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「ちょっとみなさんっ! そんな言い方をすることないじゃないですかっ!」
わたしの突然の大声に、ざわついていた場が一瞬で静まり返った。
すぐ横にいたほゆるちゃんも、目を丸くしている。
ただ現くんだけは、いつもの微かな笑顔を張りつかせたまま、じっとわたしを見つめていた。
局員さんたちも顔を見合わせて困惑しているようだったけど、一部の人はすぐに落ち着きを取り戻す。
「……でもさ、あの人の下で、キミ自身も不満だったのは確かだろ? そりゃあ、そのせいで失格になんてされたら、たまったもんじゃないってのも、わかるけどさ……」
「わたしが言いたいのは、そんなことじゃありませんっ!」
遠慮がちに弁解染みた言葉を吐き出す男性局員さんに、わたしは勢いよく怒鳴りつける。
自分がスカウト実習のために来ただけの、単なる中学生でしかないなんて、この際、まったく関係なかった。
「確かにわたしたちは、桜華さんに不満を持っていましたっ! でも、今は本当に、桜華さんの指導を受けられてよかったと思ってますっ! それに、なんですかっ!? 本人がいないところで、こんなに大勢で悪口みたいに不満を並べてっ! …………」
恥ずかしくないんですかっ!?
そう叫ぼうとして、わたしは口をつぐむ。
以前局員さんたちに不満を漏らしたあのとき、わたしもほゆるちゃんも、今の局員さんたちと同じだったじゃないか、と。
自ら心に急ブレーキをかけてしまったわたしではあったけど。
ほゆるちゃんが一歩前に身を乗り出し、わたしの思いを継いでくれた。
「わたしたちを不合格にするのは構いません。そりゃあ、配達員になるのがずっと夢で、なれなくなっちゃうのはつらいけど、でもそんなの関係ないんです!」
わたしの考えていたことがそのまま、ほゆるちゃんの口から飛び出していく。
ほゆるちゃんも、わたしと同じ思いを抱いてくれていたのだ。
局員さんたちに向かって大声を張り上げる彼女の背中は、とても頼もしく思えた。
わたしもほゆるちゃんに負けないように、髪の毛を振り乱して大声を重ねる。
「桜華さんはあんな感じですけど、わたしたち、わかったんですっ! 本当はすごく仕事熱心で、わたしたちのことを気にかけてくれていたって! 誤解されてしまうのは……わたしたちも誤解してしまっていたのは、桜華さんが不器用なだけだと、そう思うんですっ!」
ちょっとクセのあるわたしの髪が、風に揺れて広がる。
わたしの怒りを、反映しているかのように。
局員さんたちはうつむき、完全に勢いを失っていた。
現くんはなにも言ってくれないけど、もちろんわたしたちの味方だ。
ふと視線を合わせた現くんの瞳はキラキラときらめき、頑張って思いを届けるんだよと、エールを送ってくれているみたいだった。
静まり返った庭で、ほゆるちゃんが再び口を開く。
「桜華さんは本当にこの仕事が大好きで、誇りを持ってやってるんです!」
「でもキミたちだって、あの人にひどいことを言われたりしてたんじゃないのか? 不満いっぱいだっただろ?」
思いを込めたほゆるちゃんの声に、局員さんのひとりが反論を返してきた。
それは、ほゆるちゃんが女性局員さんとぶつかって資料かなにかの紙をばらまいてしまったとき、女性と一緒に紙を拾い集めていたわたしたちに優しく話しかけ、事務所まで連れていってくれた、あの男性だった。
親身になって悩んでいるわたしたちの話を聞いてくれたこの人も、今では敵同士。
非難すら含んだような目線を向けながら、わたしたちを攻撃してくる。
局員さんたちは当然ながら、わたしたちよりも年上の人ばかり。
そんなたくさんの人たちから敵視されているような今の状況は、わたしの心の弱い部分を突き刺してくる。
この前みたいに逃げてしまえと、心の中の悪魔がささやきかけてくる。
だけど、ここで怯んでなんかいられない。
「それは……、確かにあのときは、ひどいって思ってたんですけど、でもっ! 本当はわたしたちを考えてのことだったって、今なら確信を持って言えますっ!」
わたしは心の悪魔を払いのけ、勇気を振りしぼって反撃を開始した。
「桜華さんは、あたしたちをしっかりと指導してくれました!」
ほゆるちゃんも加勢してくる。
いまだに黙り込んだままの撫子さん。
その撫子さんに、局員さんたち全員の視線が集まっていた。
「撫子さん、どうかお願いします!」
「わたしたちは失格にされても構いませんっ! だから……」
わたしとほゆるちゃんはともに両手を胸の前で組み合わせ、微かに顔を上げた撫子さんに向かって、懇願の言葉を叫ぶ。
そして一度息を大きく吸い込み、
『桜華さんは追放にしないでくださいっ!』
声を揃えて思いの丈をぶつけると、勢いよく頭を下げた。




