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そして迎えた、スカウト実習最終日。
わたしたちは撫子さんから言い渡されたとおり、総合テストに臨んでいた。
テストを受けるのは、わたしとほゆるちゃんのふたり。
現くんは、わたしたちのテストを見学するらしい。撫子さんと並んで、こちらに視線を向けている。
それだけではなく、なんだかイベントみたいになっているのか、局員総出……というわけではないだろうけど、たくさんの局員さんが見学に来ていた。
総合テストの指揮を取るのは、どうやら桜華さんのようだ。
郵便局の庭で、桜華さんからテストの説明を受けるわたしたち。
ひとりずつ順番に、指定された飛び方や速度を忠実に守って、飛行演技を見せる。
それが、わたしたちに言い渡されたテスト内容だった。
「よし、それじゃあまずは、ほゆるから始めるか」
「はい!」
ほゆるちゃんは桜華さんの指示に勢いよく答えると、ホウキにそっと腰をかける。
「それじゃ、夢愛、行ってくるわね!」
「うん、頑張ってっ!」
わたしと言葉を交わし、ほゆるちゃんは意気揚々と青空へと繰り出していく。
わずかな間を置いて、
「これより、時蒔ほゆるのテストを開始する!」
桜華さんの号令が、高らかに響き渡った。
☆☆☆☆☆
「よし、ほゆる! そこでターン、一気に地上すれすれまで降下!」
「はい!」
ほゆるちゃんは地上から叫ぶ桜華さんの指示に従い、大空を舞う。
あくまでも優雅に、少しのブレもなく、ホウキの軌跡を描く。
女子魔道部の練習でもずっと思っていたことだけど、やっぱりほゆるちゃんは飛ぶのが上手だな。
思わず見惚れてしまう。
このあと自分も同じようにテストを受けなければならないことなんて、すっかり頭から飛んでしまっていた。
指示を送る桜華さんも、満足そうな表情。
これならきっと、ほゆるちゃんは大丈夫だ。
見事総合テストをパスして実習を終え、きっと卒業後の採用内定をもらえるだろう。
感嘆の吐息をこぼしながら見上げるわたしの目の前でテストは続き、やがて、
「よ~し、そこまで!」
桜華さんの号令によって、ほゆるちゃんの飛行演技は終了を迎えた。
微かに汗の雫を額に浮かべながら、満足そうな笑顔のほゆるちゃんがわたしのすぐ横へと降り立つ。
「ほゆるちゃん、お疲れ様っ! カッコよかったよっ!」
「ありがとう! 次は夢愛よ、頑張って!」
「うんっ!」
わたしは掲げられたほゆるちゃんの右手にパチンとタッチして、ホウキに乗る。
そのままふわりと風をまとい、清々しい青い空へと身を浮かべた。
☆☆☆☆☆
「続けて、風間夢愛のテストを開始する! 準備はいいな?」
「はいっ!」
わたしは元気よく返事をすると、指示を待って身構える。
「よし、まずはゆったりと上空を旋回!」
「は……はいっ!」
緊張したわたしはちょっと声を裏返しながらも、ゆっくりとホウキを滑らせた。
指示は、次々と出される。
ほゆるちゃんは難なくこなしているように見えたけど。
わたしは必死になって食らいついていくのがやっとだった。
暑い真夏の日差しが全身を容赦なく照らし、汗が溢れ出してくる。
緊張のせいもあるし、ホウキの扱いの未熟さもあって、わたしは焦っていた。
ほゆるちゃんみたいに、上手く飛べない。
バランスを崩しながら、どうにか落ちないようにだけ気をつけて、矢継ぎ早に飛び込んでくる指示に従う。
それは、どれだけ無様な飛び方だっただろう。
優雅さを重んじる郵便配達員には、あってはならない姿だ。
わかってはいても、焦れば焦るほどホウキはその軌道を揺らし、ホウキに乗って飛ぶというよりも、ホウキに振り回されているような醜態をさらしてしまう。
桜華さんの鋭い視線が、痛い……。
それでもどうにか飛び続けていると、
「よし、そこまで!」
桜華さんの声がこだまし、わたしのテストは終わりを告げた。
最後に、
「以上、時蒔ほゆると風間夢愛、両名のテストを終了する!」
と高らかに宣言すると、桜華さんはわたしが庭に降り立つのを待つこともなく、郵便局の建物の中へと歩いていってしまった。