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夏休みの残り一週間は、ずっと活動を続けていたはずの女子魔道部の練習もお休みだった。
というわけで、少ない夏休みを満喫し、わたしたちは新学期を迎えた。
いろいろあったけど、とっても有意義だったスカウト実習を終えたわたしは、清々しい気分でこの日を迎えることができた。
始業式の日は授業もなく、午前中で解散となる。
そのあとわたしは、ほゆるちゃんと現くんと一緒に、笹枝先輩たちの待つ女子魔道部の部室へと向かった。
もちろん、はずむような、軽い足取りで。
「あっ、久しぶり! あなたたち、どうだった?」
部室に入るやいなや、部長の笹枝先輩から質問の声が飛んでくる。
一年生ふたりもすでに部室に入って待っていたようで、好奇心旺盛なキラキラの瞳を向けてくれていた。
わたしは、ほゆるちゃんと現くんのふたりと交互に顔を見合わせると、笑顔をいっぱいに浮かべて報告する。
スカウト実習の評価は三人ともAランクで、卒業後の採用内定までいただけたことを。
「お~! やったじゃない、おめでとう!」
笹枝先輩は、素直に喜んでくれた。
「すごいです、先輩方!」
「おめでとうございます!」
一年生ふたりも、手を取り合ってはしゃいでいる。
ここまで手放しで喜んでもらえると、わたしたちとしても気分がいいな。
「それであなたたち、どうするつもりなの?」
しばらくはしゃいだ声が響いたあと、先輩は真面目な顔で問いかけてきた。
そう、去年スカウト実習を受けた笹枝先輩は、採用が決まっていたのに、それを蹴って進学の道を選んだ。
しかもわたしたちと同じようにAランク評価だったというのに。
ただ、先輩はもう、わかってくれているのだろう。
だけどその決意を、しっかりわたしたちの口から聞きたい。
そう思ってくれているのだ。
再び顔を見合わせる、二年生のわたしたち三人。
そして声を揃えて宣言した。
『わたし(ぼく)たち三人は、卒業後、郵便局への就職を希望します!』
狭い部室内に響く、未来を夢見る明るさを含んだ言葉。
一瞬の間を置いて……。
パチパチパチパチ!
笹枝先輩と一年生のふたりからわたしたちへ、割れんばかりの大きな拍手が届けられた。
「そう言ってくれると思ったわ」
メガネ越しに見える笹枝先輩の瞳は、微かに潤んでいるようだった。
「わたしは進学することに決めてしまったけど、撫子さんにはちょっと後ろめたい気持ちがあったの。だからこれで、心置きなく受験勉強に専念できるわ」
……そっか。笹枝先輩も、悩んでいたんだ。
頼りになる先輩で、芯が通っていて、揺らぐことのない存在だと思っていたけど。
そんな先輩でも、やっぱりいろいろと悩みながら、一歩一歩進んでいっているんだ。
わたしみたいに沈みやすい性格だったら、なおさらというものだろう。
でも、大丈夫。
これから先も、ほゆるちゃんや現くんに支えられて、わたしも頑張ってふたりを支えて、ともに歩んでいける。
まだもうちょっと先とはいえ、中学校を卒業したら、同じ道を進んでいくのだから。
郵便配達員としての道を――。
「ぼくだけはちょっと違うけどね」
わたしが決意を口にすると、現くんが冷静に言葉を挟んできた。
「そうだね。現くんは事務員扱いになるんだっけ?」
わたしが訂正する声に、現くんはさらに訂正を重ねる。
「違うよ。配達員をサポートするマネージャーの役職を新たに作るんだってさ。実習が終わったあと、撫子さんから言われたんだ。ぼくはその第一号になるみたいだよ」
「な……なによ現、結局、卒業後もマネージャー? 部活と全然変わらないじゃない!」
ほゆるちゃんがなにやら楽しそうな笑顔でツッコミを入れる。
わたしもほゆるちゃんに同意して、明るく笑い声を響かせた。
「あはははっ! でも、似合ってるし、いいと思うっ! 現くん、これからもよろしくねっ!」
「こちらこそよろしく!」
現くんは差し出した手をぎゅっと握って、頬を真っ赤に染めたわたしの瞳を見つめながら応えてくれた。
周りから、なんだかちょっと生温かい視線を感じたりしつつも、わたしの頬は緩みっぱなし。
女子魔道部の狭い部室には、絶えることのない笑顔が咲き乱れ続けていた。
☆☆☆☆☆
大気汚染や水質汚濁の影響で、人口も大幅に減ってしまった今の地球。
住める場所も限られ、仕方なくって感じで空中にまで家を建てているような、こんな世の中だけど。
そんな現在だからこそ、夢を届ける仕事は必要なのだ。
まだ卒業まで一年以上あるけど、しっかり勉強して、技術も磨いて、胸を張って郵便配達員になれるように努力しよう。
……郵魔、って言わないと、撫子さんに怒られちゃうかな?
とにかく、ほゆるちゃんや現くんと一緒だから、不安なんてなにもない。
たとえつらく苦しいことがあったとしても、絶対に切り抜けられる。
だから一生懸命頑張って、撫子さんや桜華さんと次に会うときには、ひと回り成長した姿を見てもらおう。
わたしはそう、心に誓うのだった。
以上で終了です。お疲れ様でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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