの厳しさとは違う雰囲気を纏っていて、とても近寄りがたい。

「朱里ちゃん、ただいまー」

「戻ったけど、袁紹さんから檄文が届いたって聞いたけど・・・ 檄文って何?」

 俺の発言にその場が静まりかえり、王平さんがお腹を抱えて笑いだし、しまいには机を叩きだす。

「げ、檄文の意味もわからない君主・・・・・!

 本当に面白すぎだよね、君って!!」

「えぇい! 笑うな! 王平!!

 天の国から来られたご主人様が、こちらのことを知らないことがあっても仕方ないだろう!」

「それに檄文なんて、こんなことがない限りは使われませんしねぇ」

 愛紗と朱里の気遣いに涙が出そうです・・・

 不勉強でごめんなさい。もっと頑張ります。

「平、笑うのは結構だけど、机を揺らさないでくれるかしら?

 関羽、あなたも平を怒るのは結構だけど、机を叩かないで欲しいのだけど?

 たとえ君主の片方が意味を理解できなくとも、最低三つは写しがなければ説明がさらに面倒になるわ」

 苛立ちを抱いた様子もなく、淡々と注意を促す法正さんは流石ですよね!

でも、しっかりと俺が無能って言ってるところが厳しすぎませんか!

 いや、これが史実で言う董卓を倒す流れっていうのはわかるんだけど、『檄文』なんて言葉普段使わないし。

 普段使う言葉だってようやく読み書きできるようにとなったとはいえ、専門用語は今でもわからないのが実情だった。コツを掴めば書簡仕事は普段使ってる言葉に近いから、戦術的な専門用語はまだまだ勉強不足なんだよなぁ。

「鈴々もわかんないのだー。

 げきぶん?ってなんなのだ? 法正お姉ちゃん」

「コケッ、コッコー!」

 鈴々の問いに法正さんが短く口笛を吹くと、林鶏が何やら一つの書簡を背負ってやってくる。

 結構厚みのあるそれは『北郷(馬鹿)にもわかる言葉の意味辞典』と書かれていて、その筆跡は間違いなく法正さんのものだった。

 あれ? おかしいなぁ。

 俺の名前の横に一瞬だけ『馬鹿』って読みが見えた気がするんだけど、気のせいだよね? 法正さんがこんな遠回しなことするわけないよね?

 一度目を閉じてそれを見直せばそこに『馬鹿』の文字はなく、俺の目の錯覚だった。


【『檄文』:戦争時に同志を募る、あるいは通達・布告を知らせるための文書】


 意味が短く書かれ、他の語が多く並ぶ辞典を林鶏はそのまま俺へと押し付ける。

「コケッ!」

 『これはお前のだ』と目で語り、身を翻して俺をわずかに覗き見るその姿は鶏の癖にカッコイイ。

 でもお前、絶対『しっかり励めよ』的なこと言ってんだろ!

「こんの鶏がーーー!!」

「兄ちゃんは何を怒ってるのだ?

 林鶏は辞典を届けてくれたんだから、むしろお礼を言うべきなのら」

「・・・・主は純粋な御方だからな、林鶏殿と通じ合っておられるのですよ」

「愛羅も林鶏の言葉、わかるのだ?」

「林鶏殿は我々にもわかりやすくしてくださるので、概ねは」

 ・・・わぉ、さらっと俺を柔らかい表現で駄目な人扱いしてるよね? 愛羅。でも、愛羅も言葉わかってるんだ?

 俺の反応に不思議そうに首を傾げる鈴々にどう返すか迷っていると、突然桃香が手を叩いた。

「はーい、みんな。とにかく席に着こう?

 いつも通り、愛紗ちゃんと鈴々ちゃん、愛羅ちゃんはこっちで・・・ 紅火ちゃんも今日から会議に出席するんだよね?」

「あっ、はい。

 今日から参加してもらいましゅ」

「なら、愛羅の隣でいいよな? 椅子は・・・」

 桃香の言葉に驚きながらも、俺もちゃんとしないと思って考えを巡らす。言葉がわからなくても、わかってる言葉の中でやることは見つければいい。

「正ちゃんが準備をぬかると思うー?」

 王平さんが部屋の隅を指差せばそこには椅子があり、さっさと配置する。そうしていると温かいお茶の匂いがし、扉を見ると人数分のお茶と菓子を持ってきた華佗と貂蝉が入ってきた。

「会議であっても、お茶は必要だろう?」

「漢女の歌声も、さぁ~びすしちゃうわぁ~!」

「歌声の方はいらねぇよ!

 てか、部外者だよな?! 特に貂蝉!!」

 しっしっと俺が手を払いながら距離をとると、法正さんが俺へと再び視線を向ける。

「その二人は部外者じゃないわよ、北郷」

「はい?」

 俺の素っ頓狂な返事を気にすることもなく、法正さんは二人へと視線を向け、軽く会釈をした。

「医師華陀、看護師貂蝉、そちらの席へ。

 この無能君主の言葉は気にしないで結構」

「では、失礼する。法正殿」

「あらん、違うわよ。法正ちゃん」

 大人しく座った華陀とは違い、貂蝉は気持ち悪く体をくねくねと動かしながら、さりげなく褌からナース服を取り出し、瞬時に纏って首を振る。

「何かしら?」

「この服を着ている時、私の呼び名は白衣の、な・ぁ・す♪」

「きもいポーズを決めて、ナースキャップをかぶるなあぁぁぁーーーー!!」

 俺の中での白衣の天使が穢れる!

 ていうか! 普段服なんてまともに着ようとしない癖になんでコスプレはしっかりやってやがるんだよ!!

「愛羅、私は今からあの衣装に着替えてくるぞ!!

 あぁすれば、ご主人様はこちらを振り向いてくださる!」

「あ、姉上・・・ それはあり得るだろうが今この場の発言としては・・・・」

「ぜひとも着てください! お願いします!!」

 今は場違いである愛紗の発言すら俺は速攻飛びつき、返事をしてしまう。

 だって見たいし、こんなの見た後に女の子の正しいナースの姿を見たいじゃないか!

「はい! ただ今!!」

 愛紗も二つ返事で応対し、すぐさま会議室を出ていこうとする。

 が、聞きなれた杖の音が打ち鳴らされる。

「林鶏」

 もはや溜息をつくことすらなく、法正さんは短く名を呼び。

「コケッ」

 呼ばれた存在も、空中へと飛び上がって短く返事をした後だった。



「そ、それで檄文はどんな内容だったの?」

 全員が揃ったところで桃香が額から血を流す俺たちを見ないようにしつつ、朱里へと問うた。

「要約していえば、『洛陽にて董卓が暴虐を振るっていることを皇帝の臣たる私たちが見過ごすわけにはいかない。共に悪逆の徒である董卓を打ち倒しましょう』というものです」

「でも、ここに書いてあるのってほとんどお家自慢だよね?」

「はい、その部分を省きましたが、袁家がそれほどの勢力を持っていることも確かです」

 俺が恐る恐る問えば、朱里は頷き、事実を述べる。

「けっ、どこでも同じだってのに、場所が洛陽ってだけでこの騒ぎかよ」

「紅火、口を慎め」

「はっ・・・・」

 不貞腐れるように呟いた紅火に愛羅の注意が飛び、渋々ながら口を閉じた。でも、これが民の本音なんだろうな。

「そのことなんだけど、朱里ちゃん。ちょっといい?」

「はい? なんでしゅか? 桃香様」

 そんな中で桃香が控えめに手を挙げて、口を開いた。

「町にいるといろんな商人さんが来てて、洛陽から来た人もいたんだけど、この文章に書いてることと全然一致しないの」

「あぁ、それなら俺も聞いたことあるよ。

 実際、町の人たちからも都から来る商人さんが増えたって聞いたし。董卓さんの悪い噂なんて一つも聞かないぞ。

 むしろ商売はしやすくなって、仕入れも良くしてくれるって言ってたなぁ」

「通り抜ける時とか、賄賂求める人もだいぶ減ったしね!」

 俺が桃香に続けば王平さんも言ってくれて、関所でそんなことがあったのかと思いつつ、俺は最後に法正さんに視線を向けた。

「だから、何かしら?」

「えっ? いや、その・・・ それで、董卓さんが言われている通りの悪人じゃないんじゃないかなーと思うんだけど。

 あまりにも情報が食い違っているから、その檄文が間違っているんじゃないかなって思うんだけど、どうだろう?」

 俺がしどろもどろになりつつ、何とか言葉にし、法正さんを伺った。

 だが、法正さんの表情は変わらず、動かないで、口を開こうとすらしない。

「ご主人様に同意でしゅ。

 それに向こうには千里ちゃんがいるんです!!」

「元直があなた達の中でもっとも苦労人であることは認めるけれど、それは判断の要素にならないわね」

「商人さんも、自分に利益があったからそう言っただけじゃなーい?」

 朱里の言葉を法正さんが切って捨て、王平さんはあからさまに楽しんでわざと言っていることが透けて見える。

「あの腐っていない人が向こうにいる、だと!」

「どういう覚え方でしゅか!

 千里ちゃんは『麒麟』と呼ばれて、私たち三人で並び称されているんです!

 とっても頼りになるお姉さんみたいな人なんですよ!!」

 あぁ、その人苦労人なんだ・・・

 そりゃだって、こんな特殊性癖を持ってる子たちが傍にいればなぁ。

「二人とも腐ってるから、真人間は苦労するもんね」

「もっとも、あの子はその呼び名を好いてはいないけれど」

 それを王平さんが言うんですか! と叫びたいのをこらえ、俺は全員を見渡した。

「それでは結局、どちらが正しいのだろうか?」

 愛紗がポツリとつぶやいた言葉により、場が静まり返り、論点が再び元に戻る。

「あ? 何言ってんすか、愛紗様。

 こういう時は、えばってる奴が一番悪いに決まってんじゃないすか」

「いや、その考えはどうなんだよ」

 紅火の単純明快な言葉に対して、俺が突っ込むと次に鈴々が口を開いた。

「でも、紅火の言う通りなのだ。

 大抵偉そうな奴が嘘つくのだ!」

「いや、だからそのそうじゃなくてね。鈴々」

「じゃぁ、この場で一番嘘吐きなのは林鶏だね!」

「あー・・・ 冠つけてるもんな」

「コケッ?!」

「いや、なんでだよ?!」

 論点がずれて、しまいには法正さんの隣で羽を休めていた林鶏に火の粉がおよぶ。本人もすげぇ驚いてて、目を丸くしてる。うわぁ、珍しい。

「ちょっと話ずれちゃったから、一旦落ちつこっか

 とりあえず、朱里ちゃん。

 結論から言えば、私達はこの檄文を断ることは出来ないんだよね?」

「はい・・・・ その通りです。

 もし断ったら袁家のみならず、大陸中の太守たちを敵に回し、囲まれやすいこの土地はすぐさま飲み込まれてしまうでしょう」

「まっ、事実がどうであれ、この檄文が出た時点で董卓陣営は詰んじゃったようなもんだもんねー」

「え? それってどういう・・・」

 というか、後輩がいるのに他人事すぎやしないか?

 それにいくら戦争とはいえ、二人が冷たすぎるように感じてしまうのは俺の気のせいだろうか?

「ちょっと、いいかしらん?」

 その場の空気を断ち切るように野太い貂蝉の声が響き、皆が視線を向ける。

「それでご主人様と桃香ちゃんは、一体どうしたいのかしら?」

「どう、って・・・・」

「いろいろあるじゃなーい?

 保身に走って戦のみを見るか、誰かを守りたいと言ってそれしか見ないか、はたまた自分だけの新しい道を切り開くか。

 これは戦だもの。自分だけでするものでも、仲間だけでしている事でもないわん。

 いろいろな立場があって、それぞれに守りたいものがあって、誰もが必死よん。

 その中で、二人は何をしたいのかしら?」

「貂蝉・・・・」

 その通りだった。

 そして、曹仁さん達があの時していたことも、それすらわかってしていることだった。

 なら、俺は・・・・

「助けたい・・・・」

 おもわず口から言葉が飛び出る。

「俺はもし董卓さんが本当に悪い人じゃなかったら、間違った情報から殺されそうになっているのなら、助けたいと思う」

 確証なんてどこにもないけど、それでも俺はちゃんと自分で全てを知って、選んでそうしたい。

「私も同じだよ、貂蝉さん」

「惚れ直したわん! さすが私のご主人様!!」

「それはいらないから」

 桃香の言葉にかぶせるように貂蝉の言葉が飛び、俺は速攻で断る。うわっ、目がハート形になって気持ち悪っ。

「その件に関して、貂蝉の知り合いの者に来てもらっている」

 俺に抱き着こうとする貂蝉を避けながら、華陀が扉へと手を向けて、それと同時に一人の存在が入ってくる。

「失礼するわ」

 どこか緊張した声とともに入室したのは筋骨隆々の体をむき出しにし、腰には音のなる腰みのをつけ、胸元を隠すような布を付けたまるで貂蝉に装飾品を付けたような存在が登場した。

「帰れえぇぇぇぇーーーーー!!」

「うるせぇ、北郷」

 俺の発言に対して、紅火が速攻で返し、俺は逆に怒鳴り返す。

「仕方ないだろ! なんだよ、この化け物!!」

「失礼ねぇん、この子は私のお友達。

 大陸に散らばる漢女の勇士たちよん」

 こんなのが複数いるのかよ! 末期だな大陸!!

 もうみんな、諦めたような目をしてるしな! お願いだから慣れないで!? あんなのが複数いることを!

「それで、その人が一体何なんだよ?」

「実は私は今でこそ踊り子なのだけれど、かつて洛陽にて警備隊の隊長を務めていたの」

「はぁ・・・・」

 こんな人が警備の隊長を務めてるなんて、本当に大丈夫なのかな? 洛陽。

「まぁ、目覚めちゃってからはお母様と喧嘩して洛陽を飛び出しちゃったのだけれど、董卓様も含め洛陽の重鎮の方々はそんなことする人じゃないわよ」

「では何故、このような事態に?

 もしご主人様たちが得た情報の方が確かだというのなら、今こうしていることがおかしいだろう?」

 愛紗が問えば、その人は身振り手振りを付けて大げさに答えだす。

「十常侍と王允様率いる清流派、その二つに挟まれちゃって董卓様たちはてんてこ舞いなのよー。

 それに董卓様だって、霊帝様によって最近洛陽に呼ばれたんだもの。むしろここまでやれたことの方が、奇跡なんじゃないかしら?」

「はわわ・・・ 千里ちゃん・・・ 

 手紙でもそんなこと少しも書いてなかったのに・・・・」

「うっわー、元直ちゃんさっすがー。

 そんなところに入るなんて、苦労人の鏡!」

「平、茶化すのをよしなさい。

 元直は・・・ 良くも悪くもそういう子よ」

 友人を心配する朱里とあくまで茶化し続ける王平さんと、反応を変える事のない法正さん。

 なんていうか、本当にこの二人はあんまり心配しないよな。

「法正お姉ちゃんは、『げんちょく』って人を信頼してるのだ。

 鈴々、なんだか少し羨ましいのだ」

「えっ? 信頼?」

 鈴々から飛び出した予想外の言葉に俺は目を丸くし、法正さんは俺の反応を相手にすることもなく、頷いて見せた。

「そう、ね・・・・

 私は信頼しているわ、あの子の実力を」

「やると決めたことを放り出す子じゃないもんねー。

 あの二人の面倒を見きったくらいだし」

「どういう意味でしゅか!」

 じゃぁ、法正さんたちは信頼しているから、特に騒ぎ立てなかったのか?

 そんなことはないと、そうじゃないってわかった上で会議に全く私情を挟まなかった?

「あの、法正さん?

 もしかして最初からこの事・・・?」

「最初に言ったでしょう。

 選ぶのは私じゃなく、君主であるあなた達よ。考える事をやめ、選ぶだけでは何の意味もない。

 あなたたち自身が考えることにこそ、意味がある」

 最初に会った日からぶれる事のない明確なものを、法正さんはあの日と変わらない厳しい目で俺を見つめた。

「では、再び私が問いましょう。

 この陣営は、この乱に対し、どう立ち向かうのかしら?」

 その言葉に、俺たちの心はもう決まっていた。


『檄文』

この言葉の意味を、私は高校時代に理解していた自信がありません。

なんとなく理解していても三国志の一部にあったことと記憶し、正式な意味を理解はしていませんでした。


蜀北郷のスペックはどの北郷よりもどうしても低く感じ、魏北郷と同じとは考えにくい。というよりも、魏北郷の察しの良さは正直『異常』とすら思っています。呉北郷がかろうじて一般的と言ったところでしょうかね。

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