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明日に向かって歩こう

今日中に中野と、家の実家に挨拶に行きたいと言い出す彼に、もう少し落ち着いてからでは駄目なのかと問うが譲ってくれなかった。・・家はともかく、中野の家はいきなり訪ねるのは無理がある・・・。

 「・・・私の気が変わらないかと心配なの??」

 思わず聞いてしまったその言葉に、少しはそれもあるけれど・・と正直に言われた・・。

 私が傷ついた顔をすると、いや、それだけではなくって・・・とあわてて否定して


・・・仕方なさそうに白状した。


「じつは・・・」


・・・彼の話してくれた内容に、私は呆れた!心底呆れた!本当にあいた口がふさがらなかった!!


なんと彼は、同期の友人たち、後輩、病棟医長、教授まで巻き込んで、私との仲を許してもらうための実家訪問の時間を作るために協力してもらってたと言うのだ。

 

成功した暁はむこう半年の当直交代と雑用を引き受ける約束をして・・・。


「入院患者は僕の一存では減らせないし・・・でも、状態の悪い人をもって不在でしたでは無責任だし・・・みんな事情を話したら快く協力してくれて・・・、だからこれから、当分土日は当直か日直、受け持ちも一気に増えると思うし、今日明日を逃したらいつ挨拶にいけるかわからない・・。」

だから・・と、最後は消え入るように言った彼の話を聞いて・・・呆れると言うか・・驚くと言うか・・・あいた口がふさがらない・・・今度の一件は賭けの対象にはなってない・・・よね・・?

「ほんと・・・呆れた・・・。」

でもこれだけは確認しておきたかった私は、彼に向き合って聞いてみた。

「・・で? むこう半年間は、いつ休むの?」

・・・え? とびっくりした顔で、私を見る。

「人の当直もらって、雑用増やして、受け持ち患者さん増やして・・?今でも結構ハードワークだと思うんだけれども?・・・あなたいつ休むの?」

唖然とした顔で彼が返してきた。・・・考えてなかった、と。そうか、休みがなくなるんだ・・・と、つぶやく彼の顔を見ていて、私は眩暈がした。


   本当に、この人は、かしこいんだか・・馬鹿なんだか・・・。





 2人で車で実家に向かった。

実家に行く前に、彼は優ちゃんのお墓に向かっていた。

「場所知ってたんだ。」

「彼にも断りいれないといけなかったからね。」

途中、花屋に寄った。ガーベラとかすみそう、およそ献花にふさわしくない花を彼は選んでいた。

「・・・・夏もあなただったの?」

きょとんとした顔で、私を見てる彼を見つめた・・。そうか・・それでおじさんたちは嫌がってたんだ。くすくす笑いを漏らす私を怪訝な顔で彼がみた。墓地の駐車場に着き、墓標に向かおうとする彼に私は言った。  


「お花は、部屋に持っていきたいから、ここでは出さないで。」


私の言葉に彼は残念な顔を一瞬したが、花は置いてくれた。私たちは墓標へと向かった。

「優ちゃん、美香の残りの人生を真一君と一緒に歩きたいと思うの。良いかな?」

 私は、それを言った後暫く、周りの葉音に耳を澄ませた。周りの音に耳を澄ませば優ちゃんが、良かったね・・ていってくれたように聞こえる。続けて私は言った。

「でもね、お墓はここに入るから安心してね。」そしていたずらっぽく笑った。

そんな話は聞いてないと彼が私の横で怒っていた。

「だって、生きてる間は私を独り占めするんだから良いじゃない?」

笑う私に、じゃあ俺もここに入ると訳の判らないことを言い出す。

「ここのお墓の横を予約したら?」という私の冗談に、事務所は何処だろうと真剣な顔をして彼が言う。本当に馬鹿じゃないだろうかと、もう一度笑ってしまった。


 夜、叔父さんのところで彼は散々飲まされた。今までは泊りじゃなかったから電車で来ていたらしい。明日彼は運転できるんだろうか?


「真一君寝てしまったか?母さん、優の部屋用意は出来ているか?」


優ちゃんの友人が来ても、客室に寝てもらってたのに・・・。びっくりしている私を見ながら叔父さんは笑った。

「美香ちゃんが前に進んだのに、僕たちだけ足踏みしててもな?」

それに、・・と続けた

「美香ちゃんが選んだだけあってこいつのしつこさと、馬鹿さ加減は、優に似てるぞ?」

・・・・?ものすごく不思議そうな顔になったと思う。そんな私を見て叔父さんは、

「美香ちゃんは知らないと思うけれど優が美香ちゃんを好きになったのは、美香ちゃんが4歳の夏祭りで迷子になったとき、心細かったろうに自分のことは置いといて、まず優の心配をしたことがきっかけらしいんだ。」

・・・・?

「あのころあいつは自分中心に地球を回してたからな?たった4つの子供の掛け値なしの思いやりに射抜かれたらしいよ。それから、成長してもそんな部分は変らない美香にどんどん惹かれたらしい。

それでな、君が中学のときに僕らを言いくるめたって訳さ。僕たちはあいつの気持ちが揺るがないのはわかっていたが美香ちゃんがまだ若いから心配だったんだ。でも君も知ってるように外堀を固めてまんまと僕たちを言いくるめて君をものにしたよね。

 誤算は、事故にあったことだよね。それがなかったら僕は今頃君と優に似た可愛い孫を抱いていたよ。でもそれもこいつがかなえてくれるのかな?」

叔父さんは、一息ついて自分に言い聞かせるように、言葉を続けた。

 「もう、優は居ない。僕の中にそのことに対する葛藤がないとはいえないし、これからもなくならないと思う。そこで立ち止まっても優はもう帰ってこないんだ。優の時間は止まってるけれど僕らの時間は動いている。今ある事実を受け入れる事が大事なんだろうな・・・。いろんな事実・・・みんな受け止めて前に進む努力をするよ。ありがとう美香。」


よいしょと彼を抱えて、2階に上ってく叔父さんをぼっと見ていた。


 自宅に帰り、リビングでお茶を飲んでいたら、父が来た。

「明日は彼は、うちに来るのか?」

そういえば、声をかけたのにどうして叔父さんとこにこなかったんだろう?怪訝な顔をしてると、父が笑った。

「お前は確かにうちの娘だが今回のことで取り残された気になるのは、貴裕だからな。志半ばで、自分より先に子供に死なれるのはつらかったと思うよ。俺たち以上につらかったと思うのに、あいつらはお前のことをいつもまず考えてくれた。お前が今度結婚するならまずあいつらに許可をもらうべきだと、ずっとおもっていた。だから今回はあちらがメインだ。・・後日、日置君とはゆっくり話させてもらうよ。」

 早く寝なさい、そういって父は自室に入っていった。


・・・・・・・・ありがとう。ゴメンナサイ・・・・・・・。


 あさ、叔父さん宅を訪ねて、朝ごはんの準備を手伝った。9時過ぎになっても彼が起きてこないので、起こしに言ったが・・・他人の家で爆睡中だった。

 たたき起こそうかと、そっと寝顔を伺う。疲れてるんだろうなと思い、部屋を出るためにきびすを返すと、いきなり腕をつかまれ、引き寄せられてベッドに倒れこんだ。

「!!!!!ななにするの!!」

私の唇に、キスを落としながら、彼は言った。

「おはよう、やっと捕まえた。」彼の腕に力が入って、抱きしめられる。

「・・・寝ぼけてるの・・・?」

首を振って彼が続ける。

「・・・いや、幸せを、抱きしめてる。」

その時、おじさんがいきなり入って来た。

「美香ちゃん、別に無理に起こさなくても!!!!ごめん!!すまない!!」

私たちはあわてて離れたが、間に合わなかった・・・・。


気まずい思いを抱えながら、階下のキッチンへ降りた。

「・・・・すみません。朝から不埒なまねをいたしまして・・・。」

奴が、真っ赤な顔でうつむきながら言った。

 新聞を読んでいたおじさんがこらえられなくなったように、爆笑した。

「優は!!ノックしてから入れって、良く怒ってたよ。でも僕は無視してたけれどもね。あんなシーンは昔は良く見たもんだ。久々に見れて楽しかったよ。」

 叔母が、

「ことには及んでなかったんでしょう?いいじゃない服着てたなら。優なんか、自分は半裸で、美香ちゃん脱がそうとしてた現場押さえられてたわよ」

と・・・追い討ちをかける。

「・・・・・それは僕は、なんとお答えすればいいんでしょうか・・・?」

まじめな顔で、返す彼を見て、叔父さんはますますつぼにはまったらしく、笑い転げていた。

「・・・・まあ、とりあえず、ご飯食べたら?」私は、一応助け舟を出した。憮然としながら奴は食事を始めた。ごめんね、ああいう人たちなのよ・・・。これからいやって言うほど判ると思うけれど・・・・。


  朝食後、隣の我が家に彼と向かった。両親に結婚の挨拶をするためだったが、父の表情はすぐれなかった。

「・・・娘をあんな目に合わせた君に預けるのは、実はまだ抵抗がある・・・。」

母が、仕方ないな・・・。と云う目で父を見ている。彼は下を向いて、黙って聞いていた。

 父は暫くうなだれている彼を見ていたが、母に促されてしぶしぶといった感じで言葉を続けた。


 「君のご両親が先日僕達のところに来てくださった。」

「・・・・え?」

「成人した、しかも命を預かる職業についている息子が命を軽んじる不祥事を起こして申し訳ない。・・・と、しかもそんな男にお嬢さんを任せるのはいやだと思うが、どうか許して欲しいと。御2人に玄関口で土下座をされてね・・・。」「・・・・・・・・」

彼は、驚いた様子で目を見開き、じっと父の言葉を待っているようだった。


 「本当に覚悟があるのか?」


黙って同じ様子で、父の顔をじっと見ていた。



「もう判ったと思うが思うが、美香も、私たちも優貴くんを忘れることは出来ない。それでも本当にいいのか?」

彼は、最初に父と向き合ったときと同じ表情で父を見て、ゆっくりと父に言った。


「中野先生がこの世に生きていたと言う事実は僕が否定出来ることではありません。そして、美香が彼を愛して一緒に歩いてきた日々も同様で、僕に否定できる事ではありません。僕に出来るのは、僕はその事実を持って美香とこれからどう生きていくか考えていく事だと思ってます。」


 父は、彼を見つめ・・・あきらめたように言った。

「・・・言うだけでなく、実践してくれ。・・美香の泣き顔はもう見たくない・・・。」


 父の顔を見ながら、彼は・・すみません・・・と、謝っていた。


 そんな彼の様子を見ながら父は続けた。


「それと・・・・。」

「隣で、不埒なまねをするのはほどほどにしたほうがいいぞ?あそこには何処に監視カメラが隠されてるか判らないからな?」

にやりと笑って言う。

怪訝な顔をしている彼に私は小さい声で言った。

「嘘だから、気にしなくていいから・・・。」

父は、そのささやきを聞いて、にやりと笑いながら言う。

「嘘だと思うか?美香、お前と優希のお宝映像が隣にドンだけあると思うんだ?婚約前の優希が帰省したときの映像なんか面白いぞ、お前に手を出そうとした優希が、お前にけられているシーンとかまであるぞ?」

私は立ち上がって思わず叫んだ!!

「何でそんなのがあるの!!!」

「だって、あのころ優希はお前を手に入れるのに必死で手段を選んでなかったから、貴裕がお前のこと心配し優希を脅して押さえるネタに使ってたんだ。」

 あきれた、本当にあきれた・・・。

 父がうつむいて溜息混じりに言った。

「・・・結婚式に、編集して流そうと思ったんだけれどもな? 今度貴裕に処分するように言っておくよ。」

 「・・・・美香?処分せずにおいといてもらったら?もちろん僕は見たくないけれど・・・。」

 「・・・いいの?」

 「それを見て、美香が泣かないって約束できるのなら。・・・まあ、泣いても慰めて、ベッドに連れ込むネタに出来そうだから、良いけれどもね?」

その台詞に私は、真っ赤になりながら、答えた。

「それってこの場で、ここで言う台詞・・・?」

「・・・・なんで、駄目なの?」

ニヤニヤ笑いながら彼は続けた。私はそれを唖然と聞いていた。父は笑いながら、言った。

「なるほど、貴裕が優希と似てるって言うはずだ。」

「どういう意味ですか?」「どういう意味?」私たちは同時に叫んだ。

「幸せになってくれよ。真一君娘を頼んだよ。」

 家をでて、両親の許可をもらった私たちはその足で市役所へ向かった。もちろん婚姻届を出すために・・・・。

 

 届けを出した後、彼のマンションで抱きしめられながら囁かれた。

 「奥さん、ずっとよろしく。」


     こちらこそ、ずっといっしょにいてね。


翌日都に事の顛末を報告した。彼女は呆れたように聞いていたが、そのうち泣き出した。やっと優兄ちゃんが天国にいけると・・・。


・・・そうかもしれない・・・。



全て美香視点に、書き直しました。読みずらくてすみませんでした。

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