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あううう、わたしってやっぱり、ダメだ……。
項垂れながら地面に降り立ったわたしの心は、せっかく立ち直ったばかりだというのに、またしても深い海の奥底まで沈み込んでしまった。
確かにわたしの飛行技術は、ほゆるちゃんと比べたらずっと劣るけど。
それよりも、本番に弱いことのほうが問題だと言える。
せめて焦らないで落ち着いて飛べていれば。
悔しさが胸を締めつける。
逃げ出して一度は諦めていたはずなのに、わたしはまだ、無様にすがりついたままなのだ。
そんなわたしの肩に、ポンと優しく手が置かれる。
もちろんそれは、ほゆるちゃんだった。
「夢愛、あんたは頑張ったわ。緊張してガチガチだったけど、その中で、できる限りのことはやったわよ。だから、きっと大丈夫」
「うん。決して優雅とは言えない飛び方だったけど、一生懸命さは伝わってきたよ」
現くんも温かな声を向けてくれる。
無理に褒めたりせず、率直に思ったことを述べてくれている。そう感じられた。
うん、そうだよね。
もうテストは終わったんだもん。
いつまでもくよくよしてたって、仕方がない。
わたしは気持ちを切り替える。
「ありがとう、ふたりとも。これで、終わったんだね、スカウト実習。二週間なんて、あっという間だったねっ!」
「ええ、そうね」
「ぼくはずっと、撫子さんの雑用係を押しつけられてただけみたいな気がするけどね」
わたしが元気を取り戻したのを見て、ほゆるちゃんも現くんも、笑顔を浮かべてくれた。
「雑用係だなんて、失礼ですわねぇ~」
現くんの横に立つ撫子さんは、ちょっと不満顔だったけど。
わたしたちの雰囲気を汲んでくれて、それ以上文句を口にすることはなかった。
そんな中、不意に周りの局員さんたちから、こんな声が飛び交い始める。
「でもさ、いいのか? あの桜華さんが指導したんだろ? 実習生の彼女たちには悪いが、簡単に認めるわけにもいかないんじゃないか?」
「そうよね、あの人の指導なんて……。どうせ適当にやってきただけだろうし」
「さっきのテストだって、ふたりめの子なんて、かなりひどかったよね?」
「とはいえ、桜華さんのことだから、指導した人が不合格だなんて、そんな自分の力不足を認めるようなこと、するわけないよな」
「それじゃあ、ふたりとも合格になるのかな?」
「う~ん、あれで合格だと、示しがつかないんじゃない?」
なんだか雲行きが怪しい。
口々に好き勝手なことを言い出す局員の方々。
その矛先は、どんどんとわたしたちに向かってくるように思えた。
「だいたいあの子たちだって、不満を漏らしてたわよね、桜華さんの指導に」
「そうそう。不満をたらたらこぼしながら実習したって、身になるはずなんてないよね」
そんな局員さんたちの声は、当然ながらわたしたちのそばに立つ撫子さんにも届いている。
桜華さんの態度なんかを、局員さんたちがずっと不満に思っていたということを、この少しすっとぼけた感じの局長さんは、まったく気づいていなかったのだろう。
「……みなさん、詳しくお話を聞かせていただけませんか?」
ひそひそと、という域を完全に超えていた局員さんたちに、撫子さんは詰め寄っていく。
「あっ、撫子さん……。えっとですね、桜華さんについてなんですが……」
さすがにちょっと戸惑っているようではあったけど、桜華さんに対して思っていたこと――以前わたしたちが不満をこぼしたときに口々に飛ばしていた不平や不満を、局員さんたちは観念したように撫子さんに話す。
「そう……なんですか……」
素直に局員さんたちの言葉を聞き入れ、考え込んでいる撫子さん。
彼女が黙って考えを巡らせているあいだも、局員さんたちの不満は留まることを知らなかった。
「あの人は、郵便配達員失格だろ」
「桜華さんの下で指導を受けたんじゃ、どうせこの子たちもダメに決まってるわよね」
「今年のスカウト実習は全員失格にして、桜華さんも追放にすべきじゃないか?」
「そうね、それがいいわ!」
以前は味方になってくれたはずの局員さんたちまで、それにまじってわたしたちの失格と桜華さんの追放を叫び始める。
その声は、もはや止めることもできないほど、大きくなっていた。
撫子さんはまだ、なにも言ってくれない。
だけど……。
わたしは苛立ちを募らせていた。
べつにそれは、わたしたちを失格にしようとしているからじゃない。
味方だと思っていたのに裏切られたから、ってわけでもない。
そんなことを好き勝手に叫んでいる現状に、怒りを感じているのだ。
だって、桜華さんは今、ここにはいないのだから。
本人がいないところで悪口を言っている局員さんたちに、わたしは心の底から腹を立てていた。
それはマグマのように湧き上がり、そして、大爆発を起こした。