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YUMA(ゆーま)を目指して  作者: 沙φ亜竜
第3話 あれっ!? ハズレ指導員?
16/36

-4-

「失礼します!」


 ノックをしてドアを開けたわたしたちは、勢いよく部屋の中に踏み込んだ。

 そこは局長室。

 局長席に座る撫子さんが、とくに驚いた様子もなくわたしたちを迎えてくれた。


「あらあら。みなさんお揃いで、どうかなさいましたかしら?」


 真っ先に踏み込んでいったほゆるちゃんが、ドシンドシンと足音を立てながら撫子さんの座るデスクに詰め寄っていき、そして、

 バンッ!

 デスクに両手を勢いよくついて、感情の爆発と同様に大きな音を響かせる。


「聞いてください、撫子さん!」

「……はいはい、聞いておりますよ?」


 落ち着いた撫子さんの声。ほゆるちゃんとの温度差がすごいけど。

 とにかくわたしと現くんも、そのあとに続いて撫子さんのデスクの前に並び、軽く頭を下げる。


「あの桜華って人、ひどすぎます! 今すぐ、指導役の人を変えてください!」

「それは、できませんわねぇ~……」


 局長席のデスクに身を乗り出し、撫子さんにツバが飛び散るのではないかと思うほどの勢いで怒鳴りつけるほゆるちゃん。

 いや実際、かなり飛んでいたに違いない。

 それでも撫子さんは怯んだ様子もなく、淡々と言葉を返してくる。


「局員の人数も、それほど多くありません。とくに郵便配達員は数人しかいないのが現状です。今さら役目を変えるなんてことが、できるわけありませんわ」

「ですが……!」

「あなた方、いったいなにが不満なんですの?」


 撫子さんの問いかけに、ほゆるちゃんはそれまでと同じ勢いで答えようとする。

 そんなほゆるちゃんの肩に手を置き、現くんがそれを止めた。


 続けて現くんは、わたしに視線を送る。

 ……わたしが説明すればいいってことね。


「えっとですね。今まで桜華さんから指導してもらっていましたけど、実はいろいろとありまして……」


 現くんに促されたわたしは、実習を開始してから今日までのことを、かいつまんで撫子さんに話した。


 最初は厳しく、ほんとに罵声を浴びせるくらいの勢いで指導してもらったこと。

 それも少し行き過ぎだったと思うこと。

 さらにそのあと、わたしたちをいたぶるのにも飽きた、と言って、すべての配達をわたしとほゆるちゃんのふたりに任せるようになったこと。

 それからは、ほとんどなんの指導も助言もなくなり、ただ黙ってついてくるだけだったこと。


 口を挟まずに頷きながら話を聞いてくれていた撫子さんは、わたしが話し終えると、こう言い返してきた。


「ふふ、随分とひどいですわね。ですが、桜華さんがそんなことをするなんて、わたくしには信じられません。とても優秀な方ですし、勤務態度も真面目で、いつも責任を持って仕事に臨んでおりますわ」


 ――え?

 一瞬、撫子さんの言葉の意味が理解できなかった。

 さらには、


「あなた方がウソをついている、なんて考えたくはないですが……」


 ぼそりと、撫子さんはそうつぶやいた。

 ギリギリギリ。

 ほゆるちゃんが歯を噛みしめる音が聞こえてきそうだった。


「……失礼しました!」


 くるりときびすを返し、入ってきたときと同じように大きな足音を響かせて、ほゆるちゃんは局長室から出ていってしまった。

 わたしと現くんも、慌てて一礼だけすると、そのあとを追った。



 ☆☆☆☆☆



「待ってよ、ほゆるちゃんっ!」


 わたしの声が届いているのかいないのか、いや、届いてはいるだろうけど、お構いなしといった様子で、ほゆるちゃんは足早に郵便局の廊下をずんずんと突き進んでいく。

 と、そのすぐ目の前、廊下の曲がり角から、女性が飛び出してきた。


「きゃあっ!?」

「あっ!」


 叫んだときにはもう遅い。

 勢い余ったほゆるちゃんは、その人と見事にぶつかってしまった。


 しかも女性は、なにかの資料だろうか、たくさんの紙束を抱えていて、それを盛大にぶちまけてしまう。

 わたしたちには、女性が飛び出してきたように見えたけど、実際にはゆっくりと歩いて廊下を曲がってきただけでしかなかった。

 こっちが悪いのは疑うべくもない。


「ごめんなさいっ!」


 ほゆるちゃん本人よりも早く謝罪の言葉を述べ、わたしは廊下にまき散らされた紙を拾い集める。

 すぐに現くんもほゆるちゃんも、同じように屈んで紙を拾い始めた。


「あ……すみません、ありがとうございます」

「いえ、こちらの不注意ですから。申し訳ありませんでした」


 そうやって声をかけ合っていると、


「あら? あなたたち、スカウト実習に来てる子よね?」


 女性は改めてわたしたちの姿を見回し、そう訊いてきた。


「あ、はいっ、そうですっ!」

「そっかぁ~。大変よね、あの人の指導じゃ」

「……え?」

「あの桜華さんって人、ひどいでしょ?」


 わたしたちは、不意にかけられた優しい言葉に、同じ志を持つ仲間を得たような、そんな気持ちを感じていた。


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