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12/22

亡霊の後姿と 遺されたもの

 とても長いです。切りどころが判りませんでした。すみません。

美香が帰って来る日、部屋で待っているのがいやで、院内で夜を明かした。

 翌日、マンションに帰ると美香が来ていた。お土産あるよ。・・・とまぶしい笑顔で、迎えてくれた。何事もなかったように・・・。

「・・・・・きてたんだ。」

ご飯にする?お風呂沸いてるよ?とこだわりのなかったころのように声がかかる。

「・・・・話がある、座って聞いて。」

声が硬くなるのが分かる、でも今言わないと、このまま一緒にすごしたらもういえなくなってしまう自分が分かっていた。



       ・・・・・しいぞうがいたい・・・・・



なに?と心配そうな顔で聞かれた。

「・・・・鍵、返して欲しいんだ。」

「・・・え?」

びっくりとしためがこちらを覗き込む。それは、別れたいってこと?彼女のかすれた声が耳に響いた・・・。


       ・・・・・・いきがくるしい・・・・・・。



「亡霊とは、もうはりあえない・・・・。」



彼女はうつむいたままだ。


「いつかは手にはいると思って、6年ずっと追いかけてきた・・・。やっと半年前に手にはいったとおもったのに心はそこになかったんだ・・・こんなことならただ見つめていただけのほうがまだましだった、苦しくてたまらない、もう疲れたよ。」


「・・・・・。」


「どれだけがんばっても俺は一番にはなれない。大きな壁が邪魔して君に触れている実感がないんだ。もう俺には無理だ」


「いま、好きなのはあなただけよ・・・。」


俺は首を振った、


「生きてる人間のなかで・・・?  君の中の亡霊と張り合っても勝ち目がないだろう?・・おれは、君の中で永遠に一番ではないだろう? いつまで僕は彼の後姿を気にしないといけないんだ? ・・・それが俺にはもう耐えられないんだ。」


  私の中から優ちゃんの記憶は消せないわ・・・。と彼女ははいった。それは無理・・・と。

 

  俺は、平行線だな、と言った。



 彼女が亡霊を優先させる限り僕はどうあがいても一番にはなれない。亡霊と張り合うなんて分が悪すぎる。


いつの間にか、ひざを抱えて俺は円くなっていた。・・・。


「たのむ・・・、早く出て行ってくれ。」


「・・・・今までごめんね、・・・ありがとう、さようなら。」


ドアの音が聞こえた、あいつが出て行った音だ。顔を上げられずにどのくらい過ぎただろう・・・。







   テーブルの上に、鍵を置いてへやをでた。

  部屋を出る前に、いつの間にかひざを抱えて、円くなっている彼を見ていた。ああいつか見た光景  だ。あの時は、私が抱きしめて暖めてあげたのに・・・・。もう彼はそれを望んでいない。


    きっと誰か他の人に暖めてもらうのだろう・・・・。

 

 彼が、私の中の優ちゃんの記憶を否定する限り、彼とは一緒にいられない。仕方ないことなんだろう。でも、


    イキガデキナイ・・・・。シンゾウガイタイ・・・。





 あの出来事から、数日がたった。私の感情とは関係なく、何事もなかったように日々は過ぎていった。都にはちゃんと話し合ったらと言われて何度かメールしようと思ったが、何をどう伝えればいいのかわからない。優ちゃんとの思い出はなくならないし、それが邪魔であるといわれれば、きっと終わりにするしかないのだろうとやっぱり思う。



つらくても、足元が崩れるような思いをしても、仕事はしないといけない。

 夜勤中にナースコールがなった。ちいちゃんだ。


「・・・・くるしい・・・しんどい・・・、」

訪床すると小さな声で訴える。最近はADLも下がり、ベッド上の生活になっていた。

血圧はやや低く、脈が弱くて遅い、血中酸素飽和度も低い。ルーティーン指示の酸素を投与し12ECGをっとて当直医をコールした。

「う~~ん、どこといってどうとは・・・。年だし、びょうきがびょうきだしなぁ・・・。貧血が進んでるし、しんどいのはそのせいどろうし・・・・。」

歯切れが悪い・・・、時計を見ると23時、主治医を呼ぶか?

一応、主治医に報告します。と、当直医に断り主治医に電話をした。5コールで奴が出て、返事をした耳元で聞こえる久しぶりの声・・・。

「西5病棟の看護師の中野です。」

「・・・・・・何か?」

「江端さんが、全身倦怠感を訴えられて・・・・・」

状況報告をつづける。後ろで、日置先生どうされたんですか?という女性の声が聞こえる・・・?電話の向こうで、患者の状態が変わったので今から顔を出します夕食御馳走様でした、と言う声が聞こえる・・・・。夕食?・・・。

「今出先で一時間かかる。当直の先生と代わってくれますか?」

当直医にその旨を伝え電話を代わる。一時間?彼のマンションはここから車で10分・・・どこにいるんだろう?


電話を切った当直医が、私の名前を呼んでるのにきずかなかった。われに返り顔を上げる。

「一時間で来るって言ってるし、今までの指示どうりで。維持液でルートとってキープで流して」

「分かりました」

おかしくなったら何時でも読んでくださいね・・・・と当直医は出て行った。

ちいちゃんの部屋を、詰所の横の処置室に移す。部屋を移動するならしょうとう台の缶も持って行くと言う。指示どうり四角い缶を乗せて。ベッドを移動する。

消灯後なので、仕事は記録の整理のみだ。ちいちゃんのベッドサイドに座って、手を握った。

「しんどいとこさすろうか?」

「いらない、こうやっていてくれるだけでいい、仕事はええんか?」

あと記録だけだし大丈夫。って言うとにっこり笑う。

「真一さんとけんかしたんか?」

あいまいに返事をした。

「アノ人は、頑固ものだしな、わがままだし独占欲も強いし、彼女になったら苦労するだろうな?」

そうなの?とびっくりしてみる。

そりゃあんた、見てれば分かるよ・・伊達に年はとってない・・・。とにっこり笑い、

「でも純粋で、一所懸命だ、だから融通が利かない。いろんなことを抱え込んで自分で処理しようとしてパンクする。」

目を見開いて見ている私に、ちいちゃんがウインクする。

「だからあんたみたいに、三本ぐらい線が切れて抜けてるのが、良いんだ。」


・・・・それほめてますか?ちいちゃん。


「お似合いだと思うよ、手を離しちゃイカンよ?」

仕方ないし譲ったあげよう・・・と笑いながら続けた。


・・・デモ、モウオシマイニシタンデス。・・・・


うつむいている私のほほに手を当ててちいちゃんは続けていった。

「あんたは、幸せにならないといけないよ。でないと、あんたを置いていった人は天国でゆっくり出来ない、わたしも、あんたには幸せになって欲しい。」

 そして静かに涙を流し、ごめんねといった。

ごめんね?謝られることなんてされてない。何のことだろうと怪訝な顔をしている私に、もう大丈夫だから、仕事をしてきて私は少し寝るといって目を閉じた。

主治医であるあいつが来た。ちいちゃんのベッドサイドに行き少し話をする。そして、相談室で家族と話し合っていた。詰所に帰ってきて、カルテに指示を記入した。


”DNAR”


「・・・・え?」

「・・・本人家族の希望。今回入院のときに言われた。今もう一度確認したけれど、同じ答え。点滴抜いて、モニターはずして。」

「・・・出来ません。」

「じゃあ、自分でするからいい。」

椅子から立ち上がり、ちいちゃんのベッドサイドに行こうとする、彼の腕をつかむ。

「何でそんな事言うの?まだ生きられる。」

「・・・・その感情は、山下さんの息子の思いとどうちがうの?それとも看護師の君に江端さんの病状説明をして、人間の寿命について、考えてもらわないといけないの?」

そんなひどいこと言わないで!!だって、ちいちゃんは、私が就職したときからずっと入退院を繰り返して・・・・、私にとって一番印象深くって、一番大切な人なのに・・・。自分の心の声を省みて愕然とする。本当に、私は、誰のためにちいちゃんの延命を望んでいるのだろうか。私が寂しいからちいちゃんに生きて欲しいんだろうか・・・・。そんな、私の顔を見て彼は続けた。


「人間の生死は神様が決めるものだ。僕らが操作できるものではない。人生の引き際を決めるのは、本人の意思だ。周りの思惑で振り回すものでもない。」


ゆっくりと彼の言葉を噛締める。そうだ、その言葉を12年前に誰かに言って欲しかった。

ちいちゃんの方へ歩こうとしている奴を引き止めた。

「私が行きます。」ちいちゃんのベッドサイドへ向かった。



小さく、苦しそうな息をしている。私の泣きそうになってる表情に気づき ちいちゃんは少し笑って言った。


「人間引き際が肝心。あんたの幸せな姿を見るまでは、とおもとったけれども、もう限界だ。真一さんというパートナーを譲ったし、そろそろ退散させてもらえるか?」


涙が出る、

「・・・・誰もが行く道だ、泣くことではないよ?・・・必ず幸せになってね。」

答えられず、点滴と、モニターをはずしたあと、家族に一礼をして部屋を出た。



その日の明け方、家族に見守られてちいちゃんは息を引き取った。



お体を拭いて、寝台車の到着を待った。寝台車の職員に連れられていくちいちゃんを病院出口までお見送りするためにエレベーターで一緒に降りる。

 寝台車の前にいる男の人が私の顔を見て涙を流しながら、深くお辞儀をしてきた。

・・・・?ちいちゃんのお孫さん?どこかで見た顔だ・・・ずっと昔・・・


・・・・シンゾウガイタイ・・・ヤナオモイデガヨミガエル・・・・


その男の人は、私が近づくといった。

「お久しぶりです。祖母がお世話になりました、」

そして・・・と続ける。

「本当に申し訳ございませんでした。」

びっくりして、ちいちゃんの息子さんとお嫁さんを振り返る。

「黙っていて申し訳ございませんでした。」

・・・・・・・・オモイダシタクナイ・・・デモワスレラレナイ・・・・

優ちゃんの、お墓でゴメンナサイとずっと謝っていた、アノ子だ。

私はうつむいたまま言葉を搾り出す。声がかすれた。

「・・・・・いつ気づかれたんですか?」

「私たちの参列はお断りされたので、告別式に祖母がこっそり、参列させていただいてました。そのときお顔を覚えていたようです、自分が通っている病院に中野さんが就職されたときには、非常に驚いていました。偶然ってあるんですね。」


・・・・・キキタクナイ・・・・・・


「自分の侵した罪を考えると、謝って許されることではないと思います。でも、もう一度きちんと謝りたかった。祖母には、あなたに知れたら自分が病院に通えなくなる、あなたを見守れなくなるから、来るなと言われてました。」

青年が土下座した、

「本当に申し訳ございませんでした。」

頭を地面につけている人をぼっと見る。ご両親も頭を下げていた・・・。

12年もたっているのに、まだ終わってない・・。

「お酒・・・お好きですか?」

あれから飲んでません、と声がした・・・。

「許す、とはいえません。」

きっぱりとした口調で、目の前の彼を見据えて私は答えた。

「でも、私も同罪なんですよ?」

びっくりとして、顔を上げる彼に焦点が合わない視線を向ける。

「あの時、優希さんはメールを打ってたんですよ。」

私は、私が一番忘れたかった事実を話すために、言葉を続ける。

「けんか別れして、すねてる奥さんのご機嫌を取るために・・・・。だからあなたの車に気づくのが遅れたんです。」

・・・え?・・・と言う声が聞こえる。

「遺品の、携帯電話が打ちかけのメール画面でした。」

忘れられないあのメールの内容。


”美香まだ怒ってるの?いい加減機嫌直して?愛し”


「だからあなたは悪くないんです。あなたが悪いとすれば、飲酒運転をして、事故を起こした事実だけです」

淡々と続けた。二度としないでください・・・と

「江端さんには、入職してからたくさんのことを教えていただき、とても感謝しております。ご冥福をお祈りしています。」

静かに頭を下げる。彼らはそれ以上何も言わずうなだれていた。



寝台車が校外を出て見えなくなるまで見送った。ゆっくりと振り返り、ドアを開けようとするが力がはいらない。ああ・・・・、だからごめんね、なんだ・・・・、幸せになって欲しいなんだ・・・。

その場に座り込んだ、涙が出てきた・・。

「・・・美香・・・。」

彼の手が私の肩にかかる・・。

「触らないで!!!」思わず声を上げた。

「触って欲しくない!!!! ほんとは、あいつが死ねばよかったのよ、優ちゃんにぶつかる前に、木にでも激突すればよかったんだわ。そしたら、優ちゃんは今も美香の横にいてくれたのよ!! ずっとそばにいられたのに!!美香をおいて優ちゃんは死んじゃったのに、 何で優ちゃんを殺したあいつがここにいるの!!!」

息を潜めて聞いている気配がした。

「・・・違う、責任転嫁だわ、美香が悪いの。旅行に行こうって言われたのに断らなければよかったのよ。喧嘩なんかしなければ、メールを私に打つこともなかったのに、そしたら、車をよけられたの!!。」


・・・・ソウダ、ワタシガコロシタンダ・・・・・


「・・・・・一人にして、あなたじゃないの、あなたじゃ駄目なの。」

わかった、とつぶやいて離れていく気配がした・・・・。



病棟に戻った私の顔を見て、日勤の都が苦笑いした。・・・あんた、患者さんにいちいち感情移入していたら、仕事にならないわよ・・・。と

 わたしは、そうね・・・と答えた。向かいで、あいつは黙って聞いていた。


いまは、ちいちゃんのご冥福を祈ろう。



 生理がこない。今までも夜勤のストレスから、遅れることはたびたびあったが3週間も遅れるのは珍しい。・・・・まさか・・・?いやな予感が頭をよぎる。

 避妊、彼はしてくれなかった。出来たら生めば良いから・・・・と、私の話を聞いてくれなかった。いまさらながらに自分の体の管理を人任せにしていたことを後悔する。


検査薬を買って、確認した。


・・・・・・ヨウセイダ・・・ドウシヨウ・・・・・・

彼にだけは、知られたくない。きっと責任を取ると言うに決まっている。義務感で結婚して欲しくない。それに、優ちゃんとの思い出を否定する人と結婚できない。

どうすればいいんだろう、多分今3ヶ月か4ヶ月目にはいったところか?何ヶ月までごまかせるか?今やめたいといったらやめられるか??

答えは見えない、ぐるぐると同じ考えが、頭をまわっていた。




ADL  日常生活動作、食べる、洋服を着る、移動する・・など、自分のことがどのくらい一人で出来るかという事です。


”DNAR”Do Not Attempt Resuscitation(蘇生を試みないでください)医療者(医師)側の指示



患者さんからの意思表示を表すものには、リビング・ウィルがあります。


医療者、患者側双方の、意見、意思、患者のさんの病気の状態で話し合って決められます。


もちろん治療可能な方には適応されません。


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