-6-
「ええっ!? 本当ですかっ!?」
笹枝先輩から伝えられた内容に、思わず声も裏返ってしまうくらい、わたしのテンションは上がりまくった。
「ええ、本当よ。郵便局から、スカウト実習への参加願いが届いたの」
わたしたち女子魔道部の憧れ、郵便配達員はとても人気のある職業ではあるけど、魔力がないとなれない特殊な仕事でもある。
だからこそ、学生のうちから目をつけておこうと、スカウト実習という制度が設けられている。
うちの学校の女子魔道部は、長い歴史のある由緒正しい部ではあるけど、それでもスカウト実習の参加願いが来るのは、数年に一度あるかないかといった程度らしい。
スカウト実習は夏休み中の二週間で行われる。そして去年、笹枝先輩はそのスカウト実習を受け、見事合格した。
だからわたしは、先輩の実力は折り紙つきと言ったのだ。
最終的には進学を希望するってことで、笹枝先輩は卒業後の採用内定をお断りしていたけど。
わたしとほゆるちゃんは去年その話を聞いて、なんてもったいないことを、と憤慨したものだ。
でもまさか、二年連続でスカウト実習に参加できる部員が出るなんて。
スカウト実習の参加願いが来るのは、二年生に対してだけと決まっている。
一年生だとまだ経験不足だし、実習は夏休みに行われるため、三年生だと受験勉強で参加できない可能性もあるからとのこと。
なお、実習の参加者は、実際に郵便局の人がお忍びで部活の様子を見学し、顧問の先生や部長さんからも話を聞いた上で決められる。
とすると、選ばれたのが誰なのかは決まっているも同然だった。
「よかったねっ、ほゆるちゃんっ!」
わたしはほゆるちゃんの手を取って自分のことのように喜んだ。
ほゆるちゃんの飛行技術は、友達のわたしから見てもすごいと思う。
それに比べてわたしのほうは、まだまだ基本もできていないくらいで、空を飛んでいてもバランスを崩すことが多い。
二年生の部員にはもうひとり、現くんもいるわけだけど。
魔力を持つのは女性が圧倒的に多いためか、郵便配達員は女性だけの仕事となっている。
つまり、男性である現くんにスカウト実習の参加願いが来るはずはないのだ。
わたしが歓喜の声を上げながら、握ったほゆるちゃんの両手をブンブン振って喜びを表現する目の前で、彼女は戸惑ったような顔をしていた。
「な……なに言ってんのよ! あんたかもしれないじゃないの!」
「え~っ? そんなのありえないもんっ! わたしって、ドジだしノロマだしっ!」
「……確かにドジでノロマだけど……それでも、可能性はあるじゃない!」
……やっぱり、ドジでノロマだってのは否定されないんだ……。
ちょっと悲しく思いつつも、わたしはすぐさま反論する。
「可能性なんてないよっ! だって、ほゆるちゃんと比べたら、どう考えてもわたしのほうが劣るもんっ! だから選ばれたのはほゆるちゃんで決まりっ! ……ねっ、笹枝先輩、そうでしょ?」
わたしの言葉に、笹枝先輩は笑顔のまま答えてくれた。
「そうね。ほゆるさんには、スカウト実習に行ってもらうわ。もちろん、本人が拒否しなければだけど」
ほらやっぱり、ほゆるちゃんだ。
思ったとおりではあったけど、それでも残念さで心がチクリと痛む。
「拒否なんてするわけないよっ! ね? ほゆるちゃんっ!」
まだ戸惑った表情を浮かべたままのほゆるちゃんに代わって、わたしが勢いよく答える。
でしゃばりかもしれないとは思ったけど、断るなんてこと、あるはずないもん。
「当然よ! あたしなんかでよければ、喜んでスカウト実習に参加させてもらいます!」
わたしの勢いにつられたのか、ほゆるちゃんは明るい声で、しっかり自分の口から先輩に向けて答えを返していた。
これでほゆるちゃんは、夏休み中に二週間、泊まり込みとかではないけど、土日を除いた平日には毎日郵便局に行って実習を受けることになる。
わたしはわたしで、夏休み中の部活を頑張ろう。
ちょっと離れてしまうけど、わたしはほゆるちゃんを一生懸命応援しようと、心に決めていた。
そんな中、不意に笹枝先輩がわたしの方に顔を向けると、こう言った。
「それじゃあ、ふたりとも頑張ってね!」
…………えっ?
驚きで目が丸くなるわたし。
「どどどどどど、どういうことですかっ!?」
どもった声になりながらも、笹枝先輩に質問をぶつける。
「どういうこともなにも、聞いてのとおりよ? 今年はほゆるさんと夢愛さん、ふたりの女子部員に、スカウト実習への参加願いが来たってこと」
「ええええええええっ!?」
わたしはもう、なにがなんだかわからなくて、信じられない思いで頭の中がいっぱいになって、ほとんどパニック状態に陥ってしまう。
「異例のことではあるけど、そういうわけだから。我が部の恥になんてならないよう、しっかりするのよ?」
『は……はいっ!』
ほゆるちゃんとわたしの気合いを込めた声が、ピッタリと綺麗に重なった。
だけど、驚きはこれだけには収まらず。
「というわけで、今年は合計三名の参加ってことになるわ」
『…………えっ?』
今度は現くんも含めた三人の声が重なる。
「つまりね、現くんにもスカウト実習の参加願いが届いたってことよ」
「で……でも、笹枝先輩! 郵便配達員は女性の仕事ですし、だいたい現には魔力もないですよ!?」
さすがのほゆるちゃんも、さっきまでの戸惑いを通り越した驚愕の表情で、笹枝先輩に詰め寄っていた。
「そうね。でも、事実だから。ほら、これが参加願いの書面よ」
そう言いながらポケットから取り出した紙を広げる先輩。
『風間夢愛さん、時蒔ほゆるさん、水玉現さん、以上三名に、スカウト実習への参加をお願い致します。
風間さんと時蒔さんはもちろん、郵便配達員としての実習、
男性である水玉さんには、配達員のサポート係として、実習をお願い致します』
郵便局の印が押されたその紙には、そんな記述があった。
「そういうわけだから、三人とも、夏休み中の部活への参加は免除します。スカウト実習、頑張ってきてね!」
笹枝先輩のメガネ越しの瞳は、わたしたちの未来の姿を思い描いてくれているのか、ダイヤモンドのようにキラキラと光り輝いていた。