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亡霊の後姿

 久しぶりにはいる彼のマンションは、あのころのまま変わりがなかった。

お気に入りのクッションも定位置にあった。

「好きなとこに座って?」・・・と彼に言われる前にクッションを独り占めにする。

それを見て笑いながら彼はキッチンへと消えていった。

しばらくして、スパイスの香りのするチャイが出てきた。

「・・う~~ん相変わらず美味しい!専門店の味ね。」

それから、二人で夜遅くまでずっと喋っていた。彼は向かいでずっと私の話を聞いてくれた。




 美香が楽しそうに喋るのをずっと聞いていた。そのうち、仕事の疲れからいつの間にか、うとうとしていた。目が覚めたら横で美香が寝ていた。眠ってしまった美香の寝顔をしばらく見ていた。しばらくは我慢していたが、後ろから抱きしめる形で美香を腕の中にいれてみた。

 夢心地のなか、美香は抵抗せず、俺は調子に乗って。抱きしめる手を強め美香の柔らかさを堪能した。


どのくらい時間がたったのだろうか?いつの間にか僕もうとうとしていた。

ふときずくと、美香がぼんやりとした目で僕を見ているのが見えた。

 俺も寝ぼけていたのと、美香を腕の中に抱いている気安さからか、ついそのままの体制でライバルの話を聞いみた。

 「中野先生ってすごい人だったみたいだな?」

「・・・・」美香は半分寝ながら聞いていた。

「頭が切れるし、人当たりはいいし、判断は速いし、冷静沈着で、あだ名が”王子”だってな?」

「・・・それ誰のこと?」

ものすごく怪訝な顔をして、美香が俺の顔を見る、少し目が覚めたようだ・・・でも僕の腕の中から逃げようとはしない、僕は気づかれないようにそっと抱きしめなおす。

「・・・?え?お前の、婚約者・・・?」

「私が知ってる優ちゃんは、俺様で、暴君で、人当たりは一見いいけれど、めちゃくちゃ人の顔色見て対応するのがうまいからそう見えるだけで、お腹の中は真っ黒で裏表ものすごいし、すき見れば触ってくるエロエロ魔人で・・・・。」

「・・・・?それ誰のこと?」

僕は思わず怪訝な顔になる。

すると美香が、こちらに向き直って、真っ赤になって答えた。

「だから優ちゃん!!!だってキスは挨拶がわりだし、油断するとすぐ服を脱がそうとするし、服のすそから手を入れるなんて日常茶飯事だし。」

美香の剣幕に、おもわず引き気味になりながら・・でも、たずねてみた。

「・・・・ものすごく、ストイックで、紳士だったって。」

「それ誰情報?」

「ICUの師長。」

ああ、と美香がしたり顔で言った。

「だって、優ちゃんどう見たってここでは猫かぶってたもの?ここの学園祭に来たときに、別人みたいに振舞うから、美香ぞっとしたもの。」

容赦無く彼女は続けた。

「家の中では傍若無人に振舞うくせに、ここの看護師さんには笑顔を振りまいてるし、優しい口調だし。優ちゃんって、興味ない人には本心ゼッタイ出さないから、ただのやさしい、良い人に見えるのよね。」

お前、それ恋人の話題だよな?嫌いだった奴の思い出じゃないよな?俺の心の声をまったく無視して、エキサイトしている美香は言葉を続ける。


「だってね、優ちゃんが高校生のときに毎月手紙くれる人がいたんだけれども。」

黙って聞くことしか出来ない。

「優ちゃん読みもしないで、ゴミ箱入れるんだよ!あんまりだと思って、美香が宛名見たら毎月見る名前で、優ちゃんにそういったら、名前なんて見たことが無いしわからないし、興味ないってばっさり。」

「・・・・。」

「あんまり腹立ったし、しばらく口利かなかったらお断りの手紙やっと書いてくれて。それでも手紙が減らないからって、その年の文化祭によばれて行ったら公衆の面前で、美香にキスして、”僕のすきなのはこいつだけだって”宣言するんだものむちゃくちゃよ」

「お前そん時いくつよ?」

「6歳、優ちゃんは高3」

「・・・・・・・」

「それで、ロリコンってうわさが立って手紙が来なくなったの。そんなことに美香を使うなんて、あんまりじゃない!!!」

それは本当に、お前を利用したんだろうか?

「だって、みかそのころキスって、家族みんなとしてたし。たいしたことじゃないって思ってたんだもの。」

「・・・・・・・。」

「それに、口癖は美香のバージンは僕のものだ。だったし・・・?」

「なんだそりゃ。」

「中学2年のときにプロポーズされてそれからずっとそれが口癖。部屋に遊びに行ったら何度襲われたか。」

「・・・・・・。」

・・・・・・・なんか、俺の聞いてた中野先生像がどんどんと崩れていく・・・・・・。

「お化け屋敷は嫌いだし。」

「それは俺もだ。」

「ホラー映画は怖がるし。」

「俺も怖い。」

「ゴキブリは平気だけれども、蜘蛛は駄目。」

「・・・・・・・。」

「こんにゃくと、しいたけが嫌いで、でも私が作ったものは残さずに食べてくれた。」



猫が好きで、犬は苦手。人の好き嫌いがはっきりしてて、嫌いな人には見向きもしない。

おまけに、人を見て対応するからとってもいい人に思われるけれど、実は裏表はあるし、腹黒いし・・・。


         ・・・・でも、私は、甘やかしてくれた・・・。

             ・・・・・・・すっごく、好きだったな・・


「でもね、優ちゃんにひどいことしたの。」

俺の胸に頭をもたれさせてる美香のかみをゆっくりとなでた・・・。

「事故の後先生が、救命は無理、覚悟してくださいって言う言葉が信じられなかった。だって、昨日までわたしに意地悪ばっかり言ってたんだよ?急に居なくなるって言われても信じられなかった・・・・。優ちゃんは、しんどかったろうに、私のわがままで無理やりそのしんどい時間を引き延ばしたの。」

俺の服をつかむ手に力がはいる。

「私は、ただ、優ちゃんに生きていて欲しかっただけなのに、あんな姿になるなんて知らなかった!!今だったら、あんな馬鹿なことは頼まないのに!!!!」


「それで、今度は延命希望しなかったことを悔やむのか・・?」


美香が俺の手の中で身を固めた・・・。

「その時は、それが最善の方法だと思って頼んだんだろう?」

でも、あんなに膨らんで面影もなくなって・・・。美香は下を向いたままかすれた声で言った。


「でも、中野先生は、そんな姿になっても、お前の傍に居たかったんだよ。」


俺の言葉に、美香が息を潜めたのが判った、言葉を続けた。

「お前も感じたことないか?この人はどうして生きているんだろうか?何で生きられるんだろうか?不思議な人たちに臨床現場で遭遇しないか?」

「あれは、医療の賜物か?違うだろう?医学の及ばない部分での不思議な力だと思わないか?」

「神様がかかわっているのか、人間の計り知れない力なのかわからないけれど、中野先生は、お前と少しでも長く居たかったんだとおもうよ?そしてお前のつらそうな姿を見て、引き際だと思ったのが、あのときだったんじゃないのかな?」


・・・・・・自分の体がどうなっても、お前の傍に居たかったんだよ・・・。


「優ちゃんも私と同じ気持ちだったの?」

「でなけりゃ、脳死で3週間も引っ張れるか?」

美香はじっと俺の顔を見た。そして俺の胸に顔をうずめると泣きながら、大好きだったの、ずっと傍に居て欲しかったの、ほんとに大好きだったの・・・。同じことを繰り返しながら泣いていた・・・。俺はずっと、髪をなでながら、知ってるよ、悔しかったね・・・。と繰り返し言っていた。


 そのまま、二人で寝てしまった。


   夜中に目が覚めてベッドに美香を運びその隣で少しだけねた。






お読みいただきありがとうございます。

もうすぐ、終了の予定です。初めての投稿なのでどきどきものでしたが。どうやら終わりも見えて来て、無事に終える事が出来そうでございます。

 此処までこれたのは一重にこの拙い物語を読んでくださっている皆様のおかげです。

 毎日、PV、ユニーク、お気に入り登録件数を見ながらそれを励みとさせていただいております。本当にありがとうございます。

 もし宜しければ、終了までご覧になっていただけるととても嬉しいです。


 清水澄 拝

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