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追放された聖女は辺境でスローライフを送ることにした。 ~領主様に溺愛されているので、今さら戻れと言われても困ります!~  作者: 葦ノ冬夏


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第一話 王都からの追放

 

 シャンデリアが眩いほどに輝く王宮の謁見の間。

 その中心で、アリシアは冷たい石床に膝をついていた。


「アリシア・ロ—ウェル! 僕は貴様との婚約を破棄し、聖女の称号を剥奪する。貴様のような偽物をこれ以上王宮に置くことはできない!」


 頭上から降り注ぐのは、婚約者である王太子エドワ—ドの怒声だ。彼の隣には、桃色のふわふわとしたドレスに身を包んだ少女、ミラが寄り添っている。ミラは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、わざとらしく潤んだ瞳でアリシアを見下ろした。


「……偽物、ですか」


 アリシアが低く問い返すと、エドワ—ドは鼻で笑った。


「そうだ。聖女鑑定の結果は出ている。ミラの魔力は太陽のように輝き、一瞬で枯れた花を咲かせた。だが貴様の魔力はどうだ? 鑑定水晶をぼんやりと光らせるのが精一杯。何が『癒しの力』だ。五年間も聖女の座に居座りながら、目に見える奇跡一つ起こせない役立たずめ」


(ああ……なるほど。そういうことね)


 誰にも見えないように、アリシアは口元はわずかに緩ませた。


 (やっと……やっと辞められる! 有給休暇なし、残業代なし、超ブラックな聖女という役割からようやく外される……!)


 アリシアの癒しの力は、エドワ—ドが言うような役に立たないものではなかった。彼女はこの五年間、寝る間も惜しんでこの王都の全域に広域結界を張り、水源を浄化し、作物の根に生命力を注ぎ続けてきた。彼女が目立たない地味な仕事を完璧にこなしていたからこそ、ここ数年、飢饉も疫病も、魔物の襲撃すらも経験せずに済んでいたのだ。

 そして、ミラがエドワ—ドに披露した『奇跡』の正体を、アリシアは見抜いている。あれは植物の寿命を前借りして強制的に開花させる、ただの強化魔法だ。後でその植物は必ず枯れる。だが、目先の華やかさにしか興味のないエドワ—ドには、それが真の聖女の力に見えたのだろう。


「お言葉ですが殿下。私は私なりに、この王都を支えてきた自負がございます。結界の維持や浄化がもしできなくなってしまえば、このエルフレイムがどうなるか……」

「黙れ! まだ嘘を吐くか。ミラという本物が現れた今、姑息な言い訳など無意味だ」


 エドワ—ドはアリシアに背を向け、冷酷に言い放った。


「貴様は即刻、この王都から出て行け。……そうだ、北の果てにある辺境領、コ—ルドランドが妥当だろう。あそこなら、貴様のような出来損ないの偽聖女がお似合いだ」


 コ—ルドランド。一年中雪が降り積もり、凶暴な魔獣が彷徨う、誰もが忌避する最果ての地だ。貴族なら死刑宣告に等しいその命令を聞いた瞬間、アリシアはこれ以上ないほど深々と頭を下げた。


「……承知いたしました。殿下のご命令、謹んでお受けいたします」


 声が震えている。それは絶望のあまりの震え……いや、違う。アリシアは、笑いを堪えるのに必死だった。


(北の果て! 最高じゃない! あそこなら王宮からの呼び出しも届かないし、面倒な夜会に出る必要もない。自給自足の静かな暮らし……憧れのスロ—ライフが待っているわ……!)


 アリシアは立ち上がり、最後にもう一度だけ王太子たちの方を見た。ミラは、エドワ—ドの腕にしがみつきながら、甘ったるい声で囁いている。


「殿下ぁ、私、明日からの祝祭のために、もっとたくさんお花を咲かせてみせますね!」

「ああ、頼むよミラ。本物の聖女である君がいれば、このエルフレイムはますます栄えるだろう」


 アリシアは心の中で『お幸せに』と毒づき、踵を返した。


(さようなら。私を使い潰そうとした愚かな者たち)


 最低限の荷物だけを馬車に積み込み、アリシアはエルフレイムを離れた。用意されたのは、ガタガタと音を立てるボロい荷馬車一台。護衛もいない。


「お嬢さん、本当に一人で行くのかい? 北の果てなんて、女一人生きていけるような場所じゃないぜ」


 御者が同情混じりに声をかける。


「ええ、大丈夫です。私、これでも結構しぶといんです」


 アリシアは、馬車の座席に深く体を預けた。聖女としての義務感から解放された今、彼女の心は驚くほど軽い。これからは、自分のために力を使おう。美味しいお茶を飲み、ふかふかの布団で眠り、好きな時に庭をいじる。仕事に追われて鏡を見る暇もなかった生活とはおさらばだ。


 馬車が出発し、しばらく経った頃。エルフレイム全体を包んでいた広域結界が消えた。結界を張った主であるアリシアとの距離が離れすぎたからである。そして、王都で異変が始まった。街路樹の葉はどこか元気がなくなり、いつも清らかだった水路には、薄っすらと濁りが混じり始めている。それに気づく者は誰一人としていない。


「待っててね、私の最高のスロ—ライフ!」


 この先で待ち受ける運命——冷徹と謳われる辺境伯ゼノスとの出会いが、彼女の人生をさらに大きく変えることになるとは、この時のアリシアはまだ知る由もなかった。


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