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みらいのいろ

 槇原先生に、結婚の報告をした。優ちゃんがなくなったときにとても心配をかけたから・・・喜んでくれるかと思ったが・・・。


 あまり嬉しそうでなく、そうか・・。と一言言っただけだった。

槇原先生の奥さんに、子供はあたしが取り上げるからよそにかからないようにと言われた。それと・・・

「ごめんね、あの人あんまりいい顔しなかったでしょう?」

「反応にがっかりしていた私は素直にうなづいた。

 

 「中野君は彼の中ではまだ死んでないのよ。」


 「時間がたったら忘れられると思っていたけれども、形を変えて悲しさは続いてるって一番生きていて欲しい人を助けられなかったって・・毎年命日には一人で泣いてるのよ」

「・・・だから、本当は美香ちゃんが前にすすのもいやなんだと思うわ。」

「それが、いいのか悪いのか、私にはわからない。でもごめんね。そんな彼の不器用な面も含めて、彼なのよ。」

私は、奥さんの顔を見て素直な気持ちをぶつけてみた。

「・・・・私が結婚した事もいやなんでしょうか?」


「それは違うと思う。」


「美香ちゃんが可愛い妹で幸せになって欲しいと心から思ってるのも事実。」

・・・・でも・・・と続けられる・・・・


「中野君と言う一番彼が大事だった人のことが、薄れていくのが許せないと言う気持ちがあるのも事実。難しいわね・・彼自身ももてあましてると思うわ・・・。」


 そして私のほうを向いてにっこり笑って、こう続けてくれた。

「どのくらい時間がかかるかわからないけれども、きっと折り合いはいつかつけてくれると思うから、もう少し待ってあげて。」・・と、優しく微笑みながら・・・。


 わかります、私も優ちゃんは忘れられない。そして、優ちゃんと、真一君も比べられない。

優ちゃんとの想いではなくならない、けれど、それを持った私で、真一君と2人で生きて行こうと思う。


事務局で手続きをして、師長に報告した。苦笑いしながら、今度はちゃんと手続き踏んでねと笑われた。


 ・・・・・はい、お騒がせして申し訳ございません・・・。


一部の風当たりが厳しかったが、まあ、仕方がないことだろうと思う。

彼は、自分がごり押しして手に入れたのだから、波風立てて、気が変わることのないよう静かに見守って欲しいと、いろんな人に言ってるらしい・・・と都に聞いた。

 ほんとに、自分からヘたれた印象を作ってどうするんだろう・・・。

ため息をつく私に、都は笑った。

「半分は本当で、半分はあなたへの風当たりを自分のほうに向けようとしてるんだろうね。」

それはわかる、でも私も自業自得なところがあるから良いのに・・・。

まあ黙って守られといたら?と都は笑いながら言った。

「結婚式はどうするの?」

「・・・う~ん・・めんどくさいし、止めようかと思ったんだけれども・・・」

・・・・叔父が許してくれなかった・・・・。美香ちゃんの花嫁姿は、絶対見ないといやだと、子供のように地団太踏む叔父を見て・・・仕方ないので折れた・・・。

「むこうの立場を考えると、しないわけにもいかないし、でも見世物になるのもいやだし・・・・。」

あんたってホント世間一般の乙女心からかけ離れてるよね・・・。と都はため息をつく・・・。

・・・・そうかなぁ・・・?




 式は結局せずに、披露宴のみ行う事になった。あまり華々しいことはしたくなかったが、彼の立場を考えるとまったくしないわけにもいかないという父の意見を尊重した。


 披露宴で花嫁衣裳を着るので、結婚式を行う事にはこだわっていなかったが、真と自宅に帰省中叔父とおばに呼ばれた。


部屋に入るとウエディングドレスがあった・・・。

「・・・・・どうしたの?これ?」

叔父と叔母はいいにくそうに、真を見て言った。

「優が、お前に用意していたんだ。」

そのドレスは、真っ白でなく光線の具合によって淡い青みがかった色になった。

「本当は、処分しようと思ったけれども、捨てられなかったんだ。」

私は近づいてドレスを見た。そうだ、優ちゃんにどんなドレスが言いかと聞かれて、答えたときに思い描いたドレスに似ている。


「夏の旅行で、あいつは、教会の予約をしていて2人きりで式を挙げるつもりだったらしい。優が逝って暫くしてから連絡が来て引き取りに行った。」

叔父は私たちの表情・・・真の表情を伺いながら続けた。


「本当は、内緒で処分を考えたが出来なかった。美香ちゃんにも言うまいと思ったけれども優の気持ちを見て欲しかった。美香ちゃんにだけに見せる事も考えたが・・。それは違うだろう?


 こわごわと真のほうを振り向いた。真を見ると無表情でこちらを見ている。怖い・・・表情が読めない。私はもう一度ドレスを見た。優ちゃんの笑顔が思い浮かぶ。でもこれは受け取っていいのだろうか・・・。


「・・・全然嬉しくない贈り物ですね。」


 不意に、真が言葉を発した。


「・・・本当に、いつまでたってもこうやって面影は追いかけてくるんでしょうね。」

   悔しいけれど・・・と。


 そして、ドレスに近づいてそれを手にとって、私にあわせて言った。

「・・・悔しい事に、今のみかにも良く似合う。」

「きっと彼は、何年も先の美香まで見えていたんでしょうね。」

もう一度、ドレスを戻してから言った。

「披露宴の前に式の挙げれる、開いてる教会を探そうか?」

「・・いいの?」

私の言葉にきょとんとして、そして苦笑いをしながら言った。

「キャパシティは狭いから、やきもちは焼くし、愉快な気分でもない。」

でもね・・・と続く。

「ドレスを送ったのは中野先生かもしれないが、その着飾った姿のみかの横に並ぶのは俺だし、その美香を抱けるのも僕だけだ。教会なら天国に近いから見せ付けてやる事も出来る。勝手に天国で地団太踏んでりゃいいんだ!!」

最後はすねるように言った真の顔を叔母のくすくす笑が追いかける。

「じゃあ、せいぜい悔しがるように仲のいいところを見せないとね。」

そんなおばの言葉に、叔父が、すねたように言う。

「僕の前ではいちゃつくなよ!隣に帰ってからにしろよ?」

にやりと叔父に笑いかけて、2階の部屋を借りても駄目ですか?あそこなら見えませんよ?と返す真。叔父は真っ赤な顔をして、お前は何処まで不埒なんだ!!と怒る。そんな2人のやり取りを私と叔母は呆れた顔で暫く眺めた後。インターネットで教会を検索するために2人を残して部屋を出た。



教会の見当をつけた後、叔母が言った。



「アクセサリーはどうしようか?」

「叔母さん、優ちゃんにもらった、サファイヤのネックレスとイヤリングがある。」

「ああ、あれね・・・。でも本当に真一君嫌がるんじゃないの?」

「さすがにリングは真にもらったものしかつけないので大丈夫です。」

それに・・・・と続けた。

「あのドレスは、多分私にくれたネックレスたちに合わせて作られてるんです。私がプレゼントしたアクセサリーをしないって、良くすねてましたから?」

ふふ・・と、おばが笑う。

「そうね、すねんぼで、見栄っ張りで、俺様で・・・良く美香ちゃんあんなのと付き合ってたわね?」

今度は美香が笑いながら言った。

「でも可愛かったですよ?大きな子供だったし。本人は私がお子様で甘やかしてるつもりだったみたいですけれど?」

「・・実は美香ちゃんが転がしてたのは、私たちみんな知ってたわよ。」

2人で笑った。こんな風に優ちゃんの思い出で笑える日が来るとは思わなかった。真のおかげかもしれない。叔父と真がもめながら入ってきた。本当になんか方向性の間違った仲の良さの様な気がする・・・。教会の話、アクセサリーの話をすると、真はまた無表情で良いんじゃない?と言って、新聞を見ながら、指輪もすれば良いのに・・・と付け加える。

・・・いいえ、しません。それは私のあなたに対するけじめですから。

言葉にはせずに、真にわかるようにゆっくりと首を振った。真がほっとしたような顔をして、そしてすぐに無表情にまたなったのを見ていた。都合の悪い感情を私に読まれまいとする真の努力の顔がそこにあった。


                  ありがとう  



 結婚式の当日、その日は晴天だった。教会での式は本当に一握りのごく親しい人たちのみで行われた。


「マッキー先生・・。」

披露宴に招待状にも欠席の返事しかくれなかった槇原教授が来てくれていた。


「ああこのドレスか・・。」

「・・・?」

苦笑いしながら槇原先生が言った。

 不思議そうに顔を見る私に、笑いながら暴露してくれた。

「当直中にな、医局で熱心に何見てるんだろうと思ったらな、結婚情報誌で。」

「・・・・・」

「特集記事のドレスを穴の開くほど見ていてな。ちょっとつついたら、夏休みに旅行の計画を立ててサプライズで挙式しようと思うって真っ赤になりながら言うんだ・・最初は何の冗談かと思ったよ。」

目を丸くして、牧原先生を見た。私のその顔を見ながら、ますますにっこりと笑いながら楽しそうに先生は続ける


「美香ちゃんのことは知ってたけれど、まだ高校生だろう?早いんじゃないかって聞いたら。僕はもう16年待ってると来たもんだ。」

・・・・・優ちゃん・・・何処で何を言ってるの?私は顔が赤くなるのが判った。


「本当の式には呼ぶから今回は呼べませんすみませんって真っ赤になりながら言い訳してたのが面白かったな。」

こちらに向かって走ってくる真を厳しい表情で見つめながら言葉を続ける。


「情けない話あいつがいなくなったのは僕はまだ認められないんだ。他のみんなが前を向いてるのに何でだと思うよ。でも、申し訳ないが僕の中では終わってないんだ。」

そして、息を切らしている真に向かっていった。


「俺は、いろいろな意味でお前が美香ちゃんと結ばれる事に納得していない。前に半端な気持ちで手を出すなら覚悟しろといったな?」

笑顔だった真の表情がこわばった。


「お前の覚悟がどんなものか、これからのお前に見せてもらうよ。」

美香ちゃん、さすが中野が選んだドレスだ良く似合ってる。真のほうを向いて槇原先生は言った。そして、式場に向かっていった。


「あの人は僕にいやみを言うために来たのか?」

真がむくれて言った。

確かに真に対する牽制もあるだろうが、この結婚を、祝福をしてくれてる槇原先生の気持ちも判った。そしてそれに気づいてるが、素直に喜べない真の気持ちをじっと見ていた。

「・・・・なんか、いいたい事有るのか?」

「・・・みんな、素直にならないとね・・・」

笑った私の頬を白い手袋を持った手でなでながら、「敵わないな・・」と小さくつぶやく。開け放たれた教会の扉の入り口から父と叔父が呼んでいた。

「始まるみたいだ。行こうか?」

入り口で叔父と父の手を取った。そして、バージンロードをゆっくりと歩き始めた。


                優ちゃん見ててね。



 翌年、双子を妊娠して、安静を余儀なくされた私は、そのまま仕事を辞めた。翌年男の子を出産した。

 その、2年後再び、妊娠今度は女の子だった。叔父は私が使っていたらしいゆりかごを出してきて大満足だった。


 

 真は相変わらずの激務だったが、救急のみに絞ってからは、少しは子供と時間が取れるようになったと喜んでいる。

 槇原先生は、相変わらずで。何時でも別れればいいと不穏な事を言って真に嫌がられているらしい。


都は、山本先生とゴールインして、子供が出来たが2年後別れてしまった。

理由は、意外な事に、山本先生の浮気だった。子供は都が引き取った。


「まあね、私も悪かったのよ。いつも彼よりも仕事優先だったし。」


 山本先生は、一度の過ちをひどく後悔しているらしく、都と復縁したがっているが、都はまったく意に介していなかった。

「そのうち、家庭的なお嫁さん見つけると思うわ。」・・・と。

彼女は職場を変わることもなく、仕事を続けている。


毎日があっという間に過ぎていく。なぜか実の父親よりも、優ちゃんの面影の濃い長男と、父親にそっくりな次男。彼らは2卵生だった。

 長女は私たちの遺伝子を半分ずつ受け継いでいた。

今私のおなかには4人目の命がある。


「あんだけの激務の中でよく子供作る暇があるな?」

4人目の妊娠時に報告を聞いた叔父は呆れながら真に言った。

「・・・10分あったら充分ですから」

しれっと返す真に叔父が真っ赤になって怒った。

「そんな独りよがりのやり方で愛を語るな!!!」

笑い転げる叔母、行き場がなく真っ赤になる私。本当に仲良しの方向性絶対間違ってるって・・・。


 みんなが寝静まったリビングで真はペーパーを読んでいた。

真に背をを向ける形で私は座って雑誌を読んでいた。ふときずくとこちらをじっと見ている彼がいた。ゆっくりと立ち上がり、こちらに体を向けてかがみこんで彼は言った。



ずっと愛しているよ・・・・・・・。



斜め35度右後方からその声はした。

私は、ゆっくりと声の方向に振り向きそちらに手を伸ばし、その人を抱きしめながら言った。


    私もだよ、ずっとそばにいてね。


            




                   あいしてる。

















 お付き合いありがとうございました。これにて終了でございます。


 こちらへの投稿はもちろん!文を書くのも初めてという、私の拙い作品にお付き合いいただいた皆様。本当にありがとうございました。


 お気づきのかたもいらっしゃるでしょうが、この話は本当は前にもう一つ話しがあって・・・そこからの続きになっております。


 そちらは、ものすご~く、暗い終わり方をするので・・・・こちらが先になってしまいました。


 もし、機会があって、覗いていただけるのなら、その内多分・・・無謀な試みに再びトライいたしますので・・・読んでやってください・・・。


 前半は、ラブラブじれじれ・ちょっとエッチ(?)になるはずです。


 本当にありがとうございました。


 皆様の、ご健康と、ご活躍をお祈りして・・・。


     清水澄 拝

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