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七月に入って少し経つと、期末テストがある。
テスト期間中は部活動が禁止となるため、わたしたちは放課後になってすぐ、学校をあとにした。
本来ならまっすぐ帰ってテスト勉強をしなきゃいけないところだけど。
気分転換も兼ねてちょっと寄り道していこう、という話になり、よく足を運んでいる公園へと向かうことにした。
ベンチがいくつか設置されているだけで、他にはちょっとした植え込みや芝生がちらほらある程度の、なんだかとっても寂しい公園。
せめて噴水とか花時計とかでもあればいいのに、と思わなくもないけど。
それでもここは、わたしにとってはお気に入りの場所だった。
訪れる人も少ないから、静かで落ち着ける憩いの場となっているのだ。
気持ちが沈んだりしたときにも、よくこの公園に来ていたっけ。
公園自体が温かく、わたしを包み込んでくれるような、そんな気がするから。
ほゆるちゃんたちに出会ってからも、それほど頻繁にってわけじゃないけど、この場所には何度も来ている。
毎回ふたりと一緒に楽しい時間を過ごす、くつろぎの空間とも言える。
最後に来たのは、二週間くらい前だったかな?
そんなことを考えているうちに、爽やかな緑色が目にも心にも優しい公園の姿が目に飛び込んでくる。
今日はやけに暑いから、途中でソフトクリームを買ってきてあった。
公園の中に足を踏み入れたわたしたちは、いつもどおり並んでベンチに腰をかけた。
このベンチに座るときの並び順は、わたしが真ん中で、ほゆるちゃんと現くんがその両隣、っていうのがお決まりのパターンになっている。
いつからそうなったのかは、ちょっと覚えていない。
確かふたりと知り合った当初は、ほゆるちゃんと現くんが隣り合って座っていたと思うのだけど……。
「それにしても、あっついわね~、今日は!」
「ほんとだねっ! アイスが美味しいよっ!」
ほゆるちゃんの大声に、わたしも負けじと明るい声を返す。
汗はだらだらと流れてしまうけど、その分ソフトクリームの冷たさが心地よくて、とっても美味しく味わうことができていたからだ。
「そうだね、やっぱり夏はアイスが一番だよね」
わたしの言葉に、現くんも頷いてくれる。
でも、ほゆるちゃんだけは、汗だけじゃなくって文句もたらたらと垂れ流し続けていた。
「どうしてあんたたちはそう、ポジティブシンキングかなぁ! あ~もう、暑くてベトベトで気持ち悪い! スカートがまとわりついて、鬱陶しいったらないわ!」
わーわーと喚きながら、ほゆるちゃんはスカートの裾を両手でつかみ、大きくあおぐようにして足に風を送っている。
「……ほゆるちゃん、お行儀悪いよぉ? っていうか、パンツ見えちゃう~!」
「うるさいわね! そんなことより、汗でベタベタなほうが大問題なのよ!」
「ええ~っ? パンツ見えちゃうほうが、問題だと思うけどなぁ……」
「あたしはあんたと違って、汚くないから大丈夫なのよ!」
「わ……わたしだってべつに、汚くなんてないよぉ~っ!」
「だったら現に確認してもらえば?」
「な……、どうして現くん!? そんなの無理~!」
わたしとほゆるちゃんが、こんなことを言い合っているあいだ、当の現くんは涼しい顔でソフトクリームを舐め続けていた。
……なんというか、こういう話題なら、ちょっと恥ずかしいけど、現くんだって男の子なんだし、少しくらい興味を持ってもいいんじゃない?
そりゃあ、あまり積極的に食いついてこられても、嫌ではあるのだけど……。
それなのに現くんときたら、まったく興味なしと言わんばかりの澄まし顔でソフトクリームに夢中といった様子。
クリーム部分はすでに食べ終えて、パリパリと音を立てながら残りのコーンをたいらげているところだった。
ほゆるちゃんといつも一緒にいるけど、女の子として意識しているような感じでもないし……。
もしかして現くん、女の子に興味がなかったりするのかな……?
ぼーっとしていたからか、わたしは手もとから溶けたソフトクリームが垂れてきていることに、まったく気づかなかった。
「あっ!」
と思ったときにはもう遅い。
溶けたソフトクリームの雫は、コーンから指を伝って、そのまま制服のスカートに落ちる。
「大丈夫?」
すかさず現くんがハンカチを取り出すと、スカートに落ちたソフトクリームを拭き取ってくれた。
「すぐに拭かないと、シミが残っちゃうからね」
「あ……ありがとう」
至近距離に現くんの顔があって、わたしは赤くなりながらもお礼を述べる。
そんな状態なのに現くんのほうは、微かに笑顔を浮かべつつも、やっぱり澄ましたまま。
どう考えても、意識されてなさそうだな~って感じは否めない。
もう少しこう、トキメキとかがあってもバチは当たらないと思うのだけど。
……ま、それも現くんらしいところだし、べつにいいけどさっ。
心の中で弁解(?)の言葉を叫び、わたしがひとり頬を赤く染めていた、そのとき。
「あっ、夢愛、見て!」
「ふえっ?」
不意にかけられた、ほゆるちゃんからの言葉に、わたしは首をかしげる。
「……上よ、上!」
「あっ、郵便屋さん!」
そう、わたしたちの目に飛び込んできたのは、優雅に空を舞う郵便屋さん――郵便配達員さんの姿だった。
郵便物の配達先となる家々は、空中住宅であることが圧倒的に多い。
そのため、郵便局の配達員さんたちは、魔法のホウキに乗って空を飛ぶ。
だから女の子の憧れの職業となっているのだ。
もちろん魔力がないと務まらない上、人気も高いからそうそう簡単にはなれない。
だけど、カッコいいし綺麗だし、わたしたちみたいな魔道部に所属している子にとっては、目標ともいうべき存在だった。
「はう~、やっぱりカッコいいよぉ~!」
「そうね。なんだか優雅だし、今どき手紙を届けるってのも、夢があっていいわよね!」
わたしとほゆるちゃんは両手を合わせ、上空を横切っていく郵便屋さんにキラキラした眼差しを送る。
そしてその姿が視界から消えるまで、憧れの吐息をこぼしながら見つめ続けていた。