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「きゃ~~~~~、待ってぇ~~~~!」
「こら、鳥~! その手紙を離しなさい!」
必死に追いかけるわたしとほゆるちゃん。
もちろん、鳥さんが待ってくれるはずもない。
鳥さんたちの飛ぶ速度は決して速くはなかったのだけど。
ただ、手紙をくわえた鳥さんは、群れの真ん中辺りにいた。
ここは意を決して、群れの中に飛び込むしかないのかもしれない。
でも、わたしたちが大声を出しているからなのか、どうもさっきから鳴き声を上げて威嚇してきているような……。
たまに群れから少し外れた鳥さんがわたしたちのそばまで近づき、くちばしでつついてきたりもしているし。
鳥さんたちは、明らかに敵意を向けて、わたしたちを警戒しているみたいだった。
そんな群れの中に入っていったら、どうなってしまうのか。
考えただけで背筋が凍る。
どうしたものやら思案に暮れていると、不意に群れの中からなにかが落下していった。
「あっ、手紙、落っことしたよっ!」
「わかってるわ! 追いかけるわよ!」
「うんっ!」
わたしとほゆるちゃんは、ホウキにまたがり、急降下を開始する。
緊急事態だもん、両足を横に揃えて優雅に飛ばないと、なんて言っていられない。
空気抵抗を減らし、集中力を高め、ひらひらと宙を漂う手紙に狙いを定める。
ともあれ、近づいてキャッチしようとしても、手は空を切るのみ。
不規則な舞い方をする手紙に、わたしたちのほうが翻弄される。
しかもこっちはふたりがかり。
焦っているわたしたちは、小さな目標を捕獲するのに、ふたりがそれぞれ闇雲に突っ込むことしか考えられず。
ニアミス程度は可愛いもので、あわや正面衝突といった状況にさえ、何度も陥っていた。
「くっ、ふたりがかりじゃ、余計に難しいわ! あたしは下に先回りするから、あんたは手紙を追って!」
「あいあいさ~っ!」
わたしはなぜか、とっさに敬礼していた。
ほゆるちゃんはすぐに方向転換し、ものすごい勢いで急降下していった。
その先には、湿った濃い茶色の大地が見える。わたしたちはもうすでに、腐敗大地の上空まで到達していたのだ。
あまり近づいたことはないけど、なんというか、大地というよりも沼とか泥とか、そんな感じに見える。
このまま落ちてしまったら、大切な手紙が汚れてしまう。
それに、ここからだとよくはわからないけど、もし沼のようになっているのなら、水面に落ちて水を吸った手紙は、そのまま簡単に沈んでしまうことだろう。
そうなったら万事休すだ。
ともかく、こっちは頑張って手紙をつかむことだけに集中しよう。
わたしを嘲笑うかのように、ひらひらと空中をあっちこっちと飛び回る手紙。
狙いを定めて……スカッ!
もう一度……スカッ!
今度こそっ……やっぱりスカッ!
何度手を伸ばしても、簡単にかわされてしまう。
やるな、手紙っ!
……なんて言ってる場合じゃないってば。
眼下には、腐敗大地がどんどんと迫ってくる。
ここまで近づいてみると、どうやら本当に、泥沼のような状態みたいだった。
ということは、絶対に落としてはならないってことっ!
だけど。
スカッスカッスカッスカッスカッスカッ!
いくら手を出そうとも、スカスカスカスカ。
と、地面……というより水面とでも言うべき深い茶色の一帯から少し上がった空中に、なにかが見える。
それは、ホウキにまたがり悠然と浮遊して待ち受けるほゆるちゃんの姿だった。
落ち着いて落下してくる軌跡を見極め、一点集中でキャッチする。
そういう心づもりなのだろう。
――あたしに、任せなさい。
――うんっ、頑張ってっ!
瞳で語り合う、わたしとほゆるちゃん。
そして……。
スカッ!
一点集中で繰り出されたほゆるちゃんの手は、ものの見事に空を切った。
「うわわわぁ~~~っ! ダメダメダメぇ~~~!」
わたしは汗をたら~っと垂らして固まっているほゆるちゃんの横をすり抜け、手紙に向かって突進する。
どうにか手を伸ばしてつかむつもりだったのだけど。
そんな余裕なんてないことに気づく。
もう水面すれすれというところまで来ていた手紙を見て、わたしは最後の手段とばかりに勢いよく突っ込む。
わたしたちをもてあそんでくれた手紙は、バッチリわたしの顔面に貼りついたっ!
バシッ!
その手紙を、思いっきり右手で押さえつける。
勢い余って顔面がすごく痛かったけど、そんなことを気にしてもいられない。
わたしは手紙を……しっかりとつかんだ!
「やったぁ~! ほゆるちゃん、やったよっ!」
と叫んだ途端。
グラッ……。
「ふえっ?」
バランスを崩したわたしは、バシャーーーーーンと大きな水しぶき、というか泥しぶきを立てて、泥沼状の腐敗大地に落っこちてしまっていた。
「きゃわわわわっ! ごぼっ! たす……けて……ごぼぼっ!」
わたし、泳げないのに……。
死を覚悟した瞬間だった。
とりあえず、右手を高々と上げていたからか、手紙だけは無事の様子。
「夢愛、大丈夫!? つかまって!」
すぐさま、ほゆるちゃんが手を差し伸べてくれた。
わたしは死にもの狂いでその手にすがりつく。
焦りまくっていたとはいえ、それは完全に大失敗で……。
「わっ、こら! ちょっと、暴れないで……きゃあっ!」
バシャーーーーーン!
ふたつめの泥しぶきが、再び盛大に舞い上がる結果となってしまった。