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大気汚染とか水質汚濁とかの影響で、人が住める場所が極端に少なくなってから久しい今の世の中。
人が住んでいるのは、大きな都市の近辺など、整備の行き届いた一部の地域だけとなっている。
それはわたしたちの住む日本だけじゃなく、世界中のどこでも同じ。
海は汚れ、大地は腐ってしまった。
地球規模の自然破壊。すべての生物にとっての危機。
その原因となったのがわたしたち人間なのは、紛れもない事実だけど。
したたかな人間は、その危機をも乗り越え、こうしてのうのうと生き長らえている。
そりゃあそうだよね。
いくら自分たちが原因だからって、じゃあ責任を取って絶滅します、なんてことを考えるわけがない。
どんな生物だって、生きることに必死なんだから。人間だって、例外じゃないのだ。
住む土地が少なくなったなら、空に住めばいい。そう考え、家々は上空にも建てられるようになった。
家の重さに耐えられる頑丈な柱――家柱を地表に立て、その上に家を建てる。
家柱の中にはエレベーターが通っていて、それを使って地表とのあいだを行き来する。
それが、一般的な空中住宅だ。
頑丈な柱が必要だったり、強風に負けないよう家自体にも補強が必要だったりするから、地表に建てる家よりはお金もかかってしまうみたいだけど。
土地の値段がバカ高い昨今、比較してみれば空中住宅のほうがリーズナブルとも言える。
もっとも、空中だからといって、勝手にどこにでも家が建てられるってわけじゃない。
それでも空中の値段のほうが、土地の値段と比べたら圧倒的に安くなる。
というわけで、今ではほとんどの家が空中住宅が多くなっている。
空中に住む人が多くなれば、当然ながら移動手段も空中を使いたくなるところだけど、そう簡単にはいかなかった。
実際には、普通に道路を走る車以外に、魔力を使って空を飛べる車も存在している。
ただ、とっても高価な上、免許の取得も難しい。
もう少し簡単に扱える乗り物として、魔法のホウキもあるのだけど。
こちらもそれなりに値が張る上、やっぱり免許が必要となっているため、なかなか簡単には乗れない。
そもそも、魔力を持っている人自体が少ないわけだし、そういった魔力が必要な移動手段なんて普通の人には使えないのが実情だったりする。
時代は移り変わっても、人間は地球の重力から逃れられないものなのかもしれない。
☆☆☆☆☆
わたしは風間夢愛。
友達のほゆるちゃんや現くんと一緒に、我が校伝統の女子魔道部に所属する、ごくごく普通の中学二年生。
魔力を持つのは、古来より女性に多い。
そのため、女子魔道部は伝統となっている学校も多いのだ。
反対に男子魔道部がある学校は少ないのだけど。うちの学校にもないしね。
伝統となっている部のわりに、部員は少なく、二年生はわたしたち三人だけ。
一年生がふたり、三年生に至ってはたったひとりと、部員数は寂しいものだったりする。
それは、女子の入部が魔力保持者に限られているためだ。
魔道部の主な活動は、学校所有のホウキに乗って飛行演技をすること。だから、魔力がなくちゃ話にならない。
それじゃあ、現くんはどうなのかというと、実は彼には魔力がない。
現くんはマネージャーだから、魔力がなくても問題ないのだ。
人数も少ないこんな部に、マネージャーなんて必要なのかな? と思わなくもない。
だいたい、過去にマネージャーがいたことなんて、ほとんどなかったみたいだし。
でも現くんは、ほゆるちゃんが部長さんに強く推薦し、異例の抜擢と相成った。
わたしとしても、それは嬉しいことだったのだけど。
「ほゆる~! 夢愛ちゃん~! 頑張れ~!」
両足を揃えてホウキに横座りし、校庭を地面すれすれで飛ぶ「走り込み」をしているわたしたちに、応援の声を向けてくれる現くん。
どうしてチアガールみたいなポンポンを持って、そんなにも嬉しそうに応援しているのかは、謎だけど。
というか、一年生のふたりや部長さんも同じように飛んでいるのに、わたしとほゆるちゃんだけを応援するなんて。
特例という感じで入部を許可されたわけだから、現くん以外にマネージャーはいない。
つまり現くんは、みんなのマネージャーってことになるはずなのに。
そりゃあ、特別に扱ってもらえるのは嬉しいし、できたらほゆるちゃんとまとめてじゃなくて、わたしだけを特別に思ってほしいという思いもあるのは確かだけど……。
「ほゆる~、やっぱ恥ずかしいよ~。やめていいかな~?」
「ダメよ! チアガールの衣装を着るのは妥協してあげたんだから、しっかり応援しなさい!」
……あのポンポン、渡したのってほゆるちゃんだったんだ。
っていうか、現くんにチアガールの衣装まで着させるつもりだったの?
ほゆるちゃん……、恐ろしい子……。
だけど……。
ちょっと見たかったかも。
思わず想像して、顔を赤らめる。
そ、それはいいとしてっ!
やっぱりほゆるちゃんと現くんは、仲がいいんだなぁ。
幼馴染みだもんね。わたしが入り込むようなすき間なんて、ふたりのあいだにはないんだ。
ちょっとブルーになっているわたしに、
「ほら、現が応援してるわよ? 頑張って飛びな!」
ほゆるちゃんはそう言って笑顔を向けてくれた。