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嵐のあとで

~~~~ん~~あったかい~~ふわふわする~~いいきもち~~~


私は、ゆっくりとその感触を味わうとともに薄目を開いた。

大きな腕、温かい広い胸、そして、優しいにおい・・・あれ・・・?

「・・・・?優ちゃん?・・・」

「だからそれは誰だ?」

聞きなれた声が頭上からする。都は?ここは?

「・・・俺のマンション、水飲むか?シャワー浴びるか?気分は大丈夫か?」

声の主に、唖然とした目を向ける・・なんであんたが?何で私はここに?

「・・・・酔っ払いをつれて帰れないって都が俺にSOS出したんだ、あいつもかなりよってて、アパートに送っておいたよ。」

それでなんで私は、あんたのマンション?じと目でにらむ私の視線を避けながら、奴は言った。

「都が、お前は飲みすぎたから一晩隣で様子見たほうが良いっていうから・・仕方ないじゃないか!」

なんか・・すごい言い訳に聞こえる・・・。にらみ続ける私の視線をかわしつつ彼は言った。

「それとも。ERで点滴したほうがよかったか?」

・・・・その事態だけは絶対避けたい・・・・。

「ありがとう、でももう大丈夫だから・・・・帰るわ」

立ち上がろうとして、ふらついた。おかしい、そんなに飲んでないはずなのに・・?

ふらつくあたしを抱きしめるように支えて彼は言った。

「泊まっていけよ、お前の嫌がることはしないって約束するよ。それに、この状態で帰したら俺が都に怒られる」

・・・本当に?・・ならこの手はなんだぁ?

「・・・・だって、おまえ、離したらこけるぞ?」

「紅茶が飲みたい・・」

わかった。と彼は言い私を軽く抱きしめ(られたように感じただけかもしれないが)キッチンへと向かった。

私は、ローテーブルを前にクッションにもたれて座った。ミルクで良いか?と声をかけられて、うん・・と返事を返す。湯気のたったミルクティーのはいったカップが置かれた。


「・・・・優ちゃんて誰だ?」

「・・・・いいたくない、あなたには関係ない・・」

私の、きっぱりとした拒絶に少し彼は傷ついた顔をした。

「・・・隣に座ったら駄目か?」

「・・・どうぞ・・・」

私の返事に、少し驚いた顔をしてそれでも嬉しそうにこちらへ来る・・・くそう・・少し心が揺れる。

 相変わらず、必要以上に密着してくるやつの身体と少し距離を置こうと身体をよじる。

「・・・お前の身体温かいな」

こちらを覗き込む彼の目と私の目が重なった。温かい・・?それは、あなたのことだ。


・・・・・・・本当に温かい・・・。生きてる人の温かさだ・・・。


心地よさに身をよじって作った距離が縮まる・・・。

いつの間にか、抱きしめられていた。でも私はこの温かさを離したくなかった。そして私もこの温かさを抱きしめる。


「ほんと、何もしないから・・・。」

頭のてっぺんに、やさしい振動と、温かい吐息を感じながら、いつの間にか私は夢の世界にいた。






「きてたんだ。」

「お風呂沸いてるよ?食事はどうする?」

あれから彼は本当に抱きしめる以上のことをせず私を一晩中暖めてくれた。

そして、その温かさと心地よさに味を占めた私は休みの前日は度々此処に通うようになっていた。

 そして、友達以上、恋人未満の、生ぬるい関係が続いている。都のいい加減にしなさいね?と言うため息とともに。

「おかず何?」

「ん~~ホイル焼きと、味噌汁、ヌタと冷奴。」

「風呂入ってくる」

もう時刻は日付けが変わろうとしている、ホイル焼きを焼いているとお風呂から声がかかる。

「お前は食べたの?」

食べた、と風呂場に向かって答える、ビール付き合って?ときかれ、だしとくねと答える。



「~~あ~~うまい」

当たり前のように私の隣に座り私を抱きしめるように抱えながら、彼はビールを飲んだ。そして、私の肩に顔をうずめながら、美香のにおい良いにおいとのたまう。

 いやいやいや、ちょっと引っ付き過ぎでしょう・・・。内心突っ込んでみるが、この2ヶ月それ以上手を出さない彼を信用している私は黙ってされるがままにしていた。

ビールを飲みながらホイル焼きをつつき、彼は言った。

「おまえ、ERの教授と知り合いか?」

首を回し、彼の顔を見ながらいわれた言葉の意味を考える。

「今日、肝破裂の患者のエンボリを頼まれたんだ、そのとき、教授もいてな?・・お前に手を出すんなら自分の許可を取れと言われた。」

「・・・・・・・・・・。」

「この世で一番大事な娘だから、中途半端な気持ちなら覚悟しろよ、とも言われた。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「縁戚関係でもなかったよな?」

私の顔をちらちらと伺いながら、言葉を続ける。ただの知り合いにしては、真剣に言われたぞ?ちょっとびびったかな?・・という彼のため息を聞きながら、まだ気にかけていてくれたんだ・・まだあの人の中でも終わってないんだ・・と私は身を硬くした。

「?ごめん?なんか気に障ったか?」

私の変化に気がついた奴は、あわてた声で私に言った。

「なんでもない。何もない。」

質問の答えになっているような、ならないような返事に、彼はそれ以上の質問をせずに黙って食事を再開した。



食事を終えて、飲み足りないのか、私の隣でもう一本ビールのプルタブを引いている彼を私はボーっと見ていた、時刻は2時を過ぎようとしていた。

「まだ、寝ないの?」

ああ、今日は気になることがあったから眠くない・・・こちらを見ずに返事を返す彼の横顔を見ながら、わたしは、言葉を選びつつ話し始めた。

「・・・昔のね・・・知り合いが、槇原教授の下で働いていたの・・・。そのときの何回か、マッキーにはあったことがあるの。私が高校生のときだから、もう、12年になるのかな?昔は、あんなに怖い人でなくて、優しいおじちゃんだったんだよ?」

彼は私の顔をみて眉をしかめながら・・・お前仮にも教授に向かってマッキーてなんだ?・・・とあきれた声で言った。

「だって、就職してから会ってないし、私の中では、12年前のマッキーの顔しか思い浮かばないもの。私がつけたんだよこのあだ名?かわいいでしょう?」

微笑む私をビールを飲みながら彼は見ていた。私は言葉を続けた。


「12年もたったんだあれから・・。私もうすぐ30になっちゃうんだよね。」


お前それはいきなりでしょう?まだ、20台でしょうと彼が苦笑いしながら言った。

「・・・ううん・・・あの時はまだ、16だったんだ。覚悟も何にも出来ていなかったんだもの、どんな言葉が相手を傷つけて、どんな言葉を伝えたら良いかもわかってなかった。だからあんなことになっちゃったんだ・・・。どんなに後悔しても時間は戻らないよ・・・ね?」

 お前酔ってんの?と 居心地が悪そうに彼が言った。それなら今から謝れば良いじゃないかとも・・・そして、なんなら俺が一緒に言ってやろうか?などととぼけたことを言う。

「もう、無理なんだ・・。謝れないのよ。」

横にいた彼にゆっくりと抱きついた。

「あなたは、温かいよね・・・。とっても・・・。こうしているとほっとする。」

抱きついて、胸に顔を摺り寄せる私を、彼はそっと抱きしめてくれた。そして、ゆっくりと背中をなでてくれていたが、そのうちに、なぜか身をよじった。・・・あれ?

「・・・・?ねえぇ?・・・・」

「・・・・・言うな・・・・・」

「・・・・何か、異変が起きてませんか?」

「だから、口に出すなって!!!」

真っ赤になってうつむいている彼の顔を、私はまじまじと見つめた。

「治まりそう?トイレに行く?疲れているんじゃないの?何でこんなに元気なの?」

「お前には、男の生理を理解して、さり気無く恥らう気遣いはないのか?」

「・・・そんなん、6年も看護婦して、28年生きてきた私に求めたって無理よ?まさか、私に収めるのを手伝ってくれなんていわないわよね? 手でも、口でも遠慮させてもらうわよ?。」

「・・・・おまえこないだまで・・本当にバージンだったんか?・・」

あんたが、無理から奪っといてよく言うわね~~という台詞から逃げるように、彼はトイレに向かっていった。よしよし、自分で何とかしてください。






「・・・・あんたって、鬼ね・・・。」


都の冷たい視線を無視しながら、事の顛末を都の部屋で飲みながら私は語った。・・・。

「ホンで、あいつを煽るだけ煽って挙句、 好きな女に擦り寄られて欲情したあいつのぶつを冷静に観察して自分は後始末せずに相手にさせたんだ。」

「・・・なんか、都の言い方ヤダ・・身もふたもないじゃん・・」

「その状況を、どう脚色しろと?」

「まるで、私がろくでなし見たいじゃん」

「ろくでなし以外のなんだと言うんだ!!? 充分ろくでなしだよ?あんた男心を弄ぶのはいい加減やめろよね?どうせ、バージンささげた相手じゃない?いまさらでしょう?させてやれよ!!」

「だから、身もふたもない言い方やめてって。それに、捧げてない、奪われたんだって!!」

都は、キッッ!!とこちらをにらみつけ言い放った。

「休みの前日にしょっちゅうお泊りに行ってるくせに今更だよ!!あれから、やってなかったなんてびっくりするわ!!あいつのへタレ具合と忍耐力に拍手喝さいだね!!」

「だから・・・そんな関係じゃないって・・・。」

まだ言うか!!!! じゃあ、あいつにかまうな!!きっぱり切って捨てろ!! 奴のために!!それが本当のやさしさだ!!! 」

都の剣幕に私は黙り込んだ。そうだ、都の言うとうりだ。わたしは、彼の温かさと彼の優しさに甘えて、優ちゃんにあえない寂しさを埋めようとしている。

「ねえ?美香。」

打って変わってやさしい口調の都の顔を見上げた。

「思い出は捨てる必要はないけれど、思い出はあんたを暖めても抱きしめてもくれないんだよ?今一番大切な人は誰か本当はもう分かっているんでしょう?このままだとあなた、また後悔するよ?」

ひざを抱えて円くなりながら都を見つめた。

「でも・・やっぱり、わたしは、優ちゃん以外の人のお嫁さんになれない。だって、約束したんだもの。」

私は都の、あきれたようなため息と、ドンだけすり込まれてるの?こんなん置いていってほんまに罪な男だよ・・というつぶやきを黙って聞いていた。




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