その一
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視ていないから見えないのです。本当にそれが無いのではなくて。
あなたは『それが無い』と断定出来るだけの材料をもっていません。あなたにとって無い、それはあなたにそれが見えないという事実以上の普遍性をもっていません。それに、そこは目で視るところではないのです。生きてきた人生で視る次元なのです。悲しい願いを抱き続け生きて来た人生無しに、それが見えて堪るものですか。
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「故郷を離れて暮らす、それだけでも大変だ。それで一端の人間であると装うだけでも、そういう顔をするだけでも、私は自分の力の大半を費やさなければならない」
そういう述懐を聴きたいです。そういう心に触れたいです。どうしてか。飾らない本心だからです。更にその飾らない本心を偽らずに告白する勇気と真正直だからです。その虚飾無き本心の純粋と勇気と真正直は、そのまま私に生きる力をくれるからです。
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よくテレビで大企業の社長や経営トップの人が記者会見、お披露目をしていますね。新製品新サービスの案内や経営の方針転換、他社との合併等で。華々しい演出で会場も照明も凝ったものにしています。けれども十分な資産を既に保有しているのに、全く『安心』というものが見えません。それは絶えず走り続けないと転ぶからです。もう自分一人の判断では動けません。多くの人の利害が、その欲求と警告が自分を取り巻いて仕舞っているからです。そういう人達は明日を生きるお金が無い苦労はありません。でもその代わりに全く別の、矢張苦しい苦労があるのです。そしてそれはそう簡単には振り捨てられません。言った様に自分以外の人間の利害がもう絡んで仕舞っているからです。
自分に必要なものが何なのか、自分が求めているものが何なのか、実にそれを知って下さい。要りもしないものに懸命になって、要りもしないものを自分の周囲に山と積み上げる事がない様にして下さい。人は褒め、羨ましいと言ってくれます。媚びて来る人間すら居ます。ところが自分自身は常に思っているのです。
「これで本当に私は満足なのか、これが私の喜びなのか」
しかも自分がそう思っている事実を周囲に対して隠しながら。これは幸福とは違います。少なくとも私が幸福と看做す事が出来ないものです。繰り返します。自分に必要なものが何なのかを知って下さい。
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「お金がこれだけ貯まった。さて何うしようか」
殆ど無一文から蓄える事を始めたのなら、これは嬉しいでしょう。気持ち分かります。是非暫くの間はその楽しい夢の中に遊んで下さい。でもそれが済んだら、お金を自分が納得出来る形でつかう事の難しさに直面して唸って下さい。実際、これは難しいですよ。気を抜くとこれは激しい後悔の理由になります。自分でも阿呆かと思う程馬鹿馬鹿しい事に消費して仕舞う事があるからです。
いつまでも無一文からお金を貯め始めた時の気持ちを忘れないで下さい。その気持ちは大切です。それを忘れた瞬間から金持ちらしい、退屈さを満面に表した下卑た顔付きになるのです。
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