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次の日も、実習の続くわたしたちは、もちろん郵便局へと向かった。
昨日桜華さんが言っていたとおり、今日は最初から配達へと出かけることになった。
「頑張ってきてね」
撫子さんの横に並んで立ち、応援しながら送り出してくれる現くんを残し、わたしとほゆるちゃんは桜華さんのあとに続いて飛び立った。
いいな、現くんは。
今日も優しく丁寧に撫子さんから指導を受けるんだろうなぁ。
思わず恨みがましい考えまで浮かんでしまう。
わたしたちは昨日と変わらず、厳しい声をぶつけられながらも、配達をこなしていった。
昨日渡されたリストにあった住所は三十ヶ所くらいだったけど、今日渡されたリストには、その倍以上の住所が書かれてあった。
桜華さんから聞いてはいたけど、ほんとに昨日は少なかったんだ……。
「おい、夢愛! ぼさっとするな! 飛び方が崩れてるぞ!」
「は……はいっ!」
気を抜くとついつい考え込んでしまうわたしは、何度も桜華さんからの叱責を受けていた。
郵便配達員は、優雅に空を飛ぶ姿が特徴となっている。
だからこそ、いつでも気を緩めず、美しいスタイルで飛び続ける必要があった。
仕事の効率から考えると、見た目なんか気にしないで、がむしゃらに飛んだほうがいいような気もするけど。
それじゃダメなのだ。
優雅さを失わず、なおかつ迅速に。
求められる飛行技術は、やっぱり遥かに高いレベル。
わたしなんかには、とうてい務まる仕事ではないのかもしれない。
だけど、こうしてスカウト実習にまで参加できているのだから、ここは踏んばらないとっ!
ふと見ると、ほゆるちゃんが、大丈夫? といったような目を向けてくれていた。
うん、大丈夫っ。
わたしは軽く笑顔を返し、頷いてみせた。
☆☆☆☆☆
必死に頑張っているわたしではあったけど。
飛行技術の劣るわたしには、幾度となく桜華さんからの怒声が飛んできた。
それはもう、集中砲火と言っても過言ではないくらいに。
「こら、夢愛! 遅れてるぞ! ボサッとするな!」
「足が開いてる! パンツ見られたいのか、バカタレ!」
「ふらふら飛ぶんじゃない! まっすぐ前を見て飛べ!」
「汗が汚らしいぞ! 素早くハンカチかタオルで拭くようにしろ!」
「息が荒すぎる! ある程度は仕方がないが、そんなんじゃ、とうてい優雅とは言えないだろうが!」
「夢愛! 眉間にシワを寄せるな! 苦しくてもそれを感じさせるんじゃない!」
「足をゆらゆらさせるな! だらしない! しっかりと揃えて固定しておけ!」
「髪もボサボサでみっともない! 風になびく印象は大事だが、そこまでいくと鳥の巣としか思えないぞ!」
次から次へと繰り出される叱責の嵐。
わたしはそれを懸命に受け止めて、歯を食いしばっていた。
桜華さんは、わたしのために言ってくれてるんだ。
今はまだ実習を受けているだけの、単なるお手伝いでしかないけど。
いずれは一人前の配達員になれるように、頑張らなきゃっ!
そう思って、涙がこぼれ落ちそうになるのをどうにか堪え、ホウキを操る。
ほゆるちゃんはわたしを心配しているようだったけど、それでも昨日語った決意を理解しているからだろう、なにも言わずに様子を見守ってくれていた。
それでも、桜華さんからの怒鳴り声は容赦なく続く。
「おい、早くしろ! 次に行くぞ! ……ったく、ほんとにトロいなお前は!」
「ひうっ……、ご……ごめんなさいっ……!」
なんだか、単に悪口を言われていじめられているような感覚に陥ってしまう。
でも、負けないっ!
わたしは気合いを入れ直し、遅れないように飛び、必死に追いすがる。
そんな様子を見ても、桜華さんの態度は当然ながら変わることもなく、
「表情が硬すぎる! 風を気持ちよく全身で受け止め、清々しい気持ちで飛べ! まったく……。少しは自分なりに考えろ! このウスノロが!」
わたしはひたすら、厳しい声を浴びせかけられ続けていた。