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YUMA(ゆーま)を目指して  作者: 沙φ亜竜
第2話 始めっ! スカウト実習
9/36

-3-

 ひとしきり庭での飛行訓練を続けたあと、わたしたちは実践的な訓練へと移ることになった。

 実際に手紙を届ける、配達員としての仕事のお手伝いだ。


 郵便局は各地の居住地域ごとに存在していて、配達する範囲はその地域だけとなっている。

 地域内の多くの場所に郵便ポストが設置してあり、そこから回収された手紙が郵便局へと集まってくることになる。


 郵便物回収の仕事は、ホウキに乗った郵便配達員ではなく、魔法の車を使う職員さんによって行われる。

 地域内の郵便ポスト全部を巡って回収するため、ホウキでは運びきれないということで、現在は車が使われているらしい。

 魔法の車を運転するのにも魔力と免許が必要だから、専門の職員さんが存在している。

 郵便物は、集められた郵便局から送り先となる別の郵便局へと送られるのだけど、それも魔法の車を使う職員達の仕事となる。


 一方、手紙などの配達に関しては、空中住宅も含めて入り組んだ場所なんかに届ける場合もあること関係上、車ではなく小回りの利くホウキが使われている。

 それが、わたしたちの憧れている、郵便配達員さんの仕事だ。


 ……撫子さんが推していたわけだし、「郵魔」って呼んだほうがいいのかな……。

 あまり浸透していない呼び名だから、いまいちピンと来ないけど……。


 ともかく、そんなわけでわたしたちは、桜華さんと一緒にホウキで空を飛び、配達先の家まで届ける仕事のお手伝いをすることになった。

 当然ながら、現くんは飛べないのでお留守番。

 とはいっても、別の実習が待っているようで、お仕事が一段落したのか庭に姿を現した撫子さんに連れられて、どこかへ行ってしまった。


 やっぱり現くんだけ、別行動になるんだ。

 ……ちょっと、残念。


 と、今はそんなこと、気にしていられない。

 わたしも気合いを入れて頑張らないとっ!


 決意を胸に、ホウキに腰を下ろすと、青く澄み渡った真夏の大空へと飛び立つ。

 そしてわたしは、すでに上空へと昇っていた桜華さんとほゆるちゃんのすぐ横に並んだ。


「よし、それじゃあ行くぞ!」

『はいっ!』


 わたしたちは桜華さんの号令に、声を揃えて大きく返事をする。

 お手伝いとはいえ、これから初めての郵便配達のお仕事に向かうのだ。

 テンションが上がって思わず笑顔がこぼれる。


 ふと、ほゆるちゃんと目が合う。

 ほゆるちゃんもまた、笑顔だった。

 わたしたちは軽く頷き合い、先導して飛び始めた桜華さんの背中を追っていった。



 ☆☆☆☆☆



 郵便配達員さんは、ホウキの先に郵便袋をくくりつけて配達へと向かう。

 その袋の中には、手紙などの郵便物が入っている。

 なお、小包や一定以上のサイズがある郵便物は、別途、魔法の車を使って配達されるようだ。


「お前らには、まだ袋を任せられないからな」


 桜華さんはそう言いながら、郵便袋を自分のホウキにくくりつける。

 続いてわたしたちには、配達先の住所がずらりと書かれた紙が渡された。


「今日の配達先のリストだ。上から順番に届けていけば最短ルートになるよう、コンピューターで計算されている。基本的には、この順番どおりに配達していけばいい」

「はいっ!」


 渡された紙には、たくさんの住所が羅列してあった。三十ヶ所以上はあるだろうか。

 うわぁ~、一日にこんなにたくさん、届けなくちゃならないのか~。

 と思っていたら、


「今日は少なめだからな、お前らがいて配達効率が悪くても、とくに問題はないだろう」


 桜華さんは容赦なく、そう言い放った。

 これでも、少ないなんて……。

 それにしても、いくら事実だとはいえ、そんなふうに言わなくてもいいような……。

 ついつい不満顔を浮かべてしまう。


「ほら、最初の家への手紙だ。夢愛、お前が持て。言っておくが、落として紛失なんかしたら、罰則ものだからな」


 そんなわたしに、桜華さんは郵便袋から封筒を取り出すと、なんとそのまま投げつけてきた。


「わわっ!」


 わたしは思わず焦った声を漏らしながら、必死にその封筒を両手でつかもうとする。

 どうにか落とさずには済んだけど、ホウキから両手とも離してしまい、バランスを失ったわたし。

 封筒どころか、自分自身をも落っことしそうになってしまった。


「ふぅ~……」


 体勢を立て直し、冷や汗を垂らしながらも、安堵の息をつく。


「油断は禁物だぞ。事故が起こっても、こちらは責任を持てないからな」


 冷たく言い捨てると、桜華さんは速度を落とすこともなく、配達先に向かって飛び続ける。


「……夢愛、大丈夫?」

「うん……」


 ほゆるちゃんが心配して手を差し伸べてくれた。


「ありがとう」


 わたしはほゆるちゃんの肩を借り、腰の位置を戻してホウキを安定させると、小さくなり始めている桜華さんの背中を再び追いかけた。


 それにしても、ちょっと厳しすぎるよ……。

 こんな状態で二週間も頑張っていけるのかな……?

 わたしはちょっと弱気になりかけていた。



 ☆☆☆☆☆



 郵便局の配達地域は、かなり広い。

 その地域をいくつかに区切り、分けられた範囲を、それぞれの配達員が担当している。


 配達員の人数は少ないから、それなりに広い地域を担当することになるのだけど。

 ただ、配達する地域が決まっていて、また、憧れの職業で注目を受けることも多いためか、配達地域の人たちには顔を覚えられているようで。


「あっ、配達員さん、こんにちは~!」


 といった感じで気軽に声をかけてくる人も少なくない。

 入り組んだ空中住宅のあいだを飛んでいると、洗濯物を干している主婦の方や、ベランダから外を眺めている子供たちと視線が合ったりすることも多いのだ。


 わたし自身もこれまで、配達員さんを見かけたときには必ず、笑顔で「頑張ってください」と声をかけていた。

 そうやって声をかけると、わたしの家の近くを担当している配達員さんだったら、明るく「ありがとう」と答えてくれたりするのだけど。


 桜華さんは澄ました顔で、軽く会釈するだけだった。

 そりゃあ、愛嬌を振りまく必要はないかもしれないけど、もうちょっと親しみを持てるような対応をしてもいいんじゃないかな……。


「こんにちはっ!」


 桜華さんの対応にちょっと不満を抱いたわたしは、声をかけてくれた人に元気な声で答える。

 するとその人は、笑顔になってくれた。つられてわたしの心も温まり、自然と笑みがこぼれる。

 だけど、その人が見えなくなった途端、


「余計なことはするな。仕事に集中しろ。へらへら笑っていても、仕事は進まないぞ」


 前を飛ぶ桜華さんから冷たい言葉がぶつけられてしまった。


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