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亡霊の後姿

彼は、年末年始奴、殆んど休みをとらずに働いていた。急変対応、病棟の当直、内科外来当直をこなし、ERの当直を押し付けられて、、殆んどマンションには帰れず病院に寝泊りしているようだった。

 今までは、逢えなくても気になってマンションに通い食料を補充していたが、あのクリスマスの事件以来、私の足は遠のいていた。このままじゃいけないと思いつつも、答えを用意出来ないままで逢うのが怖かった。



 昼休憩を取ってると彼からメールが来た、今日は早く帰れるので、逢えないか・・・と。

マンションで待っているとメールを返した。




「久しぶり。」

リビングでいきなり抱きしめられた。

「ああ、美香のにおいだ・・・。逢いたかった・・・。」

抱きしめてきた彼の吐息が、肩と首にかかった。

「3週間ぶりだっけ?そういえば、クリスマスにプレゼント渡してから逢ってないね。」

そういえば、私はプレゼントも渡してない・・・・・。

いつも、食事をつくってもらってるからいいよという彼の笑顔に、それも最近していなかった私は下を向いてしまった。そんな私を見て。

「げんきだった?・・・・・って職場で顔をあわせてるし知ってるよね。」

一人でぼけて、会話の糸口をさがしていた。


・・・・ケジメヲツケナイトイケナイ・・・・・。


言葉少ない夕食が終わり、彼が口を開いた。

「明日から実家に帰るんだろう?休みが取れたから、俺も一緒に行くわ。」

「・・・え?」

「休みとったんだ・・・俺も3連休、ついでに温泉に寄ってゆっくりする?それともどこか行きたい所ある?」

リクエストに答えるよ?と笑いながらこちらを覗きこんでいる。

「・・・・だめ・・・。」

「・・・・え?」

「・・・・・駄目。」

なんで?と私を見る。・・・・・シセンガ、ツキササル。・・・・・

「・・・一緒に来て欲しくない。・・・・・まだ会って欲しくない。」

視線をそらし、黙り込んでいる私になんで?・・・と聞く。

答えられない、私の気持ちをなんて伝えればいいんだろう・・。

「あなたの事は好きよ。大事にしたいと思ってる。でも私には忘れられない人がいる。」

彼が、言葉をつなげる。

「別に忘れなくても良いよ・・。」

私は彼を見据えて言った、

「優ちゃんのことを私が思い出してるときに、あなたがどんな顔をしてるか知ってる?」

答えられずに黙って、彼はでていった。



2時の巡視を終え都が詰所に入ると、明日から3連休で彼女と旅行に行くはずの彼が電子カルテの画面をにらみつけていた。

「何やっての?明日早いんじゃないの?」

「・・・・・・」

「美香の家に挨拶にいくって言っていたじゃないの?」

「そのつもりだってけれど、・・・・断られた。」

何言ってんだろう・・・あの年末大売出しは・・・。それで、部屋にいられないから職場に来るなんて、あんたの行動範囲ってどうなのよ?と都はいった。

「・・・あんたもね、こんなところでへたれてる場合じゃないでしょう!?追いかけて、押しかけて、宣言すればいいのよ!!お前は俺のもんだって。!」

「うるさい!それで手にはいるなら、とっくにしている!」

見たこともない彼の剣幕に都がひるんだ。

「6年待った、ずっと見てきた。やっと手にはいったと思ったのに心が見えないんだ!!」

巡視から戻ったほかの看護師が遠巻きに眺めている、ここは職場だ、こんな話をする場所ではない、しまった。

「寝てきたら?ずっと寝てないんでしょう?」

・・・・すまない、大きな声を上げて・・・。他の看護師にも聞こえるように言って彼は出て行った。




その後彼を、院内で見かけることはなかった。



   院内の仮眠室で夜を過ごし、朝マンションに彼は帰った。

   やっぱり一緒に帰ろうか、とはにかむ恋人の姿に少し期待しながら・・・。

 でも彼を待っていたのは”ごめん”とかかれた1枚の書き置きだけだった。


「・・けじめ・・・・か。」

都から聞いたあいつの言葉。あいつははどうして、頑なに一緒になることを拒むんだろう・・・・。婚約者がいたぐらいだ、別に結婚しないことにこだわっているわけでは無いだろう。

「むりさせてるのか・・・な?」

無理やり身体を奪って、彼女の優しさに付け込んで、その後ずるずる関係を強要している自分がいるのかもしれない。自分のわがままをこれ以上あいつに押し付ける前に、けじめをつけるのは俺のほうかも知れない。


「・・・けじめ、つけられるかな?」


美香のお気に入りのクッションにもたれて、美香のにおいを探している、情けない自分をわらっていた・・・。




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