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はじまり その3

 気がつけば、なぜか彼のマンションにつれてこられた。

 

 夜中に安くでゆっくり飲めるところはここだろうと、押し切られてしまった。

 まあ、昔はよくよっぱらって皆と雑魚寝をしたから、初めてのお泊りではないけれど・・・、この状態で、この時間に、ここに来るのはかなり御遠慮したかった。

 


 最近越してきたんだ・・と言っって案内してくれたそのマンションは、どう見ても、一人暮らし用でない。4LDKで賃貸でなく、お買い上げだそうだ。



      ・・そうですか、そりゃねあなたの給料だったら、買えますよね・・・。


「・・・うわぁ~ きれい!!」

    リビングから、ベランダが見える。眼下に広がる、見事な夜景!!思わず声をあげて見とれていた。


「たそがれ時は、もっと、すごいぞ。」

    いつのまにか隣に来た彼が軽く肩を抱いてささやく。


 ・・・・何するんだ?・・と 軽くにらみつけると、彼は何事もなかったように手を離しキッチンに向かいワインとビールどちらがいい?と涼しい顔でこちらのほうを向いて微笑んでいる。


ここで、この状態でお酒を飲むのもまずい気がしたので、ノンアルコールのものがいいと伝えてみた。


「・・・・酒飲みのお前が、ノンアルコール?・・・何か予防線張ってるのか?俺ってそんなに信用されてないか?」


 ちょっと傷ついた顔をして返してくる。やっぱり私の思い過ごしかな・・?

それに彼が私に特別な感情を持っているのなら、今まで一緒にいた時間の中でとっくにどうにかなっていただろう。


 「ロゼある?」

 

 もちろん、・・と返事が返り、冷えたワインと、グラスと、おつまみを持ってローテーブルの上に置いてくれた。

 座ると夜景が見えないのが残念だったが、椅子より床に座るほうが私は好きだ。

 彼が持ってきた大きなクッションにもたれくつろいだ。

  

      ・・・・・自分が怖い・・。


 隣に座ったら拒否しようと身構えるワタクシの期待にはずれて、彼は向かいに腰をおろした。




「このまま、子供が出来てもすめるね。」

      空腹にワインなんぞをいただいてちょっといい気分になった私は軽口をたたく。


「その前に、嫁もらわないとね」

      あさってのほうを向きながら、まじめに、彼が答えていた。


 そのすねたような口調に、ちょっとからかいたくなった私は、いらない突込みを入れてみた。


「誰かいるんじゃないの?こんな、妻帯者用のマンション購入して?結婚フラグたってるじゃない?」

「・・・いるよ、手に入れたい人が・・・。」


 急にまじめな顔をして、彼がこちらに真剣なまなざしを向ける。


         ・・・・いやな空気が流れる・・・。思わず身をすくめた。


「・・・だったら、私なんかにかまってないで、その人さそえば?」

 

 彼に好きな人がいたとは、初めて知った。もっとも3年も離れていたのだからきずかなくても仕方がない。

 そうか、好きな子がいるのかと少しショックを受けて、それでも幸せになって欲しいと、彼を見た。

 

「どんな子なの?」

   私の問いに、今度は下を向いてため息をつきながら彼は答えた。


「・・・多分、まったく相手にされていない。俺のことをかぼちゃか芋だと思ってると思う。男としては認識していないと断言できるね 」


・・・その話を聞いてかわいそうになった。もともと私は彼は嫌いではなく、むしろ友人としてとても大事に思っている。


       ・・・・・・・幸せになって欲しい。


 そんな友人が、好きな人に異性として感じられていないなんてとても同情をしてしまう。

 

 そりゃどこかでストレス発散もしたくなる気持ちもわかる。

 だが、わたしでは愚痴の相手ぐらいにしかなれない・・・。


「私相手に、女性心理を聞きだそうと思っても無理だと思うよ?だって私は世間一般とかけ離れてる自信があるもの。」


       ・・・ほんとにね、・・と溜息交じりに彼につぶやかれた。



 私は少し彼の台詞にむっとしていた。役に立たないと思うのなら私なんかを誘わなければ良いのに。

 それともストレス発散の対象に選んでいるのか?非常に迷惑だ。


 でも・・・と思う。


 大事な友人の悩みだ。出来るなら役に立ちたい気持ちはある。そう思い直し彼をまじまじと眺めた。

 顔はそんなに悪くないと思う。なまじっか当たり障りのない性格をしているのも問題なんだろうか?

 世の中マニアックな好みの人が多いですものね・・・?

  うーん。いやいや、実は やさしいんではなく単なるヘタレだってことに先に気づかれたのかもしれない。

 優柔不断で決めきれない性格してるしなぁ・・・それに、みょ~なとこ細かいし・・付き合ってると疲れる ときがあるし・・。

  あと、男として認識されていないって・・・・?

 なんか、モーションはかけているんだろうか?それも無視されてるのかしら?

 鈍感な人?それともモーションのかけ方がへたくそ?

  でも嫌われたくないと思うなら、手も出しにくいだろう。友人としての認識なのかしら?

 男として認識されてないなら、まだ男として嫌われたほうがましかもしれないよね?

 


              だって男と認識はされてる事になるし・・・。


  男と認識されていない相手に自分の性別を認識させる方法なんてひとつしかないと思うんだけれども、こ の一見周りを見ずに突き進むところもあるけれど、肝心なところでヘたれてしまうこの人に、それを実行す るだけの度胸があるのかどうか・・・。


  などなど、彼が私の心の声に気づいたならば、本格的に傷つくだろうな・・・

 という内容のことを頭の中で考えつつ彼を見ていた。

 そんなわたしの、心の声に気づいたのか、彼はいった。


「・・・なんか、不本意なことを考えられてる気がする・・・・。」

「いやいやいや、そんなことはないですよ?ほらほら、お姉さんが聞きますから、どんどん吐き出してくださいね。ほらここに座ってください!!」

「・・・・・だから、おまえは年下だろうって・・・。まあいいか、・・よこすわっていいのか?」

     ぺしぺしと、自分のとなりをたたく私を見ながら彼はいった。


 「向かい合わせだとお酌しにくいなと思っていたのよ。 今日は一晩中付き合ってあげようじゃないの!」


 のそり、と彼は移動した。・・・?いやでもそんなに密着しなくても・・・。


           ・・・・・・確かに隣にとは言ったけれど・・・。


いやいやいや、思う人に思われず人肌恋しいのかな・・と解釈してあえて異論を唱えなかった。



                ・・・・はい、浅はかでございました。・・・・・


 殆んど私を抱きかかえるような形で密着した彼の行動をあえて無視し、わたしは温かい視線で相談に乗った。






 「でも、聞けば聞くほど、困った人ですね。」


 本当に、聞けば聞くほどあきれてしまった。


 その人と彼の関係は6年にも及ぶという。私もまったくきずかなかった。私たちが友情を育んでいたときに、彼は彼女に対する恋心を育んでいたらしい。でもいったい誰だろう?上手に隠したものだ。もっと早く相談してくれれば良いのに。本当に友達がいのない人だとおもう。


「・・まあ、おれも、冷却期間をおこうかと思って連絡取らなかった時期もあったんだ。周りの女性に気のあるそぶり見せた時期もあったけれども、まったく反応なかったし」

 

 まあ飲んでください、・・とグラスにワインを注ぐ、話を聞くうちに、ロゼから始まり、白、赤、と3本目のフルボトルが空こうとしていた。

 宅配の、ピザをつまみながら、私は涙目になっていった。


「しんちゃん。けなげだね。」

    彼は、4本目出そうか?と聞いたが、私はかぶりを振った。


「いやいやいや、飲んでいる場合ではないって。どうにかして、その人を落とそうよ?でないと安心して飲んでられないよ!!」

 

 こんだけ飲んで、飲んでる場合じゃないって・・お前ドンだけ酔ってんの?・・・というため息交じりの声が聞こえた。


「どうしたら、俺の気持ちに気づいてくれる?」

     覗き込むように、真剣な目で聞かれる。


 うんうん、かわいそうにね、いい加減落としたいよね、切羽詰るよね。

           ・・・・・・と考えながら、彼の真剣な瞳をぼっと見ていた。


      ・・・・・・あれ?・・何か違和感を感じる・・。酔った頭で、違和感の正体を考える。


「無理やり、押し倒そうかと思った時期もあったけれど、そんなことして傷つけるのも違うと思って出来ない・・・」


そのせりふに思わず叫んでいた。


「だめじゃない!!へタレ!!」

 目を見開き、のけぞってる彼に私は言い放った!!少し・・、いや、かなり私は出来上がっていた・・。


 「6年だよ!!6年!!男として認識されていないんでしょう!!!後はもう、自分が男だって、無理から認識させるしかないじゃない。すきだって言ってもわかってないんでしょう!?後は押し倒すしかないよ!!!」


 唖然としてこちらを見る彼に私はここぞとばかりに続て説教した。


 「いつもいつもそう!!一見わが道行ってる様に見えるくせに肝心なところで引いてしまう!!だからいっつもリーチかかってるのに、大事なものに限って手に入れ損ねてるんじゃないの?そういうのなんていうか知ってる?ヘタレって言うんだよ!!一度くらい勇気出してチャレンジしてみなさいよ!!」


 あたって砕けてしまえ!!と叫んだ私を見つめて、彼は砕けろは余計だ!と言った。


 そしてしばらく私を見つめていた。どのくらい時間がたっただだろう・・。見開いていた目を閉じて、こめかみに手を当てて、ため息をつきながら彼はいった。


「・・・・そうだな、すきだって伝えても幻聴扱いだもんな?あのシュチュエーションで、何でおれが ちーちゃんに、告白せんといかんのだ?」

   横にいた彼との距離が縮まった。後ろに回った手で腕をつかまれ横から抱きしめられた。


「・・おまえ・・・、これだけ言っても、自分に心当たりはないのか?」

   酔いが一瞬でさめた。今私、何か非常にまずい事をいった気がしますよ・・・?


「・・・え~っと?わたくし、長居をしているみたいなので・・・そろそろおいとまをしてもいいですか?・・・。」

   立ち上がろうとした私を逃がすものかと片手が強く抱きしめ、あいた片手がゆっくりと私の顎を捉え私の顔を横に向ける。


 「5連休だったよな?奇遇だな?俺もだよ」

   よかったですわね、と逃げようとしてみた。

 


          ・・・でもがっちりホールドされて逃げられない。


 やな汗がでる。


「お前言ったよな、後は押し倒すしかないって・・・。」

   いやいやいや言ったような、言わないような・・・それはワタクシ除外ということでお願いしたいのですが・・?。


「お前の助言どうり、肝心のところで引いてしまうヘタレは卒業する事にするよ」

    手の甲で彼は私の頬をなでながら続けた。

    

「ゆっくりと、俺の性別が、雄だってこと認識してもらうよ・・それから、いろいろ相談することも     あるしな・・・」


 

            いやいやいやいや、ちょっとまってくださいな・・。


 

              「・・・自分の発言の責任は取れよな。」


               



             奴の唇が、わたしのそれにゆっくりとかさなった・・・・。









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